ChatGPT vs Google Bardヒトの感情どっちが理解？
AIは「ヒトの感情」を読み取ることが本当にできているのでしょうか（写真：sompong_tom／getty）
文系人材ながら、さまざまなAIプロジェクトに関わる野口竜司氏。東京大学・松尾研究室発のAIカンパニー「ELYZA」に所属しながら、大企業やスタートアップ向けのAI研修やAI活用推進のアドバイスを行う。そうした経験を生かし、『ChatGPT時代の文系AI人材になる』を刊行した。「ChatGPT時代のAIは『ことばで動く』ので、文系人材でも自由自在に操ることができます」とのアドバイスを贈る。今回は「AIはヒトの気持ちをくみ取った会話ができるのか」について考えていきたい。
2つのAIを比較してみる
現代のAI技術はChatGPTなどの進化により、今まで人が行っていたさまざまな知的な業務や対話を代行できるようになってきました。しかし、AIはヒトとヒトの会話を成立させるために必要な「ヒトの感情」を読み取ることが本当にできているのでしょうか？ 会話の中に潜む本当の意図や意味を読み取れるのでしょうか？
この問題を検証するために、ChatGPTと同じAIを搭載しているOpenAI PlaygroundとGoogle Bardの2つのAIを比較検討してみました。
みなさんも何度も聞いたことのある「ChatGPT」はチャット型、つまり対話（質問・回答）の形でAIの能力を使えるサービスです。
OpenAI Playgroundは「このAIを使って、どんなことができるか」を経験・実証できるツールです。どちらもOpenAI社の同じGPT（Generative Pre-trained Transformer）のAIを使っているので、多少の出力（結果）の差は出るものの、基本的に近い挙動をします。
ここではChatGPTもOpenAI Playgroundも、そしてそれらの基盤となっているGPTのAIも、総称してGPTと呼んでいきます。
Google Bardはその名の通りGoogleが開発した大規模言語モデルのAIで、ChatGPTと同じくらいのタスク実行能力をもっていて、同じくチャット型でAIを利用できます。ヒトからの質問にGoogle検索と連動して回答を得ることもできます。
〈プロンプト＝指示〉でAIを操る
早速、この2つのAIを比較してみましょう。
まず、入力したプロンプト（指示の言葉）は次のような内容です。
〈プロンプト� �
Aさんはもう結婚して5年経つ、料理上手の夫であるBさんにこう言いました。
Aさん：｢そういえば、駅前にできたお惣菜屋さん、すごく人気らしいよ｣
Bさん：｢へー、そうなんだ｣
Aさん： ｢家庭料理を中心に、健康にも良いレシピで、さらにコスパがいいみたい。毎日そこでもよいかもねー！｣
それだけ言うとBさんは不機嫌になってしまいました。なぜですか。
GPTはPlaygroundで動くGPT-4のバージョン、Google Bardはベータ段階のバージョンで、同じプロンプトを入力して比較テストを実施しました。
GPT-4は以下のように出力してきました。
〈プロンプト�，紡个垢�GPT-4の回答（原文ママ、下線は筆者）〉
Bさんが不機嫌になった理由は、彼が料理上手であるという事実から考えてみると、理解しやすいかもしれません。Bさんはおそらく、自分が作った料理をAさんが楽しみにしていると感じていたでしょう。しかし、Aさんが新しく開店したお惣菜屋の料理を家で毎日食べることを提案したことで、Bさんは自分の料理が必要とされていない、または評価されていないと感じたのかもしれません。
Aさんの提案は無邪気なものかもしれませんが、それは同時にBさんの料理への努力や技術を無視するかのように聞こえたかもしれません。そのため、Bさんは不機嫌になったのでしょう。
ヒトの気持ちをくみ取っていると評価してよい結果となりました。
ヒトの気持ちを読み取ることができたのか？
一方、Google Bardの以下の通り。
〈プロンプト�，紡个垢�Google Bardの回答（原文ママ、下線は筆者）〉
Bさんが不機嫌になった理由は、いくつか考えられます。
・Aさんの発言は、Bさんの料理を否定しているように聞こえた可能性があります。
・Bさんは、料理をするのが好きで、それを家族に食べてもらいたいと思っている可能性があります。
・Bさんは、お金を節約するために料理をしている可能性があります。
・Bさんは、Aさんが自分の料理を評価していないと思っている可能性があります。
Bさんが不機嫌になった理由は、Aさんにしかわかりません。しかし、AさんがBさんの気持ちを理解して、話してみることが大切です。
テスト結果を見ていただくとわかる通り、GPTとGoogle Bardの双方が「ヒトの気持ち」を読み取っていると評価していい出力を行っています。
ヒトの感情の機微をくんだ良い回答
さらに、次のプロンプトを続けて入力してみました。
〈プロンプト�◆�
Aさんはどう話をするべきでしたか？
GPT-4の回答は次のようなものでした。
〈プロンプト�△紡个垢�GPT-4の回答（原文ママ、下線は筆者）〉
AさんがBさんの感情を尊重し、同時に新しいお惣菜屋について話す方法はいくつかあります。例えば：
Aさん：「そういえば、駅前にできたお惣菜屋さん、すごく人気らしいよ。」
Bさん：「へー、そうなんだ。」
Aさん：「家庭料理を中心に、健康にも良いレシピで、さらにコスパみたい。あなたの料理が一番美味しいから毎日食べているけど、一度試してみて、何か新しいアイデアを得られるかもしれないね。」
このようにAさんが提案すれば、Bさんが自分の料理を無視されていると感じてることはなく、新しいお惣菜屋についての情報を共有し、新しいレシピのインスピレーションを得る可能性について言及することができます。
GPTの出力は、なんともヒトの気持ちをくんだ、とても良い回答になっています。料理上手のBさんが怒った理由を理解しながら、彼の料理をしっかり褒めたうえで、新しい提案をしていることがわかります。
軍配はどっちに上がるのか？
一方、Google Bardはどうでしょうか。
〈プロンプト�△紡个垢�Google Bardの回答（原文ママ、下線は筆者）〉
Aさんは、お店のことを以下のように説明すべきでした。
「駅前に新しいお惣菜屋さんができたんだって。家庭料理を中心に、健康にも良いレシピで、さらにコスパがいいらしいよ。たまには違うものを食べてみたいなと思って、行ってみようかな。」
このように説明することで、Bさんは、Aさんがお店のことを興味を持っていて、自分の料理を否定しているわけではないことを理解することができます。また、Bさんは、Aさんのお店に対する好意を感じることによって、嬉しい気持ちになるかもしれません。
Aさんは、Bさんの気持ちに配慮して、お店のことを説明するようにしましょう。
Google Bardの出力は、少しデリカシーに欠けるような回答になっていると筆者は考えます。場合によっては、Bさんを最初のプロンプトのときよりも不機嫌にさせてしまうかもしれません。
ヒトの気持ちをくみ取り、適切に対応
GPT vs Google Bardの比較テストの軍配は、（少なくとも、この比較を行った2023年8月時点では）GPT（GPT-4）に上がります。
AIは、あくまで大量のデータをもとに学習し、基本構造としては「入力されたテキストの次に出てくるべきテキストを推論しているだけ」のものなので、「ヒトの気持ち」を本質的に理解しているわけではない、というのが多くの専門家の解釈です。
ChatGPT以降に登場したAIに対して、複数のテストを行うと、「ヒトの気持ち」を理解していると解釈せざるをえない出力が多数出ていることは見逃すことができません。
GPT時代のAIは、業務タスクを正確にこなすという役割だけではなく、「ヒトの気持ち」つまり意図や心情をくみ取り、適切に対応できる能力ももっていると表現しても差し支えがないのかもしれません。
（野口 竜司 ： 株式会社ELYZA 取締役CMO）
