掲載:THE FIRST TIMES

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全世界でのストリーミング累計1億回は突破し、各種チャートを総ナメ。SNSでは『#BBBBダンス』も注目を集める、Creepy Nutsが世界に到達した「Bling-Bang-Bang-Born」を考察する。

【Creepy Nuts - Bling-Bang-Bang-Born / THE FIRST TAKEを元記事で視聴する】

■国内外のチャートを席巻する「Bling-Bang-Bang-Born」とは?

・歌唱アーティスト:Creepy Nuts
・リリース日:2024年1月7日
・作詞:R-指定
・作曲:DJ松永
・収録作品:両A面シングル『二度寝 / Bling-Bang-Bang-Born』
・タイアップ情報:TVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』オープニングテーマ

Creepy Nutsが2024年1月7日にリリースした「Bling-Bang-Bang-Born」の勢いが止まらない。日本国外からの注目も決して低くなかった彼らだが、「Bling-Bang-Bang-Born」は10カ国以上のiTunesヒップホップチャートで1位を獲得、TikTokなどSNS系も含めた様々な音楽ランキングでも好成績を収め、世界規模でのヒットとなっている。

その要因として大きいのは“日本の文化産業の中でも海外へのアプローチ力の高いアニメカルチャー”、“TikTokを始めとするショート映像の流行”、“言語の壁を突破するミニマルで中毒性の高い楽曲構築とラップ”という、3つの要素が絡み合ったことだろう。

アニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』のOPに起用され、リリースと同時にYouTubeに公開された“OPムービー”は、“Bling-Bang-Bang-Born”というフレーズに併せて踊る主人公のマッシュ・バーンデッドのダンスがミーム化。それをカバーするダンス動画が『#BBBBダンス』としてTikTokを始めとするSNSメディアで拡散。数々の著名人が動画をあげたことでも話題となった。

またDJ松永が手掛けるトラックは、世界的な流行を見せる音楽ジャンル“Jersey Club”を採用し、『#BBBBダンス』パートのR-指定のラップもオノマトペ的な言語感覚があり、世界と直接連動することでポピュラリティを獲得したといえる。

■「Bling-Bang-Bang-Born」の意味は?歌詞考察 

Bling-Bang-Bang-Born
作詞:R-指定
作曲:DJ松永

チート、Gifted、荒技、Wanted
禁忌、禁じ手、明らか盲点
反則、異次元、この世のもんではないです
無理ゲー、それ聞いてないって…
Ay, ライバル口を揃えて
Wow, ライバル口を揃えて
バグで、まぐれ、認めねーゼッテー
マジで?コレおま…全部生身で?

It's 生身 It's 生身 yeah yeah yeah yeah
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born

実力を発揮し切る前に
相手の方がバックれてくらしい
上がり切るハードル Very happy
あきらかにダントツでピカイチ
相変わらず脱皮してる毎日 (Bling Bling Bling)
誰の七光も要らないお前のiceよりicy (Icy)
俺、パッと見出来ない事ばっかりだけど Very happy
あ、キレてる…呆れてる周り
恵まれてる家族友達 (Happy)
もう反則的立ち位置、皆俺に任せとけば良い (Bang Bang Bang)
教科書に無い、問題集に無い
超Badな呪(まじな)い Listen

鏡よ鏡答えちゃって
Who's the best? I'm the best! Oh yeah
生身のまま行けるとこまで
To the next, to the 1番上

Now singin'
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
(Now singin')
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
(Now singin')
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
To the next, to the 1番上

Eyday 俺のままで居るだけで超 Flex
Eyday 誰も口を挟めない (Don't test)
Eyday 俺のままで居るだけで超 Flex
Eyday 誰も口を挟ませない (Don't test)

Yeah, yeah, yeah
学歴も無い前科も無い余裕で Bling-Bling
この存在自体が文化財な脳味噌 Bling-Bling
高級車は買える免許は無い愛車 Green, Green
全国各地揺らす逸品
このベロが Bling-Bling
バレットなら満タン
関西訛り生身のコトダマ
音楽、幸運、勝利の女神、今宵も三股 Bang-Bang
漫画みたいな輩とまんまで張りあえてしまってる漫画
圧倒的チカラこの頭と口から
この身体 Tattoo は入って無い
このツラに傷もついて無い
繰り返しやらかしてくダメージが
イカつい年輪を刻む皺
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
俺のままで BlingしてBangしてBangする為にBornして来たニッポン
Ay

鏡よ鏡答えちゃって
Who's the best? I'm the best! Oh yeah
生身のまま行けるとこまで
To the next, to the 1番上

Now singin'
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
(Now singin')
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
(Now singin')
Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang, Bling-Bang-Bang-Born
To the next, to the 1番上

Eyday 俺のままで居るだけで超 Flex
Eyday 誰も口を挟めない (Don't test)
Eyday 俺のままで居るだけで超 Flex
Eyday 誰も口を挟ませない (Don't test)

この曲は、“Bling-Bang-Bang-Born”という聴感のキャッチーさと同時に、発声した時の“口気持ちのよさ”が印象に残り、それは世界中から発信されている数々のラップカバーに繋がるだろう。バ行を発声する際の“唇の震え”は、“バブバブ”のような赤ちゃんが発する喃語のような原初的な気持ちよさがあり、特に“Bling”での“ブ”の破裂音を強調した発声は、その部分を強く押し出す。それは同時に“blam”や“skrrr”のように“含意を超えた聴感上の面白さを持つキャッチーなオノマトペ”にも通じ、それが日本語話者以外にも需要された要因になるだろう。

ラップの聴感で言えば“OPムービー”で使われたパートの、1拍目に母音“A”を置き強調するフロウや、多用される母音“A”と“I”、“A”と“I”を中心に構成される短い脚韻は、ミニマルなJersey Clubビートとの相性も含め、“言葉の意味は分からずとも面白い”という純粋に耳心地を刺激する訴求力を持っている。
“Bling”はヒップホップでは“アクセサリーや宝飾品”“成功の証”を表す場合が多く、Creepy Nutsも「耳無し芳一Style」などで使ってきた。

“自身がいかに優れているかを表現するゲーム”という側面を持つラップカルチャーにおいて、それを即興で提示するMCバトルの猛者であったR-指定にとって、これはお家芸ともいえる。いっぽう、そのフレックス(“成功と自画自賛”)の表現は“高級車は買える免許は無い愛車 (green, green)”、つまり“グリーン車に乗れる=サクセス”という日本独特の“上手い事いう”表現であり、彼ららしい。しかし無理に英語を増やしたりせずに、“Creepy Nuts的な表現”を研ぎ澄ませた先に、世界がその楽曲を求めた事実は、非常に痛快であり、これからの日本語でのラップ表現の一つのロールモデルとなり得るだろう。

また『マッシュル-MASHLE-』の“天賦の才能が必要な魔法の世界を、努力で獲得したフィジカル(脳筋)で勝ち上がる主人公”という構造と、“物語性や背景が重要視されるラップゲームを、努力で獲得したフィジカル(ラップスキルとトラックメイク)で勝ち上がるCreepy Nuts”という世界観の連結は見事。

■『THE FIRST TAKE』での「Bling-Bang-Bang-Born」

もはや『THE FIRST TAKE』の常連ともいえるCreepy Nuts。「かつて天才だった俺たちへ」や「堕天」ではその緊張を隠すように冒頭でおしゃべりしていた二人だが、今回は無言で登場。セットが済むとR-指定が指で合図をし、DJ松永がすぐさまレコードを擦り、タイトにライブをスタートさせる。

やはり驚かされるのは、ノンビートのイントロに間違いないタイミングで入り、ビートのみで構成された冒頭でもラップのコードもフロウも外さないR-指定のラップ力の高さだ。DJ松永もそれに負けじとBPM160弱の高速ビートにタイトなスクラッチを乗せ、原曲でも印象的なBメロ前のバックスピンもリアルタイムに決める。そしてサビでは二人で#BBBBダンス!…を決めることはなかったが(笑)、“この身体”からのパートでは、松永がビートを抜き差しし、ライブならではの“肉体性”を映像に落とし込み、「Bling-Bang-Bang-Born」の新たな表情を提示した。

■Creepy Nutsのこれまで
◎Creepy Nuts(読み:クリーピーナッツ)

・結成:2013年
・メジャーデビュー:2017年
・デビュー作品:1st シングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」
・メンバー:R-指定、DJ 松永

グループ:コッペパンとして活動していたR-指定と、DJ/トラックメイカーとして活動していたDJ松永がクラブイベントで出会い、2013年に結成。Creepy Nutsというユニット名の“Nuts”には、スラングとして“クレイジー”や“睾丸”という意味があり、それらと“奇妙な”という意味を“Creepy”を接合して名付けたようだ。

結成当初からロック勢との対バンやイベントに積極的に参加。R-指定は観客からのお題を即興で織り込むフリースタイルや、DJ松永はスクラッチ/ターンテーブリズムの披露など、ヒップホップシーン外へのヒップホップの提示など、独自の路線を切り開いていく。

2015年に「刹那」を音源リリース。同年リリースの「合法的トビ方ノススメ」のMVがバズり、また2016年に単発でスタートし、後にレギュラーとなった『オールナイトニッポン』などでの二人の軽妙なトークも話題となり、注目度を高めていく。

2017年に「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」でメジャー進出。2018年には1stアルバム『クリープ・ショー』をリリースし、2020年には初の武道館公演2DAYS『Creepy Nuts One Man Live「かつて天才だった俺たちへ」日本武道館公演』を成功させる。2021年には内面と向き合った『Case』、2022年には物語性を強く込めた『アンサンブル・プレイ』を制作し、作品ごとに新たなアプローチを提示。

また般若やRhymester、緑黄色社会などをバラエティに富んだ人選を迎えた対バンイベント『生業』や、数々のフェスへの参加など、ヒップホップとポップフィールドを連続させるアプローチを展開。名実ともに日本のヒップホップシーンの先端を走っている。

■実力の高さは折り紙付き!メンバープロフィール
R-指定(読み:あーるしてい)

・ポジション:ラップ
・生年月日:1991年9月10日
・出身地:大阪府堺市

全ての曲のラップを手がける。中学でヒップホップに出会い、高校生で梅田サイファーに参加。KOPERUやペッペBOMB、KennyDoesらとユニット:コッペパンとして動くと同時に、MCバトルに参戦。当時の最高権威だったMCバトルの全国大会『UMB』にて3連覇を果たし、最強のバトルラッパーとして君臨。ソロ「セカンドオピニオン」のリリースと並行し、Creepy Nutsを結成。『フリースタイルダンジョン』にはモンスターとして登場し、お茶の間レベルで注目される。またCHICO CARLITOやAyaseなど、ジャンルを問わない数々のアーティストの楽曲に客演参加。日本語ラップを紹介する連載『Rの異常な愛情』は単行本化もされている。

DJ松永(読み:ディージェーまつなが)

・ポジション:DJ、Track Maker、Turntablist
・生年月日:1990年8月23日
・出身地:新潟県長岡市

全ての曲のトラックを手がける。中学校でヒップホップに出会い、高校2年でターンテーブルを購入。トラックメイクもはじめ、2012年にソロアルバム『DA FOOLISH』を制作。フロアDJの活動と並行し、2014年には「トレンチコートマフィア feat. R-指定」などが収録され、SKY-HIやサイプレス上野が参加した『サーカス・メロディ』をリリース。同時期には同郷であるHilcrhymeのTOCのソロライブでのバックDJも務める。2020年にはターンテーブリズムの世界的大会『DMC』の世界王者を戴冠。ラジオ『ACTION』のパーソナリティや、『文學界』での連載、俳優業など多方面で活躍する。

■聴くべき人気5曲解説
「のびしろ」

2021年リリースのアルバム『Case』に収録された、お互いに30歳という節目を迎えたことをきっかけに制作された一曲。シリアスに自己と向き合う『Case』の中で、ポジティブもネガティブもひっくるめ、これまでの全ての経験を踏まえて“のびしろしかないわ”と高らかに歌い上げ、新たなCreepy Nutsの代表曲となりロングヒット。『THE FISRT TAKE』でも披露され(その模様はアルバム「アンサンブル・プレイ」に収録)、ライブでも終盤やエンディングに披露されることの多いキラーチューンとなっている。

「合法的トビ方ノススメ」

2016年1月リリースの『たりないふたり』に収録。ドラッグやセックスなどの事柄を直接的なワードを使わずに暗喩表現、周辺表現で浮かび上がらせるR-指定のリリックと、オーセンティックだが現在に繋がる独特の軽やかさを持つDJ松永のビートが結合。そしてそれらを超えた快楽が“タンテとマイクロフォンよこせ”、つまり“Creepy Nuts”であり“音楽”だと宣言した。DJ松永が着物で走るMVも話題に。アルバム『クリープショー』にはバンド:SPARK!!SOUND!!SHOW!!が参加した「新・合法的トビ方ノススメ」が収録された。

「堕天」

2022年9月にシングル『堕天』のリード曲としてリリース。“堕天”というワードや“螺旋状に堕ちてゆく摩天楼に”など、天地が逆さまになったような世界観や、アダムとイブの神話をモチーフにしながら、“蜜の味二人ハマってく”と、その甘美な共犯関係を形にしていく内容など、独特の世界観は、OPとして起用されたアニメ『よふかしのうた』からの影響も感じさせられる。その内容とDJ松永流のエレクトロスウィング解釈とも言える、ジャジーかつアッパーなダンスビートの組み合わせが心地よい。ライブより先に『THE FIRST TAKE』で初披露された。

「たりないふたり」

デビュー当時の屈折具合や“陰キャ”感を考えると(そういった部分が『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』などで注目を集めた理由でもあるだろう)、誰が彼らをヒップホップのみならずポップスシーンのスターとなることが想像できたであろうか…。そういった“歪み”や“寄る辺なさ”が前面に押し出された楽曲がこの「たりないふたり」。ひたすら屈折したメンタルを言い募り、最後は“Creepy Nuts”、つまりそれこそが自分たちだと宣言するクレイジーな一曲。タイトルはオードリー若林と南海キャンディーズ山里のユニットより。

「よふかしのうた」

2018年12月に配信リリースされ、2019年にはミニアルバム『よふかしのうた』に収録。共にラジオリスナー、特にDJ松永は『オードリーのオールナイトニッポン』のヘビーリスナー(リトルトゥース)であり、二人も『ANN』のパーソナリティを務めるなど、深夜ラジオとも縁が深い。そして『オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー』のテーマ曲として制作された本作は、ラジオやクラブ、夜遊びといった“夜”という時間帯の魅惑を歌詞に落とし込んでいる。またMVはオードリー春日が当時住んでいた“むつみ荘”をロケ地にしている。

■Creepy Nutsの今後の活動に注目

「Bling-Bang-Bang-Born」と、ドラマ『不適切にもほどがある!』の主題歌「二度寝」が両A面となったシングルのリリースし、3月からは全国ツアーも始まるCreepy Nuts。その動向に注目したい。

TEXT BY 高木 “JET” 晋一郎