「ライドシェア導入は、日本にとって不可欠な改革の一つ」と語る小泉進次郎議員(筆者撮影)

ライドシェアは解禁されるべきか――。そんな議論が国会を中心に加速するなか、今月には超党派の「ライドシェア解禁の勉強会」の準備会合が開かれ、年内にも導入に向けた対策が取りまとめられる見込みとなった。

世話人の1人は、小泉進次郎元環境相(42)だ。タクシー業界だけではなく、自民党内・野党からも導入へ向けた不安の声が聞こえてくるなか、ライドシェア導入の本質はどこにあり、国民に与える影響はどのようなものになるのだろうか。小泉議員に、今求められる改革についてインタビューを行った。

移動難民の解消に効果的

――ライドシェア導入に伴うメリットはどのような点でしょうか。

「シンプルに言うなら、今起きている移動難民の解消に効果的です。タクシーの供給力を上げることも解決策の1つですが、今のタクシー運転手の方は高齢化が進んでいる。近年ではコロナの影響で約2万人が離職しています。

一方で、インバウンドがコロナ前の水準に戻るだけではなく、さらに増加する見込みの中で、今後もタクシーを増やすだけでは供給力は足りません。タクシーだけでは満たせない、新たな移動方法の選択肢として、ライドシェアが間違いなく必要な時期にきています」

――導入には安全面などを理由としたデメリットも指摘されています。


この連載の一覧はこちら

「基本的に、タクシーにしろ、ライドシェアにしろ、事故のリスクはゼロにはできません。この議論を進めるにあたっては、どのような制度を作って安全の担保策を講じるかという制度設計の問題になってきます。そのうえで法律を改正するなり、新法を作るなり、必要なルールを構築するべきです。最終的にタクシーVSライドシェアではなく、タクシーもライドシェアも選べる社会にしていくことが重要なのです。

仮にどのような安全対策措置をとったところで、安全に関する不信感が拭えないとすれば、引き続きタクシーを利用して頂いたらいい。政府のインバウンド政策を考慮しても、より交通問題が深刻化する可能性も高い。生活者、国民、観光客の選択肢を増やすべきです」

――観光地、都市部を中心にタクシーやバス不足の問題が取り沙汰されています。打開案としてライドシェアは有効な一手となるのでしょうか。

「少なくとも、外国人観光客の方には間違いなくプラスでしょう。タクシーがなくて空港からの移動がスムーズにできない、空港からの移動手段がないから宿泊施設などでもこれ以上予約が取れない、という声は全国各地から既に聞いています。母国語でライドシェアを利用することで、移動のストレスが軽減される安心感にも消費拡大にもつながります。

横行する白タク対策、という点でもライドシェアは間違いなくあったほうがいい。政府が掲げる2030年に6000万人というインバウンド拡大策を考えると、単純に日本へ来てもらうだけではなく、日本を好きになってもらうという視点も重要です。『また来たい』と思わせる要素としても、移動にストレスがないというのは大事ですから」

海外でライドシェアを利用した感想

――ご自身でライドシェアを利用した経験はありますか。

「アメリカとオーストラリアで何度か使っていますね。直近だと今年8月にオーストラリアで利用しました。感じたのは、ライドシェアがないとあそこまで自由に移動できなかったということ。そして、細かく車種や料金などの条件が選べる点も便利ですね。日本のタクシーだとなかなか車種やドライバーまで選べませんが、ライドシェアならそれができる。

また女性専用車や、EV車など利用者が選択できる要素が多いことも安心につながります。実際に現地で何人ものドライバーさんと話しましたが、その中に7つのレストランのオーナーだった方がいました。レストランをすべて売って、60歳を超えてリタイアして悠々自適の引退生活に突入したら、こんなに人生つまらないとは!と感じたそうです。60代の自分でも働ける選択肢はないかと探したら、ライドシェアの仕事に出合えて充実している、と。

その時に今の日本に圧倒的に足りていない選択肢はこれだな、とも感じましたね。退職した元気な方が、一定の収入が見込め、かつ自己都合で働く時間を選択できる社会。人生100年時代に突入していく中で、ライドシェアをはじめシェアリングエコノミーの拡大は、生涯を豊かに暮らすことができる社会の選択肢にもなりうる、と」

――タクシー業界からは、ライドシェア導入の反対意見も聞こえてきます。ライドシェアとタクシーは共存可能でしょうか。

「ライドシェアについて前向きに話すと『あなたはタクシー業界の敵だ』と思われがちですが、明確にしておきたいのは私がライドシェアとタクシーの両方を応援している、ということ。実際にタクシー業界から要望があった2種免許の規制緩和を政治の舞台で表面化させ、地理試験の廃止に向けて動きました。これを全国ハイヤー・タクシー連合会会長の川鍋一朗さんと神奈川県タクシー協会の伊藤宏会長と一緒に、地理試験の廃止要望を提出しに国交大臣に申し入れました。議連のメンバーでもない私が、です(※その後議連に加入)。

タクシー業界の方と話した際に、過剰規制の緩和の重要性を切に訴えられており、それなら、緩和の申し入れをしましょうというと、『本当にそんなこと声をあげて言っていいんですか?』という反応だったくらいです。結果的に、予算委員会では斉藤鉄夫国交相から『地理試験の廃止も含めて検討する』という答弁を引き出せた。

タクシーとライドシェアはどちらも今後の日本では間違いなく必要な移動手段であり、海外でもライドシェア導入国でタクシーはなくなっていません。諸外国の例からも、タクシーとライドシェアは市場自体が異なる部分もある。片方だけではなく、タクシーの過剰規制の打破とライドシェア導入を両方進めるということが重要なんです」

地元選挙区の住民の声は?

――選挙区である神奈川県三浦市ではライドシェアの実証実験が検討されています。地域住民からはどのような声があったのでしょうか。

「三浦市の場合は、夜の19時以降のタクシーがない、と。それでタクシー会社の方も肩身の狭い思いをされていた。夜間に移動手段がないために、地元の方でも飲食店に行ったら帰れません。せっかく観光で来て頂いた方も、移動ができないから飲みに行くのも簡単ではない。結果、夜の街が冷え切ってしまった。

人間関係が濃い街ではあるので、今は『もう一杯飲むから送っていって』というような感じで、お店の方が送迎までしている店もあるくらいです。既にそういう現実と向き合っている地域なんです。ただそれは、形を変えた白タク行為になりますし、それならちゃんと整備すべきだろう、と。そういった地域からの切なる声が原動力になっていることは間違いないですね」


地元選挙区の神奈川県三浦市ではライドシェアが求められるという(小泉進次郎事務所提供)

ライドシェアとタクシーは発想を切り分けるべき

――法整備も含めて議論が進んでいく中で、ポイントとなるのはどのような点でしょうか。

「2段階あると考えています。1つは現行法での運用を最大限柔軟に緩和すること。そして、次の段階で法改正、新法です。まずは2種免許の緩和、営業エリア、時間など、現在のタクシー業界の要望も反映する。一方で、自家用有償運送制度の制約を緩和することが必要です。

ライドシェアを持続可能なサービスとして根付かせるなら、ビジネスとして成り立たせないといけない。それにはどこまで規制緩和ができるのかが凄く大切で、そこに向けて風穴を開けないといけない、と強く思っています。

この議論をしていて感じるのは、今までのタクシー行政とライドシェアは同じ発想で行政が向き合うものではないのに、同じ発想の方が多いということ。

タクシーの場合、会社が増えるのか減るのか、もしくはタクシーの車両をその地域によって何台認めるかといった需給を行政が管理します。しかしライドシェアの場合、その地域の需給を見て導入します、という発想ではない。

ライドシェアの考えはタクシーとはまったく異なり、今の足りないところを埋めていくというだけではなく、隙間時間を利用して、一定の稼ぎがある新しい働き方を地域に加えることによって、今まで潜在的にはあったけど、表面化されていなかった需要が創出されていくというビジネスだと私は捉えています」

――議論の中心となっている安全性の担保、責任の所在を明確にさせるという仕組み作りは実現できますか。

「結論から言うと、海外にはそれらの制度は既にあるんですね。市場が拡大し、成熟していったことで法整備も行われています。保険加入の義務化から、ドライブレコーダーの設置、車検は毎年やる、加入者講習もやる、アルコールチェックもやる、事故発生のリスクを抑えるために、一定の時間働いている人はアプリが使えないようにする、そして免許の管理。こういったことは既に海外にはあって、充分に機能もしているわけです。安全・安心を確保するためにも、むしろライドシェアは法律でちゃんと位置付けたほうがいい」

反対派は誤解している面がある

――国会内でもまだライドシェアの正確な現状を認識している方は少ないように感じます。

「例えば反対・慎重派の方の中には『誰が運転しているかわからない』という意見がありますが、これは違います。ライドシェアのほうが運転手の情報がわかるんですよ。

『ライドシェアのドライバーは何十時間も運転しっぱなしで危ない』も、まったく事実と異なる。例えばオーストラリアでは、12時間運転したらアプリが使えなくなるようにしている。さらに犯罪歴の有無やバックグラウンドのチェックもできる。過去のドライバーの実績や評価もわかる。

残念ながら、最新のライドシェアのリスク管理については、広く知られていません。あるベテラン議員からは、『よくわからないけどライドシェアはダメだぞ』と言われたこともあるくらいですから(笑)。よくわからないけどダメって……。

反対意見は尊重しますが、イメージと誤解によって反対するのはちょっと待ってくれよ!と思いますよね。ライドシェアについての正しい知識を持つ人が増えてくれば、より建設的な議論ができる。そのための超党派の勉強会発足も呼びかけました。野党にも理解者はいます。党派を超えて、日本に必要な改革に取り組んでいきます。ライドシェアは人口減、人手不足、人生100年時代に直面する日本にとって不可欠な改革の一つだと確信しています」

(栗田 シメイ : ノンフィクションライター)