11月7日に台北でのインテルのイベントに登壇したインテルのパット・ゲルシンガーCEO(写真:Bloomberg)

かつて半導体といえばインテルだったが、今は「半導体=NVIDIA(エヌビディア)」と言っていいほど、両者の勢いには大きな差がある。生成AIの普及によりAI向けで爆走するNVIDIAに水をあけられているインテルがこれから巻き上げることは可能なのか。

技術系CEOに変わって工場へ大型投資

インテルでは2013年5月からCEOを務めていたブライアン・クルザニッチ氏が社内の部下と不適切な関係を持ったことで2018年6月に解任された後、暫定CEOとして登場した財務出身のボブ・スワン氏が2021年までCEOを続けていた。スワンCEOの下では工場への新規投資がほとんど見られず、技術系のCEOを求める声がシリコンバレーで上がっていた。


こうした中、2021年1月にインテルのCEOに技術系のパット・ゲルシンガー氏が就任すると、製造工場への怒涛の新規投資が始まり、は新規にオハイオ工場に200億ドルを投じると発表したほか、アリゾナ工場に300億ドルの追加投資、海外では70億ドルをかけてアイルランド工場を拡張し終えた。さらにはドイツに300億ドル以上を投資ポーランドにも新工場設立を表明している。

これに伴って、製品でも特にGPU(画像処理装置)とAI機能を充実させてきた。AI機能をパソコンにも投入することに加え、スーパーコンピューター向けのGPU開発でも実力を示して来ている。

10月31日、インテルがパソコン向けのハイエンドプロセッサー「Core Ultra」を12月14日に発売すると発表した。これにはチップレットと呼ばれる先端技術が使われており、これまで競合のAMDが生成AIを駆動するクラウドコンピューター向けに搭載していたが、パソコンにはまだ使われないと考えられていた。が、インテルは満をじして、パソコン向けの高性能半導体にこの技術を使ったわけである。


インテルが12月に投入するハイエンドプロセッサー「Core Ultra」(写真:インテル)

増えるパソコン向けのハイエンド製品

これまでパソコン向けのハイエンド製品としては、AMDが9月に「Ryzen PRO7000」シリーズを発売。従来のパソコン用プロセッサーの2倍高性能だとうたっている。また、10月に入ると、クアルコムもアームのICコアを利用したハイエンド製品を発表。同社のクリスティアーノ・アモンCEOは、同社の従来のスマホ向け半導体と比較して2倍の性能があると述べている。

クアルコムがパソコン向けを出してきたのはなぜか。今回、クアルコムが投入した半導体はAI処理を専門に行えるAIアクセラレーターを集積している。パソコン用CPUにAI処理専用回路を集積することで、パソコンがこれまでとは一味違う機能を実現できるとみているからだ。

スマホ市場が停滞する中で、クアルコムはコンピューティングと自動車向けビジネスへと拡大・展開してきたが、今回の発表はインテルやAMDへの挑戦のように見えるかもしれない。だが、本当の狙いはNVIDIAである。インテル、AMDがベンチーマークとしているのも同社だ。

それぞれのパソコン向け半導体に共通するのは、AI機能である。チップはCPUのほかにGPUや周辺のインターフェイス回路などを集積しているのだが、これらに加えてAI専用プロセッサーを集積している。

パソコンにちょっとしたAI学習・推論機能を載せられるのは、端末側で専用AIを処理できるようになってきたからだ。

生成AIのような巨大なソフトなら巨大なハードウェアで対応しなければならないが、簡単なデータ処理なら専用AIで学習できる。すでにクラウドにはさまざまな学習データがあり、それらを利用、追加学習させることで自分専用のAI解析ができるわけだ。例えば、金属光沢の製品の外観検査も、AIが学習して自動化できるようになっている。

端末向けAIの市場規模は市場調査会社によってさまざまだが、数百億ドルから1000億ドルという予想もあり、今後この分野が伸びていくことは間違いない。

「目的別生成AI」も出てくる

NVIDIAはAIの学習と推論処理機能を、チップだけではなく、サブシステムやソフトウェアでも充実させてきている。さまざまスーパーコンピューターに使われている「A100」というGPUから最近の「Grace Hopper」に至るまで、AIを強力に推し進め、AI向けのソフトウェア製品群も豊富に揃えている。

だが、前述の通り、巨大な生成AIばかりがAIではない。ChatGPTを開発するオープンAIが進めているような巨大なAIソフトウェアモデル(大規模言語モデル)を学習に使うためには、巨大なハードウェア、あるいは、スケールが可能なハードウェア、つまり半導体AIチップが必要なってくる。

そこに目をつけたIBMは生成AIのビジネスに合った目的別の生成AIを提供すると発表した。GPT-3のような1750億パラメータではなく、新薬開発のように目的別のAIモデルを開発すれば、80億あるいは100億パラメータで済むことを明らかにしており、巨大なソフトウェア開発よりも目的別のソフトウェア開発に力を注ぐというわけだ。

同様なことがスマホやパソコンでも起きている。AI機能を搭載することで、それぞれの端末で学習も行わせるのだ。インテル、AMD、クアルコムともAIの学習機能を載せられるチップを開発してきた狙いはそこにある。

さらに、インテルはスーパーコンピューター用でもNVIDIAを追随しようとしている。11月はじめにスパコンの性能を評価するテストが行われ上位機種がTOP500として発表されたが、その中で性能第2位のAuroraスーパーコンピューターにインテルのXeonプロセッサーだけではなく、 Intel Data Center GPU Maxシリーズも使われていたことが明らかになった。これまでスーパーコンピューターに使われている市販のGPUはNVIDIAが圧倒的に多かった。


インテルはさらに、AIエンジンのGaudi 2を開発、この製品がNVIDIAのH100並みの性能を示した。インテルはGaudi 2アクセラレーターと第4世代のインテルXeonスケーラブル・プロセッサー、インテルAdvanced Matrix Extensions (AMX)で構成したスパコンでは、Gaudi 2は、v3.1学習GPT-3ベンチマーク上でFP8(浮動小数点8ビットの演算)データタイプを実行すると、前世代のGaudi 1と比べ2倍の性能向上を示したという。これはつまり、スパコン向けでもインテルが性能を上げてきているということだ。


NVIDIAのH100並みの性能を示したインテルのAiエンジン「Gaudi 2」(写真:インテル)

これから本格的にNVIDIAに対抗

インテルは、2022年9月に「ポンテベッキオ」というコード名のGPUを発表した後、パソコンからスパコンまで、つまりエントリーレベルからからハイエンドまでのGPUを揃えてきた。

これまでのCPUメーカーとしてのインテルが数値計算用のGPUやAI専用のICなどへ製品ポートフォリオを広げ充実させていることで、これから本格的にNVIDIAへ対抗するとみていいだろう。

AIチップの発表はここ1年くらいだが、インテルはAI研究を10年近く前から行っており、自信を見せている。インテルの攻勢はこれからギアアップすることは間違いない。


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(津田 建二 : 国際技術ジャーナリスト)