英紙ガーディアン(The Guardian)が従来の「広告で成り立つ」ビジネスから「読者が支える」ビジネスへのシフトを加速させている。このほど全世界に向けてリリースした料理とレシピのアプリ「フィースト(Feast=ごちそう)」は、この取り組みの一環だ。

ガーディアンニュースアンドメディア(Guardian News and Media)でチーフサポーターオフィサーを務めるリズ・ウィン氏は、「私たちは目下、収益モデルの転換期にある。読者から直接入る収入は継続的に伸びており、料理アプリの『フィースト』はそれを加速させる最新の試みだ」と述べている。

フィーストのキュレーションは、ガーディアンのフード部門長のティム・ラシャー氏が率いる「食」関連の編集部が担当する。1月にベータ版が公開され、その後iOS版とAndroid版がそれぞれ4月と6月にリリースされ、現在は世界中で利用できる。

読者の70%は英国外に



「我々が思い描いたのは、きら星のような花形シェフたちが試行錯誤の末に完成させたすばらしいレシピ集だ。簡単に調理できるレシピを集め、食材や食事制限の条件から簡単に検索できるアプリを作ろうと考えた」と、ラシャー氏は言う。

フィーストは3万件のレシピを収めたガーディアン保有のアーカイブから、調理の手順をステップバイステップ形式で抽出する。アクセスしやすく、分かりやすい説明を実現するために機械学習とAIを活用している。

ウィン氏はこのアプリのために用意している数々の「エキサイティングな計画」については口を閉ざしたが、すでに搭載しているいくつかの機能について紹介してくれた。たとえば、次の調理手順に進む際、指の関節で画面をタップできる機能(濡れた指や粉まみれの指でスマホやタブレットに触れずにすむ)、調理モード(調理中は一定時間操作しなくても画面消灯しない)、カップ計算機(食材の計量時、グラムをカップに変換したいときに便利)のほか、食材辞典も利用できるという。

「このアプリには驚異的な海外リーチがある」とウィン氏は話す。「いまやガーディアンは極めてグローバルなメディアだ。私たちの読者の70%は英国外にいる。そのため、読者の所在地や季節を正しく反映させるなど、ホームページの構成にはとても気を遣っている」。

このアプリは読者のサポーター化という件の計画を、2つの方向から加速させるために使われる。ひとつは魅力的なコンテンツを提供することにより、読者にガーディアンに対する経済的な支援を促すこと、もうひとつは新規の読者にリーチを伸ばすことだ。

「我々ガーディアンは優れたニュース報道で広く知られているが、実はそれだけではない」とウィン氏は話し、「フィーストを活用して、我々と関わりを持ち、支援してくれる読者層を広げることができる。従来のコンテンツだけでは必ずしも支援に前向きでなかった人々も、すばらしいレシピと料理のアプリに興味を持ち、積極的に使ってくれると期待している」と付け加える。

サブスクリプションの拡充



この手法はいわば誰もが通る「よく踏み固められた道」であり、ニューヨークタイムズ(The New York Times)なども使ってきた常套手段である。たとえば、ニューヨークタイムズは週額または月額の支払で同紙の全コンテンツにアクセスできる定額プランを提供している。2014年にはiPad向けに独自開発のクッキングアプリをリリースした。その後、Android版を追加するなど、広告収入からサブスクリプション収入へと軸足を移すための手段として着々と進化を遂げ、現在に至る。ちなみに利用料金は月額6ドル(約870円)だ。

現在までに、ニューヨークタイムズのクッキングアプリを利用する有料会員は過去4年間で3倍以上に増えているという。

対するガーディアンは月額払いまたは年額払いで3種類の定額プランを提供している。「サポート」(サポーター限定の週刊ニュースレター)、「オールアクセス」(電子版への無制限アクセス、広告の非表示、アプリへのアクセス)、および「デジタル/プリント」(電子版と活字版へのアクセス、プラス紙媒体のマガジンを宅配)の3種類だ。また、読者は各記事の読後に寄付することもできる。プレミアムアプリのフィーストは14日間のトライアル期間終了後、月額2.99ポンド(約560円)で利用できるという。

コンバージョン率は並外れて高い



イーマーケター(eMarketer)のシニアアナリストであるマックス・ウィレンス氏は、「ガーディアンは読者から寄付を募る戦略でなかなかの成功を収めている。基本的には、ジャーナリズムの重要性、あるいは公共の利益にとって決定的に重要な問題を報道することの必要性について、読者の感情に訴えることで寄付を集めてきた」と説明し、こう続ける。

「それはレシピの利用料として月額料金を請求するのとはまったく別の話だ。そうしたレシピの多くは、検索すればいくらでも見つかる無料のレシピとそれほど変わらないだろうし、読者はすでにニューヨークタイムズやコンデナスト(Condé Nast)、クックスイラストレイテッド(Cook’s Illustrated)などの有料アプリを使っているかもしれない」。

ウィン氏は具体的な数字は出さなかったが、ガーディアンのサポーターが100万人を優に超え、読者の70%が食に関するコンテンツを読んでいることを明かした。ガーディアンはこのアプリの利用が大きく進み、将来的に売上の「極めて重要な部分」を占めるようになると確信しているようだが、ややあいまいな概要説明からその自信の理由がある程度察せられる。

「トライアル期間はある種の試金石で、重要なのは無料体験の利用者のうち、何人が有料契約に移行するかということだ。これまでのところ、このコンバージョン率は並外れて高く、社内の予想を大きく上回っている」とウィン氏は語ったが、具体的な数字やパーセンテージは明かさなかった。

[原文:The Guardian moves closer to being a reader-supported business as it launches new cooking app]

Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)