この記事をまとめると

■新車ディーラーの販売現場ではセールスマンの「働き方改革」がだいぶ進んでいる

■以前は深夜残業や週休1日だったが、最近では半ば強引に有休や週休2日を押し進めている

■休むことは大切だが給料の面が変わるどころか減ってしまっているのは問題

「2024年問題」と「働き方改革」で現場は大混乱

 いまトラックによる貨物輸送業界や、バス業界では「2024年問題」が顕在化している。スーパーへ行けばトラック輸送が開店までに間に合わず欠品が多数発生、バス業界では減便や路線廃止が都市部なども含め全国的に発生している。「働き方改革」の名のもとに時間外労働時間の規制強化が大きな問題となっている。

 周辺環境を整備せずに勤務時間だけを減らしているので、従事する運転士の収入減も発生し、離職も相次いでいることが問題をより深刻なものとしている。現場では「行政当局の創造性の欠如」といった声もよく聞かれる。自分たちの働き方以外に理解を示そうともせずに施策を進めた結果がいまの大混乱に陥ったというわけである。

 長時間労働といえば、過去には新車販売の世界でも当たり前であった。「夜間訪問」というものがあり、夜間に購入見込み客の自宅を訪れて販売促進を行うというのが常態化というか、主たる業務でもあったのが昭和や平成初期のころの話であり、当時「新車販売は夜の仕事」ともいわれた。そのため、帰宅時間が連日深夜になるのも当たり前であった。

 またバブル経済のころには出勤すればするだけ、店を開ければ開けているだけ新車がよく売れた。そのため、セールスマンのなかには1カ月連続出勤するなんてことも珍しくなかった。

 バブル経済崩壊後もしばらく新車販売のスタイルはバブル経済当時のものを基本的に踏襲していたが、「失われた20年(いまは30年だけど)」などともいわれるほど、日本が低成長時代に入り、新車販売にも長期的に勢いがなくなると、とりあえず年中無休などとして毎日夜遅くまで店を開けるほうが経費はかかるとして「定休日」を設ける新車ディーラーが出てきており、いまでは定休日を設けないディーラーのほうが珍しい存在となった。店全体を週休2日するケースもあり、さらに週休3日も検討されているといった話も聞いている。

 そして平成後期には、いまのZ世代より少し前の世代あたりから世の中では「働き方改革」が叫ばれるようになった。勤務する若手セールスマンではなく、その親から、「働かせすぎだ」とか、「毎晩遅くまで働かせるのはおかしい」などとディーラーにクレームが入るようになり、なかには労働基準監督署へ告発する親まで出てきた。労務監査に入られるディーラーも出てくるようになり、トラックやバス業界よりひと足早く働き方改革が半ば強制的に進むこととなった。

 現状では、多くのディーラーで残業は原則禁止となり、午後7時ぐらいまでには閉店することが多くなっている。もちろん夜間訪問も原則禁止となっている。バブルのころには週1日休めるか休めないかであったので、有給休暇の消化などは夢のまた夢であったが、最近では半ば強制的に有給休暇を取得させられるようになっているようだ。また、土曜や日曜に子どもの運動会などで休みたくても同調圧力もあり過去には休めなかったのだが、いまでは平気で休むことのできる環境になったとのこと。

 バブルのころでも、年末年始、5月の大型連休、お盆あたりは長期間休みがとれたのだが、大型連休の前後の週末は店を開けるのが半ば慣例ともなっていたが、2024年5月の大型連休をみると、大企業並みに土曜・日曜も休むディーラーが目立っていた。

働き方を変える前に労働環境全体の改革が必要だ

 定休日も働き手不足が深刻化してきているのも手伝い、週休2日のディーラーも出てきている。つまり、労働時間だけをみると、現状は以前よりはるかに改善されているのだが……。

 筆者はいまのような、販売現場の働き方改革が始まったころにベテランセールスマンに、「残業もできない、休みも多いなかで、いつ新車を売っているの?」と聞くと、「最初はどうしていいかわかりませんでした。いまは点検などで店を訪れる管理顧客のお客さまへ乗り換え促進することがメインになっています」と話してくれた。

 買う側もいまでは自宅、ましてや夜間にこられても困るし、日本でも治安上の問題も出てきており、そして非効率な売り方なのは明らか。休みが多くなり、帰宅時間が早くなることでの生活リズムの変化にも対応できるようになったのだが、給料がなかなか上がらないことに問題があるようだ。

 新車販売における値引き原資はディーラー利益を削るのが一般的。しかし、インフレが進むなか、物流経費や部材費高騰により新車の価格も値上げ傾向が目立っている。コストアップをすべて値上げで吸収するものとはなっていないので、値引きはかなり引き締まっているのが現状だ。さらに、セールスマン個々へ払われるセールスマージンも厳しく引き締められているようだ。

 もちろん、ディーラー個々で状況は異なるのだが、筆者が聞いた限りでは、単に新車を販売するだけではなく、ローン利用の有無などの細かな条件をクリアするなか、月々などで決められた粗利確保をクリアできないとマージンが一切払われないというものであった。つまり、「足切り」が設けられているのである。

 休みは多くなり、日々の勤務時間は短くなったものの、いわゆる「ノルマ」と呼ばれる販売目標台数の設定などは大きな変化を見せていないなかでマージン支給のルールが細分化して、支払われる額は少なくなってきているようで、収入の伸び悩みを見せている。これは話題の2024年問題に揺れるトラックやバス業界に似ているのかもしれない。

 世の中でいう「働き方改革」の特徴は自由な時間は増えるが、その分だけ収入は減ってしまうということになりがちなようである。トラックやバスは乗務回数、新車販売は販売台数という、ある意味「人事考課」があるし、それに対する手当も収入面では重要な存在となっているので、給与支給のシステムなど、労働環境全体の改革を進めなければ、単に勤務時間だけ減らせば歪みが出てくるのは当たり前といえば当たり前の話である。