2024年のアメリカ大統領選挙はまた2人の戦いになるのだろうか。もし「究極の選択」になってしまったら、「より安全」なのはどっち?(写真:Getty Images)

今年もとうとう残すところ1カ月余りとなった。そろそろ来年の予想を組み立てなければならない。

2024年の世界はあまりにも視界不良


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

とはいうものの、来る2024年の世界はあまりにも視界不良なのである。特に気になるのはいわゆる地政学リスクだ。ウクライナとパレスチナ。いまや世界は2つの戦場を抱えてしまっている。

10月7日に発生した武装集団ハマスによる奇襲攻撃は、多くの謎を残している。なぜかくも大規模な攻撃が可能だったのか。数千発ものロケット弾をどうやって準備できたのか。イスラエルの情報機関は、なぜそれを察知できなかったのか。不思議なことばかりだが、「すぐ近くのウクライナで戦争をやっていたから」という要素は無視できないだろう。

平時であれば「抑止」が働くようなケースでも、世界のどこかで戦争をやっていると、監視の目が行き届かなくなる。考えてみれば、2022年2月24日にロシア軍のウクライナ侵攻が始まってからもう1年9カ月になる。

こんな状況を放置しておくと、ほかの場所でも戦闘は起こりやすくなる。2カ所で起きていれば、3カ所目の確率はさらに高まるだろう。特に来年、インド太平洋地域に飛び火した日には、日本経済にとっても深刻な事態となる。台湾有事、朝鮮半島、南シナ海、印パ紛争、いやもう全部ありそうじゃありませんか。

2つの戦場を1に減らし、最終的にゼロにすることが望ましいのは言うまでもない。が、それ以前に2を3に拡大しない努力が必要になるのではないか。2024年は、そんなリスクに満ちた年だと受け止めるべきだろう。

「ズレている」感が否めないバイデン大統領

壊れかけた「抑止」の機能を回復するためには、世界最強のアメリカ軍ににらみを利かせてもらう必要がある。おそらくジョー・バイデン大統領は、彼なりにベストを尽くしているのであろう。ただし、どこか「ズレている」感が否めない。

今月のバイデン氏は、サンフランシスコでAPEC首脳会議を主宰し、迎えた中国の習近平国家主席と1年ぶりの米中首脳会談を行った。

4時間にわたる会談の成果として、真っ先に挙がったのはフェンタニル規制という「丸ドメ」なテーマであった。アメリカでは鎮痛剤中毒により、年間7万5000人もの人が亡くなっている。その原料となるフェンタニルの密輸取り締まりを厳格化することで中国側が合意したのである。

確かに国内的な関心は高いだろうが、こんなことで習近平氏に「借り」を作るというのも情けない話である。今回の米中首脳会談の成果といえば、AIをめぐる政府間対話の構築だとか、米中間の直行便の大幅増便だとか、気候変動をめぐる協力拡大とか、果てはパンダの再貸与だとか、「そこがキモじゃないだろう!」と言いたくなるようなネタばかりである。

安全保障面の成果としては、米中が軍の高官同士の直接対話を再開することで合意したことが挙げられる。昨年8月のナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問により、相互のホットラインは途絶えていた。このままだと、偶発的な衝突発生リスクが高いままとなるところであった。この点だけは素直に評価したい。

他方、中国側としても対中関税や投資規制の解除、半導体輸出規制の緩和など、欲しかった成果は得られていない。習近平氏としても、アメリカ側に強く出られるほどの材料は有していなかったということだろう。今回の外遊日程で中国側は、「国内向けにどう映るか」ということばかりを重視していたように見える。中国経済の不振が伝えられる中、習近平氏の政策的な自由度はさほど高くないのではないだろうか。

本来であれば、現在の米中にとってもっと重要な課題は、「インド太平洋地域における新たな紛争を抑止すること」であろう。

実際には北朝鮮や南シナ海など、いかにも「第3の発火点」となりそうな地域が存在する。これらの問題について、米中間で実のある協議が行われたようには思われない。むしろ習近平主席は、台湾問題に関する原則的立場を繰り返し、「中国は必ず統一されなければならない」と強調したと伝えられている。

つまり今年の米中首脳会談は、マイナスをゼロに近づけるのが精いっぱいで、何か大きな成果を挙げたとは言いがたい。何しろ来年のアメリカは大統領選挙の年である。共和党側はより「対中強硬姿勢」を求めて、民主党のバイデン政権を攻撃してくるだろう。この先は当分、米中首脳による会談は望み薄となる。今回のサンフランシスコにおける会談は、「この程度が関の山」と考えるべきなのであろう。

2024年は「選挙の当たり年」

そんな中で、来年は「選挙の当たり年」である。年明けの台湾総統選挙から、11月のアメリカ大統領選挙まで、しょっちゅう選挙をやっていることになりそうだ。

・ 台湾総統選挙(1月13日) 
・ インドネシア大統領選(2月14日)
・ ロシア大統領選挙(3月17日) 
・ 韓国総選挙(4月10日) 
・ インド総選挙(春)
・ 欧州議会選挙(6月6〜9日)
・ G7サミット(伊・プーリエ、6月13〜15日)
・ パリ五輪(7月26日〜8月11日)
・ 東京都知事選挙(7月)
・ 自民党総裁選(9月)
・ アメリカ大統領選挙(11月5日)
・ G20サミット(ブラジル、11月18〜19日)
・ APEC首脳会議(ペルー、11月)
・ COP29(期日未定)

「もう無視できない!トランプ大統領復活の可能性」(9月23日配信) でも指摘した通り、来年の大統領選挙は「バイデン対トランプ」という2020年選挙のリターンマッチとなる可能性が極めて高い。そうだとしたら、「2期目のバイデン」と「復活したトランプ」はどちらがより世界の安全に資する選択といえるだろうか。

トランプ氏はしばしば、「私が大統領であれば、戦争は起きなかったはずだ」とうそぶいている。「(ウラジーミル・)プーチンはウクライナ侵攻を思いとどまっただろうし、中東の混乱もなかったはずだ」と言うのである。

この言葉には一面の真実が含まれていて、トランプ氏は「予見不可能性(Unpredictability)こそが自分の強み」であることを熟知していた。要するに、「あの人は何をするかわからない」と思われていた。実際にトランプ氏は4年間も、世界最強のアメリカ軍の最高司令官であったわけだから、今から考えればかなりおっかないことであった。

それとは対照的に、バイデン氏は長いキャリアを持つ政治家であり、特に外交分野で活躍してきた。冷戦時代を記憶しており、世界中に古い知己が居て、判断は常識的である。ロシアに対する外交も、それほど間違った手を打ってきたとは思われない。それでも2021年6月、ジュネーブで米ロ首脳会談に臨んだ際には、「この男、くみしやすし」(少なくとも前任者に比べれば)とプーチン氏に思われてしまった気配はある。

実際にプーチン氏はその翌月、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論考を書いている。これが実に身勝手な論理構成なのである。

すなわち歴史的に鑑みると、ロシアの庇護の下においてのみウクライナの繁栄は可能であった。ところが彼らは西側の操り人形となり、反ロシア運動の手先となっている。本当にウクライナのことを思っているのはロシアだけなのに……と、まるで家庭内暴力を正当化するストーカーのように、ウクライナに対する怒りをるる書き連ねているのである。

だからといって、まさか本当に戦争を仕掛けるとは誰もが思わなかった。プーチン氏がそんな冒険をやらかしたのは、「今度のアメリカ大統領は怖くない」と考えてしまったからではないか。つまり予見可能性の低い指導者の後に、ごくまともな指導者が登場すると、アメリカの抑止力が著しく低下するという副作用があったのではなかったか。

来年の最重要事項はやっぱりアメリカ大統領選

「抑止力」という言葉は、しばしば「兵力が何万人」「軍艦が何隻」「ミサイルが何発」といった「量」の問題を指すことが多い。ところが「質」も重要なのである。軍隊の規模といったデジタルな問題よりも、指導者の性格というアナログな問題により大きく左右されてしまったのが、「トランプ後」の大荒れの国際情勢なのではないか。

今ではトランプ氏の「予想不可能性」は、すでに世界中の人が知るようになっている。来年の大統領選挙でトランプ氏が勝利し、第47代大統領になるとした場合、それで世界が平和に戻るかと言えば、そんなことはないだろう。むしろ日本のような同盟国が、「何をするかわからない」大統領に振り回されることになるのが関の山ではないだろうか。

今の日本には、巧みにトランプ氏との好関係を構築し、ニューヨークタイムズ紙から「猛獣使い」と評された安倍晋三氏ももう居ない。2024年の世界を考える場合、やはりアメリカ大統領選挙こそがいちばんの重要事項ということになるだろう(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ここから先は恒例の競馬コーナーだ。

26日はジャパンカップ。日本競馬の頂点を決める一戦だ(距離2400メートル、第12レース)。外国からの参加はイレジン(4枠7番)1頭だけと寂しいが、国内からは強い馬が勢揃いで非常に楽しみなレースとなっている。

なかでも注目は、先月の「秋の天皇賞」をレコード勝ちして「世界最強馬」を印象付けたイクイノックス(1枠2番)と、3冠牝馬に輝いたリバティアイランド(1枠1番)の2強対決だ。

前者はこの1年、海外も含めてG1レースを5連勝中で、後者もG1を4連勝中。いずれも連を外したことがない馬である。普通に考えればイクイノックスに一日の長がありそうだが、3歳牝馬のリバティアイランドは斤量で4キロも恵まれることになる。さあ、どっちだろう。

ジャパンカップの本命は3歳女王のリバティアイランド

筆者の選択はリバティアイランドだ。まずはこのレース、過去にアーモンドアイとジェンティルドンナがそれぞれ2勝し、ブエナビスタやウオッカなど牝馬がよく勝っている。そしてリバティアイランドは、これらに匹敵する名馬である公算が高い。

次にイクイノックスは、先月の「秋天」におけるレコード勝ちの疲労がさすがに残っているのではないか。もともと体質の強い馬ではないだけに、死角があると見る。逆にリバティアイランドは、秋華賞では鞍上の川田将雅騎手が最後は流す余裕を見せて勝っている。余力を残しているのはこちらのほうだろう。

さらにこの二強対決は、「日本競馬の明日を担うのはキタサンブラック産駒か、それともドゥラメンテ産駒か」という対決でもある。ドゥラメンテ産駒は今年になってから「確変」状態。ジャパンカップにはタイトルホルダー(2枠3番)やスターズオンアース(8枠17番)も出走するし、10月の菊花賞を勝ったドゥレッツァ、5月のNHKマイルカップを勝ったシャンパンカラーも同産駒だ。この勢いを考えれば、どうしてもリバティアイランドをひいきしたくなる。

過去を振り返ってみても、ジャパンカップはさほど荒れず、強い馬が順当にくるレースである。歴史的名馬となりそうな2頭の対決をじっくりと見届けたい。

強いて3頭目を挙げるならば、今一歩のレースが続いているダノンベルーガ(5枠10番)か。これら3頭を組み合わせて馬券はなるべく絞り込むことにしたい。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト)