米国株は12月も上昇しそうだ。一方、日経平均には「2つの懸念」が残っているが、心配はいらないかもしれない(写真:Getty Images)

アメリカ経済は景気後退懸念まで出ていたはずだが、物価の落ち着きとともに、ソフトランディングの様相となっている。10月23日に一時5%を突破した同国の10年債利回りも、11月22日には4.365%を付けるまでになっている。

さらに恐怖指数と呼ばれるVIX指数も同じく10月23日に23ポイント台を付けた後はじりじりと低下し、11月24日には12ポイント台半ばで落ち着いている。しかも短期的上下動の激しい同指数にしては、これだけ長く、大幅に低下を続けることは極めて珍しい現象だと言える。

クリスマスラリーの条件とは?

これにより、アメリカでは再び適温相場(ゴルディロックス)を予想するファンドも増えてきた。そして目先の動きで期待されているのがクリスマスラリー(12月下旬までの上昇相場)だ。

そのためには主要3指数が年初来高値を更新するのが前提だが、年初来高値までの距離感を24日の引け値から見てみよう。

まず、NYダウの年初来高値は3万5630.68ドル(8月1日)だが、24日は3万5390.15ドルで、年初来高値まで240.53ドル(0.68%)となる。次にS&P500種指数の年初来高値は4588.96(7月31日)、24日4559.34、年初来高値まで29.62(0.65%)。最後にナスダック総合指数の年初来高値は1万4358.01(7月19日)、24日1万4250.85、年初来高値まで107.16(0.76%)となる。すべて「たったひと吹き」の距離だ。

では、欧州はどうか。まず英国のFTSE100の年初来高値は8014.31(2月20日)、24日7488.20、年初来高値まで526.11(7.03%)。独DAXの年初来高値は1万6469.75(7月28日)、24日1万6029.49、年初来高値まで440.26(2.75%)。仏CAC40の年初来高値は7577.00、24日7292.80、年初来高値まで284.20(3.90%)と、米国株に比べると若干苦しい。

さらに日本はどうか。日経平均株価の年初来高値は3万3753.33円(7月3日)、24日3万3625.53円、年初来高値まで127.80円と(0.38%)と、欧州などは論外でアメリカに比べても盛り上がりは速そうだ。

しかし日本には「問題児」がいる。「東証グロース市場指数」である。年初来高値は1092.99(6月21日)、24日910.87、年初来高値まで182.12(20.00%)と、一人取り残されている。日経平均が2万5716円だった今年の大発会の時点まで下げており、しかも個人投資家の保有株が多いこともあり、33年ぶりの高値と浮かれる日経平均の世界とはまったくの別世界にいる。しかし、どうやら神風が吹きそうだ。

世界の投資家はグロース株に注目

アメリカではマイクロソフトが上場来の高値を付けるなど、巨大企業の値上がりが顕著だが、大型株の買い疲れもファンドの一部に見えてきた。

再びの適温相場を期待するものの、同国でも資金効率を考えて出遅れたグロース株に資金を回す動きがある。

アメリカの動きに同調する日本でも、その動きが出そうだ。世界の投資家は日本の小型グロース株など買わないと言われるが、世界にはバフェット氏のように大きな資金を動かすファンドばかりではない。日本の投資家も自信を持って「東証グロース250ETF」などを手持ちの一部に入れておくと、2024年は意外にいい結果が出るかもしれない。

ただし、日本のデフレ脱却相場(インフレ相場)はまだ完成していない。銀行など大型バリュー株の柱が倒れることもないと思っている。つまり個人投資家も喜ぶ「2本立ての強力な相場」が予想される。

日経平均をとりまく「2つの懸念」は「時が解決」

また、私は市場にとっては良いことだと思っているが、今ここで日経平均が一気に上値を取れない理由が2つある。1つ目は移動平均線との乖離率、2つ目は予想PER(株価収益率)の水準だ。

約1カ月前から振り返ると、10月26日の日経平均は668円安の3万0601円78銭だった。市場には、底抜けのリスクが高まり、筆者の「正念場」の声もカラ念仏に聞こえていたはずだ。しかし、この日の移動平均乖離率は「25日」が−3.47%、「75日」が−5.04%で合計乖離率は−8.51%となって、「陰の極」が待っていた。

結果はどうだったか。同月27日が389円高と、わけのわからない上昇になったあと、一気の約3000円高だ。しかし11月15日(3万3519円70銭)時点では、25日移動平均乖離率が+5.23%、「75日」が+4.23%で、合計乖離率は+9.46%と、10月26日とまったく逆バージョンとなった。つまり、陰極まってからの強烈な上げを目の当たりにした投資家は、今度は「陽極まってからの急落」を心配して、上値買いをためらっている。

2つ目のPERはどうか。あのアベノミクス相場でも東証1部の平均PERは約15倍だった。今回、東証プライム市場も15倍を超えると上値が重くなるのは、投資家の当然の心理だ。

筆者は、この2つともまったく問題はないと思っている。前者の移動平均線からの乖離率の大きさは、相場が急激に動かなければ、勝手に正常化する。ゆっくり上げればいいだけだ。後者のPERも、プライム市場に上場している企業の利益が上がれば、自然に下がる。

2023年3月期が終わった時点で、今24年3月期のプライム銘柄の純利益見通しの平均は3.0%の増益だった。だが、第1四半期が終わったときの見通しは6.3%増益、そして第2四半期が終わった今回は12.4%増益と増益率が改善している。まさに倍々ゲームだ。

今後どうなるかは断定できないが、現在の予想為替レートの平均はあがったとはいえ、1ドル=約137円で、24日の1ドル=149円台に対して約12円もの円安だ。このままなら、第3四半期時点での同純利益は最低15%の増益になると思っている。
そして命運をかける岸田政権の大型補正等の経済対策で、最後の第4四半期も急速に失速するとも思えない。自信を持って「下がれば買い」と言いたい。

さて、今週(11月27日〜12月1日)は、12月12〜13日開催のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)を前にして、金融当局要人の発言が許される最後の週である。データ次第でその都度決めるとしているFRB(連邦準備制度理事会)の金融政策、同国のPCE(個人消費支出)デフレーターをはじめとして、重要な指標が注目されるが、株式市場は日米ともにゆっくり盛り上がることを期待している。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)