クルマ界のDyson「ボルボEX30」の超デザイン
日本での価格は559万円。オンライン販売のみとなる(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
これからのBEV(バッテリー駆動のEV)は小型化が進むのか――。
ボルボ・カージャパンが2023年10月に日本で発売した新型車「EX30」は、全長4235mmのコンパクトなサイズが印象的だ。
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サイズとともに、デザインもとにかくシンプルを目指したとのこと。ボルボは、これまでもスカンジナビアンデザイン、あるいは北欧デザインなどといって、華美さを排した造型や色づかいをセリングポイントにしてきた。
EX30はその延長線上にあるデザインで、BEVの時代にもボルボのプロダクト哲学がすんなりハマっている。その点では、全方位的な商品展開を選ばざるを得ない大メーカーとは一線を画している。
コンパクトなサイズは武器になる
「全高も立体駐車場に入る1550mmに抑えられていて、日本のユーザーに使いやすそうで興味がわく」
私の知人にも、駐車しやすいボディのディメンション(寸法)もあって、EX30を購入検討対象としている人がいる。
デザイン、製造、輸送など、生産とライフサイクル全体にわたるCO2排出量削減に取り組んでいるという(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
コンパクトサイズのBEVは、増えている。軽自動車ゆえに人気が出た日産「サクラ」と姉妹車の三菱「eKクロス EV」、BYDが2023年9月に日本発売した「ドルフィン」(全長4290mm)といった具合に。BYDは、ドルフィンについて「サイズが武器」というほどだ。
この先も、フォルクスワーゲンが「ID.2 all」(全長4050mm)を準備中。BEVは小型サイズが1つのトレンドになっていくように思える。
EUは、2030年代にはいわゆる「ZEV法案」を施行するだろう。ZEVとは、ゼロエミッションビークル(排出ガスを出さないクルマ)のことで、ZEV法案は「エンジン車の新車販売を禁止する法案」。アメリカ・カリフォルニア州は、2035年には施行するとみられている。
近い将来にZEV法案が施行されるなら、前倒してZEV(=BEV)の開発に注力して知見を蓄積し、かつ市場で「ZEVならこのブランド」というイメージをいち早く浸透させてブランド力をつけておこう、というメーカーの動きは不思議でない。
デジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライトがユニーク(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
実際、ボルボは早くから電動化を強調しており、2024年初頭のディーゼルエンジン車生産終了、2030年の完全なBEVメーカーシフトを宣言している。
乗って感じる“いいもの感”と“凝縮感”
すでにBEVの売れ行きが伸びている市場は、いくつもある。そこにあって、市街地で扱いやすいサイズは、プロダクトとして見たとき“二刀流”とでもいえばいいのか、商品力が高くなることは間違いない。
実際、ボルボEX30に触れて、それを実感した。2023年10月にスペイン・バルセロナで試乗したときのことだ。
バルセロナは、観光客は多いし、周辺にはセアトやクプラ(セアトから派生した高級ブランド)など、フォルクスワーゲン系列のメーカーをはじめとした工場もあり、市街地は活気がある。というか、いつも混雑している。
バルセロナの街を走るEX30。プロポーションも従来のボルボ車と違うことがわかる(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
そこをEX30で走ってみて、サイズの大切さを改めて実感した。車幅は1835mmと、日本車の基準から考えると少し広めだが、全長からくるコンパクトさという先入観がいい方向に働いてくれて(結局は思い込みだが)、狭い道でも心理的負担が少ない。
ボルボによると、コンパクトなサイズながら、北米でも受注が好調とのことだ。デザイン的にもよく考え抜かれ、いわゆる“いいもの感”があるせいだろうか。
個人的に、かつてBMWが手がけたBEV「i3」(2013年発売)は、炭素樹脂を使った凝ったシャシーとともに、何にも似ていないデザインを内外装に採用したコンセプトで、好感を持っていた。
i3は2014〜2022年に作られたBMWの先駆的なBEV(写真:BMW)
EX30も、“凝縮感”という点で、i3に通じるものを感じさせる。ただし、デザインはそれより一般的。たしかにグリルレスだったりピクセルをイメージしたヘッドランプだったり、独自性はあるけれど、より万人ウケしそうだ。
詳細はあとで紹介するが、内装の独特なデザインもオーナーのセンスを感じさせる好ましいものだ。「わざわざEX30を選んだ」というプライドにつながるものだと思う。
シンプルな表現が心がけられたインテリア。写真はブリーズという仕様(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
発進がスムーズなBEVゆえに、交通の流れを楽々とリードできる。しかし、道に慣れていないからともたもた走っていると、バルセロナではあっという間に邪魔もの扱いされる。過去にレンタカーで何度、そんな目に遭ったことか。
EX30は、信号が青になるとまっさきにスーッと飛び出し、「次は2車線、車線変更して左折だ」なんてときも、まったく慌てることがない。
自動車専用道に入っても、トルクがたっぷりあるモーターのメリットを十分に感じさせてくれる。
「シングルモーター・エクステンデッドレンジ」は、69kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、最高出力は200kW、最大トルクは343Nm。
数値からすると、そうパワフルではないが、アクセルペダルを踏んだ瞬間から最大トルクを発する電気モーターの特性のおかげで、ダッシュはするどい。
シフト操作はステアリングコラムから生えたレバー式。アクセルペダルの操作のみで加減速できるワンペダル機能も備わる(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
バッテリーへの負荷を抑えるため最高速度が時速180kmに制限されているが、ドイツのアウトバーンの一部区間をのぞいて、時速200km以上で巡航しようという人は、そう多くないのではないかと思われる。
ツインモーターよりシングルモーターが好印象
スポーツカーの魅力の1つは加速力という言説にしたがえば、EX30はシングルモーターといえども、心躍るようなスピード感が味わえるスポーツカーだ。ドライブして楽しい印象は、ワインディングロードに入っても変わらない。
SUV的な背郄感が強調されているリアビュー。ワインディングでのフットワークもいい(写真:ボルボ・カー・ジャパン)
車重は1790kg。重たいバッテリーを積むBEVのため軽くはないが、小さなカーブを駆けぬけていくときも、重さは感じない。電池が床下に入っているBEVの常として重心高が低く、路面に張り付いたような感覚で走れる。
315kWの最高出力と543Nmの最大トルクで4つのタイヤを駆動する「ツインモーター」は、たしかによりパンチのある加速力を堪能させてくれるが、シングルモーターのスムーズなドライブ感覚は、これはこれでたいへん好ましい。
先に少し触れたインテリアは、デザインが秀逸だ。「極力シンプルに仕上げていました」と、インテリアデザインを統括するボルボ本社のリサ・リーブス氏は、かつて私にそう語ってくれたことがある。それが今のボルボのデザイン哲学なのだそうだ。
ただし、私が秀逸だと思っているのは、「シンプルだからつまらない」となっていないことにある。たとえば、内側からドアを開けるためのオープナー。
ミニマルなデザインで美しいドアオープナーハンドル(写真:ボルボ・カージャパン)
真横から見ると1本の棒のようだが、細くてきれいなカトラリーのようなデザインで、引くときのクリック感もよく、操作が楽しい。
ダッシュボードまわりは、大型のインフォテインメントシステム用モニターがあるだけ。速度やバッテリー残量など、情報はみなここに表示される。
スピードやシフトポジションを含め、多くの表示を縦型のセンターディスプレイが担う(写真:ボルボ・カージャパン)
ドライバーの前にあるのは、「眠気に襲われていないか」「スマホを注視していないか」などドライバーの目線を終始モニターしているカメラだけと、かなり振り切ったデザインだ。
ここまで凝っていると、ライカのカメラやバング&オルフセンのオーディオ機器、ダイソンの家電など、造型力の高いプロダクトを持つのと同じ喜びを与えてくれそう。
新しい時代がすでに始まっている
リサイクル材を多用しているというインテリアは、素材の選び方も上手だ。日本仕様の中で私が特に好きな仕様は「ミスト」と名付けられていて、再生ポリエステルにウールを30%、混紡したシート地が、見た目も感触もたいへんよい。
先のブリーズとは異なる雰囲気のミストというインテリア(写真:ボルボ・カージャパン)
12.3インチのモニターでは、Google PlayのアプリやAmazonプライム・ビデオを楽しむこともできる。
「これからのボルボ車にとって、性能向上から販売にいたるまで、すぐれたソフトウェアの開発が欠かせない」(プレスリリースの要約)とするボルボ。
今、本社のあるスウェーデン・ヨーテボリをはじめ、同ストックホルム、ポーランド、シンガポール、インド、中国……と、世界各地にソフトウェア開発施設をもつ。
EX30は単なるコンパクトなBEVではない。そこでは、新しい時代がすでに始まっているのだ。
(小川 フミオ : モータージャーナリスト)