メガバンクの株価は一進一退だ(撮影:梅谷秀司)

メガバンク3社の決算が好調だ。11月14日までに、2024年3月期上期(2023年4〜9月期)決算が出そろった。

三菱UFJフィナンシャル・グループの純利益が9272億円(前年同期比301%増)と、上期としては2005年のグループ発足以来の過去最高益を記録した。

三井住友フィナンシャルグループの純利益は5264億円(同0.2%増)と、やはり上期で過去最高。みずほフィナンシャルグループも4157億円(同24.4%増)と、高水準だった。

3社ともに通期見通しも強気

三菱UFJは米モルガン・スタンレーの15ヵ月決算で持分益が膨らむといった特殊要因こそあれど、外貨建て貸し出しや手数料収入が伸びた。三井住友も証券やカードなどグループ会社の業績が拡大した。みずほについては、半導体設計会社の英アーム・ホールディングスの主幹事に食い込むなど、北米向けの投資銀行業務が活発だった。

3社ともに、2024年3月期通期計画も強気だ。三菱UFJと三井住友が通期ベースでも最高益を更新し、みずほも最高益まであと500億円弱という水準まで到達する見込みだ。

「手応えのある決算だ」(三菱UFJの亀澤宏規社長)、「しっかりとしたスタートダッシュができた」(三井住友の伊藤文彦CFO〈最高財務責任者〉)、「業績計画を達成する自信は相応にある」(みずほの木原正裕社長)。業績について、各社の首脳はそろって自信をのぞかせた。

決算と同時に、三菱UFJは上限4000億円(2024年3月末期日)の自己株取得を発表。三井住友とみずほは、通期業績予想を上方修正した。


好業績とは裏腹に、一服感が漂うのは株価だ。3社とも9月に年初来高値をつけて以降、決算を跨いでボックス圏(株価が一定の範囲内で上下すること)で推移している。悲願である「PBR(株価純資産倍率)1倍」に、届きそうで届かない展開が続く。

株価を押し上げる材料に恵まれているにもかかわらず、三菱UFJと三井住友は決算発表の翌15日の株価が、前日に比べて終値ベースで下落した。利益確定売りに押されたほか、一因と見られるのが前日に発表されたアメリカCPI(消費者物価指数)だ。市場予想を下回ったことで利上げの終了が意識され、アメリカの長期金利が低下。つられて国内金利も低下し、連動してメガバンク株が売られたというわけだ。

「経営努力だけではいかんともしがたい」(メガバンク幹部)。この1年、3社の株価は業績をよそに、金利をめぐる思惑に翻弄されてきた。

日銀の政策転換で銀行株が急騰

発端は2022年12月20日。日本銀行はYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)を修正し、長期金利の上昇を容認した。長期金利は有価証券運用の利ザヤ拡大などに寄与するものの、本丸である貸し出し金利への恩恵は短期金利に比べて大きくない。それでも、金融緩和政策の転換が好感され、銀行株が一斉に急騰した。

銀行株は3月には、欧米銀破綻の余波で一時下落したものの、金融不安が局所的に留まったことでほどなくして底を打つ。7月には日銀によるYCCの再修正を好感し、さらに上昇。9月中旬には三菱UFJのPBRがいよいよ0.9倍の大台に乗った。


「ついにPBR1倍か」。多くのメガバンク関係者が期待したが、これ以降、メガバンクを含む約4割の銀行が9月の年初来高値を超えられない。10月末に日銀が三度目となるYCCの修正を行った際も、株価は小幅上昇にとどまり、メガバンクのPBRは0.7〜0.8倍台をうろついた。

「日銀の政策修正を通じた銀行業績への影響は、すでに相当程度織り込まれている」。ある証券アナリストは指摘する。メガバンク株は2022年末から50%超上昇している。これは一般論として、各社の利益水準もいずれ同程度に上昇すると期待されていることを意味する。

今回の好決算も、市場では想定の範囲内だったようだ。三井住友が株売却などで数百億円規模の特別利益を下期(2023年10月〜2024年3月期)に計上することを明らかにし、みずほが下期に発表すると見られていた上方修正を上期に公表するなどサプライズこそあったが、大勢に影響はなかった。

最高利益や株主還元では投資家は動かない

反対に投資家の間では、三菱UFJは純利益の通期計画を現在の1.3兆円から1.4兆円超に引き上げるという見方があったものの、今回メガバンクでは唯一上方修正を見送った。同社が発表した4000億円もの自己株買いも、もともとは5月の決算発表時に「上限3000億円での実施を発表する」との観測が上がっていた。

欧米の金融不安を受けて、その発表が5月から延期されたことで、上期決算公表時点の自己株買い発表は、ほぼ確実視されていた。金額についても、「4000億円で及第点。むしろ3000億円では失望売りが出かねない」(市場関係者)と、ハードルはさらに上がった。過去最高水準の利益や株主還元程度では、もはや投資家は動かないようだ。

果たして、メガバンクのPBRが1倍に達する日は来るのか。PBRはROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)の掛け算で示される。つまりPBRを上げるには、資本効率を改善してROEを、または投資家の期待を喚起してPERを向上させることが必要となる。

三菱UFJは2023年度をもって現在の中期経営計画が終了するため、次期中計の目標値に注目が集まる。三井住友は2023年度から新中計が始まったものの、このほど実施した上方修正によって中計最終年度の業績目標をいきなり達成してしまうことから、来期以降の利益を上積みできるかが焦点だ。

日銀の金融政策については、「来年春の賃上げ動向を見極めたうえで、必要に応じて(マイナス金利政策を)解除するのでは」(三井住友の伊藤CFO)というのが、多くの銀行関係者の見立てだ。メガバンク各社は、現状マイナス0.1%の短期金利がゼロに戻った場合、貸出金利息の増加などを通じて粗利益が300億円程度増えると、そろばんをはじく。

ただし、「マイナス金利解除さえ投資家は織り込んでいる」(先述の市場関係者)との指摘もあり、これを材料に銀行株がどこまで買われるかは未知数だ。「メガバンクは早くから買われてきた。これからは出遅れていた地方銀行の番だ」(地銀幹部)という声もある。ネット銀を除く商業銀行としては久方ぶりのPBR1倍を達成できるのか、関係者にとって当面は歯がゆい状況が続きそうだ。

(一井 純 : 東洋経済 記者)