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世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、40代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなる!?第27回は「森高千里を完コピした私はおばさんになったのに、森高は老けない」です。

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君は知ってるか、森高伝説を

「……わ、いい匂い」

少し前に仕事現場で森高千里さんとすれ違った。彼女は今年55歳とは全く思えないほど、美しく、どこかのブランドの香水とはカテゴライズし難い、とても、とても良い香りがした。その日インタビューした女優さんの印象が吹っ飛ぶほど、(敢えてこう呼ぶが)森高は神々しかった。

なぜなら森高千里は昭和生まれ、平成青春育ちのミューズだったから。かつて彼女は派手な衣装で、ミニスカートをいつも履いていた。『ザ・ストレス』『17才』『私がオバさんになっても』とヒット曲を連発。1990年代初頭、おそらく森高から発せられた“美脚”ブームに乗っかった田中美奈子が『涙の太陽』を歌って、超ミニスカで、脚に1億円の保険をかけたことも話題に上がった。

でも森高は美脚領域に関しては追随を許さず、五臓六腑を感じさせない細いウエストで、ハイヒールを履いて歌番組に出演していたことを記憶している。その後、俳優の江口洋介さんと結婚、出産した1990年代後半から少しずつ露出が減った森高。それがお子さんの成長と共に芸能界へ復帰、往年の曲をテレビでも披露。ライブ活動も行っている。

が、彼女は全く老けていない。『私の夏』を歌っていた森高と、中高年になった森高は全く変わっていない。疑う人はYouTubeで、昔の彼女を検索して欲しい。

この現象は話題を呼び、連日ネットニュースを騒がせている。私が見ている限りだが、20代のようなパーン! とした勢いが消えた代わりに、妻や母としての柔和さがプラスされて、美は洗練されていた。トレードマークのミニスカも健在。何をどうしたら彼女のようにオバさんにならないでいられるのだろうか。森高とすれ違った瞬間に嗅いだ匂いを思い出しながら、私は一人、カラオケに向かった。

私はオバさんになってしまった

若い頃は週末になると、朝までカラオケかクラブで友人たちと遊んでいるのが恒例だった。それが40代半ばを迎えたあたりから、カラオケは一人で行く。「今日は休みだ」と決めた日は昼間のフリータイムで、酒と弁当を持ち込んで5時間くらいは平気で居座って、歌う。


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実は森高千里の『私がオバさんになっても』は、20代から私の十八番だった。運動神経はすこぶる悪いけど、振り付けを覚えることだけはなぜか得意だった10〜20代当時。もちろん、あの独特な動きの振り付けを完コピしていた。

なんとなく覚えただけなのに、社会人になり、二次会のカラオケでこのワザが意外にも大活躍。他にも松田聖子、松浦亜弥といった往年のアイドルの振り付けもマスターしていたので、カラオケで(自分で言うのもあれだけど)一躍人気者だった。年末になると忘年会のお呼ばれで忙しかったし、「すげえ面白い編集者がいる」と噂を聞いたライターさんがわざわざ、カラオケを見に来てくれることもあった。そんな私だからこそ、森高には特別な思いがある。

カラオケボックスに入室、『私がオバさんになっても』を入れる。大丈夫、私は森高よりは年下なんだもの。歌えるはずだわ。

そう思い込んで挑んだ数年ぶりの1曲は、死闘だった。まず曲に振り付けが追いつかないし、動きがスムーズではない。歌って踊って、を同時に進行させると、息切れがすごい。自分の体力を計算もせず、駅の階段を駆け上がってしまった“うっかり徒労感”が波のように押し寄せてくる。

「かっこいいことばかり言っていても歳を経ればお腹が出てくる」

という趣旨の歌詞の端端を噛み締めながら、フルコーラスを終えた。うっかり足を踏み外したら、骨折もするかもしれないオバさんだ。久々に歌い踊った得意だったはずの一曲は、期せずして(?)命懸けになってしまった。

森高はきっと惑星の人

何を食べ、何を考えて生きたらあんな若々しさが宿るのだろうか。改めて最近の森高の映像を見ていると、年齢に焦り、抗った整形の様子は感じられない。

余談になるが、雑誌全盛だった時期に美容記事が専門だった私は、目が鍛えられた。無理をした整形や、加工した肌は嫌でも判別できるようになってしまった。昨今、女性の間では年齢を問わず、整形をすることに昔ほど抵抗がなくなっている。でもドクターがどんな精巧な技術を持って施術しても、不自然さは否めない。先日も立ち飲み屋で女性客がこんなことを声高らかに言っていた。

「最近の整形は前向きなものだし、安くできるし、気分転換になっているんだから」

その女性はヒアルロン酸注入も含めて、定期的に行っているらしい。が、やはり顔のパーツがアンバランスになっているし、彼女の酒場演説を聞いていると、もうやめられなくなっているようだった。

そんな香りは一切漂わせず、ただただ家族に愛されて生きていたら、オバさんにならなかった森高。きっと彼女は惑星から来たのではないだろうか。私たちは森羅万象の一環として地球上に存在するけれど、森高は違う。どこか知らない惑星からやってきた。そしてひと仕事を終えたらまた惑星へと帰っていく。たまーに見かける、ナチュラルエイジレス女性は全員そうだ。そんな馬鹿なことでも妄想していないと、あの現実美は受け止められない。

「ミニスカートは無理、若い子には負ける」と森高は歌う。

大丈夫、森高は負けない。あと5年くらい、絶対負けない。