ジャパンモビリティショー2023で国内初披露となったカワサキのニンジャ7ハイブリッド(筆者撮影)

カーボンニュートラルの実現に向け、4輪車はもちろん、2輪車でも徐々に電動化モデルが登場しているが、カワサキモータース(以下、カワサキ)が発表した新型「ニンジャ7ハイブリッド(Ninja 7 Hybrid)」は、なんと世界初のストロングハイブリッド・システムを搭載したスポーツバイクだ。

2輪では初採用となるパワーユニット


展示車両とともに飾られていたスペックボード(筆者撮影)

エンジンと走行用モーターといった2つのパワートレインを駆使し、高い走行性能と優れた燃費を両立するシステムが、ストロングハイブリッド。4輪車では、トヨタの「プリウス」を代表する多くのハイブリッドモデルに採用されていることでおなじみだ。だが、2輪車では、主要メーカーの量産モーターサイクルに採用例はなく、カワサキが世界に先駆けて市販化を実現(スクーターを除く、2023年10月6日現在カワサキ調べ)。しかも、欧州など海外はもちろん、日本にも導入することを明らかにしており、かなり注目のモデルだといえる。

ここでは、「ジャパンモビリティショー2023(2023年10月28日〜11月5日、東京ビッグサイト)」で日本初披露となったニンジャ7ハイブリッドについて、主な特徴や商品性などについて紹介する。


「HEV Ninja」とハイブリッドモデルであることを主張するロゴ(筆者撮影)

カワサキのフルカウル・スポーツモデル「ニンジャ」シリーズに属する新型がニンジャ7ハイブリッドだ。外観は、シリーズ共通のシャープなフェイスデザインや、ボリューム感あふれるフォルムが印象的。フロントカウルの左右サイド部に施された「HEV Ninja」のロゴが、ハイブリッドモデルであることを強調する。また、シルバーとライムグリーン、エボニーをマッチングさせた車体色が、クリーンで環境に考慮したモデルであることを想起させる。

ミドルクラスと同等のボディサイズ


ニンジャ7ハイブリッドのリアビュー(筆者撮影)

車体サイズは全長2145mm×全幅750mm×全高1135mmで、シート高795mm。車両重量は227kgだ。カワサキによれば、車格的には600ccから800ccといった中間的排気量のミドルクラスに属するという。同じクラスのガソリン車でいえば、例えば、同じカワサキの650cc・2気筒モデル「ニンジャ650」が全長2055mmx740mm×1145mmで、シート高790mm。車両重量は194kgだ。ニンジャ7ハイブリッドのほうがやや大柄で重いが、サイズ的には近い車体だといえる。

フレームには、ニンジャ650と同様に、スチール製ながら軽量なカワサキ独自のトレリスフレームを採用。やや高めに設定されたセパレート式ステアリングなどにより、ライディングポジションはあまり前傾がきつくなさそうで、長距離ツーリングでも疲労度が少ないことが予想できる。


ニンジャ7ハイブリッドのフロントまわり(筆者撮影)

足まわりについて、今回の国内発表で詳細は明らかにされていないが、2023年10月6日に先行して発表された欧州仕様車の場合、サスペンションにはフロントに径41mmの正立フォークを採用。リアはリンク式のシングルショックタイプで、スプリングの縮み量を変更できるプリロード調整機構も備え、ライダーの体格や好み、荷物の積載重量などに応じたセットアップを可能とする。

また、タイヤサイズはフロント120/70-ZR17、リア160/60-ZR17。ブレーキには、フロントに径300mmのダブルディスク、リアには径250mmのシングルディスクを装備し、安定した制動力も発揮する。

燃費と走りを両立したパワートレインについて


カウルからのぞくパワーユニット(筆者撮影)

一方、注目のパワートレイン。エンジンには、451cc・水冷並列2気筒を採用し、カワサキが「トラクションモーター」と呼ぶコンパクトな走行用モーターは、エンジンのシリンダーバンク後方に搭載する。

エンジンのスペックは最高出力43.5kW(59PS)/10500rpmで、最大トルクは43.6N・m(4.4kgf-m)/7500rpm。走行用モーターでは、最高出力9.0kW(12PS)/2600-4000rpm、最大トルク36.0N・m(3.7kgf-m)/2400rpmを発揮する。また、これらを合わせたシステム最高出力は51.1kW(69PS)/10500rpm、システム最大トルクは60.4N・m(6.2kgf-m)/2800rpmだ。なお、搭載するリチウムイオンバッテリーのスペックは、27.2Ah/50.4Vとなっている。


ニンジャ7ハイブリッドの走行イメージ(写真:カワサキモータース)

ニンジャ7ハイブリッドでは、これら2つのパワーユニットを連携させることで、とくに低中回転域で強力なトルク特性を持つという。また、発進からの瞬間加速は200PSを超えるパワーを持つ1000ccクラスのスーパースポーツモデル並み。それでいて、250ccクラス並みの燃費を両立しているという。ちなみに、このモデルの燃費性能は未公開だが、カワサキが販売する250cc・2気筒モデルの「ニンジャ250(Ninja250)」を凌ぐという。

ニンジャ250は、WMTCモード値25.1km/Lだから、これを超えるというのは、ミドルクラスとしてはかなりの好燃費が期待できる。なお、ニンジャ7ハイブリッドの燃料タンク容量は、ニンジャ250と同じ14L(欧州仕様車の場合)。前述の同クラスであるエンジン車、ニンジャ650の15Lよりも少ない燃料タンク容量に設定されている。


ニンジャ7ハイブリッドのマフラー(筆者撮影)

主に3つの走行モードを選べることも、ハイブリッドシステムを採用する当モデルの大きな特徴だ。エンジンとモーター両方のポテンシャルをフルに引き出す「スポーツハイブリッド(SPORT-HYBRID)」、発進時は走行用モーターのみで走行、車速が上がるとエンジンの動力も駆使するハイブリッドへシームレスに移行し高い燃費性能を実現する「エコハイブリッド(ECO-HYBRID)」を用意。

また、走行用モーターのみを使う「EV」モードもあり、実質的なゼロエミッションと高い静粛性を実現する。とくにEVモード作動時は、電動車ならではの静かさにより、住宅街などでも騒音を気にせず走れそうだ。なお、これら各モードは、左ハンドルにあるモード切り替えスイッチで任意に変更が可能だ。


ハンドルのスイッチ類(筆者撮影)

ほかにも、同じく欧州仕様車の場合、「ウォーク(WALK)」モードも設定する。これは、駐車場での運転をサポートする機能で、左側ステアリングにある「WALK」スイッチを押しスロットルを開けると、車体が歩くような速度で前進。駐車スペースなどへの移動時に、重い車体を押し歩かなくてすむ。また、逆にスロットルを全閉からさらに奧へまわせば、車体をゆっくりと後退させることも可能。前輪から駐車しバックで出庫する際や、狭い駐車場などで車体を切り返すようなときに効果的だ。

オートマにもなる独自のミッション機構


ニンジャ7ハイブリッドのフロントマスク(筆者撮影)

加えて、このモデルには、独自の6速ボタンシフト・ミッション機構を採用していることも注目だ。一般的なオートバイでは、クラッチレバーとシフトペダルで変速操作を行うが、このモデルでは、ボタンによりシフト操作を行うシステムを装備する。ギアと油圧クラッチの操作をバイク側で行うことで、ライダーはスロットル操作に集中できるメリットがあるという。

また、走行用モーターのみで走るEVモード時は、変速操作が不要なオートマチック仕様となる。さらにマニュアル走行中に、信号待ちなどで車両が停止すると、トランスミッションが自動的に1速へ切り替わる機構も採用(欧州仕様車の場合)。停止する毎にギアを変える必要がないため、再発進時などにおけるライダーの負担も軽減する。


ニンジャ7ハイブリッドのサイドビュー(写真:カワサキモータース)

以上が、ニンジャ7ハイブリッドの概要だ。カワサキでは、このモデルを国内導入することは明らかにしているが、発売時期や価格などについては未発表で、「準備が整い次第改めて案内する」としている(2023年10月25日現在)。世界初のストロングハイブリッドバイクだけに、いったいどの程度の価格になるのかはとても気になるところ。また、エンジンと走行用モーターという2つのパワートレインを駆使することで、どのような走りを体感できるのかも非常に興味深い。そのあたりは、続報を待つしかないだろう。

100%電動バイク「ニンジャe-1」にも注目


ニンジャ7ハイブリッドとともにジャパンモビリティショー2023に出品されたニンジャe-1(筆者撮影)

ちなみに、カワサキは、今回のジャパンモビリティショーに、走行用モーターとバッテリーで100%走る電動バイク「ニンジャe-1(Ninja e-1)」も公開した。400ccクラスのロードスポーツをベースにした軽量な車体に、低速域での力強いレスポンスを持つコンパクトな電動モーターを搭載したのがこのモデル。こちらも、かなり注目度は高いのだが、1回の充電あたりの走行距離が72km(WMTCモード値)しかないのがネック。スポーツバイク・ユーザーの多くが楽しむロングツーリングなどには、ちょっと使いづらい。そのためか、現時点でこのモデルについて国内導入のアナウンスはなく、今のところ欧州や北米など海外のみでの販売となるようだ。


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従来、国産2輪メーカーが販売する電動化モデルは、商用車やスクーターなど近距離移動用が主だった。4輪車と比べ、車体が小さなオートバイでは、大容量バッテリーが搭載できず、航続距離が短いためだ。ツーリングやキャンプなど、遠方への旅を楽しむユーザーが多い大型や中型のバイク向きではない。また、欧米や中国など海外では、スタートアップ企業などがスポーツ仕様の電動バイクを販売しているが、日本市場ではまだ一般的ではない。カワサキがニンジャe-1の導入を、現時点では欧米などに絞っている理由には、そんな背景もあることがうかがえる。

ともあれ、ストロングハイブリッド機構を採用することで、電動化オートバイの課題を解消しているといえるのがニンジャ7ハイブリッドだ。高性能と良好な燃費を両立し、地球環境にも配慮したこのモデルに対し、日本のユーザーがどのような反応を示し、セールス的に成功を収めることができるのかが今後注目だ。


イタリア・ミラノで開催された2輪車ショーEICMA2023で発表されたZ7ハイブリッド(写真:カワサキモータースジャパン)

なお、カワサキは、イタリア・ミラノで開催された2輪車ショー「EICMA2023(一般公開11月9〜12日)で、同じくストロングハイブリッド機構を採用した「Z7ハイブリッド(Z7 Hybrid)」も発表した。ニンジャ7ハイブリッドと同様のエンジンや走行用モーター、バッテリーなどを搭載し、ネイキッドと呼ばれるカウルレスのスタイルを持つスポーツモデルだ。こちらも、欧州など海外だけでなく、国内導入も予定されており、電動化モデルのラインアップ強化を図っている。まだ、日本での発売時時や価格など、詳細は未発表だが、このモデルも高い注目を集めることは間違いないだろう。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)