楽天グループは、12月からSPUのポイント還元率を改定。楽天モバイル優遇を色濃くする予定だ。写真は楽天グループが11月9日に開催した決算説明会で、会長兼社長の三木谷浩史氏(筆者撮影)

楽天グループは、12月1日からSPU(スーパーポイントアッププログラム)を改定する。SPUとは、同社グループのサービスを使うことで、楽天市場でのポイント還元率が上がるしくみのこと。楽天モバイルユーザーならプラス2倍、楽天カードでの決済でプラス1倍、楽天トラベルの利用でプラス1倍といった形で、付与されるポイントが増えていく。サービスを利用すればするほど、楽天市場で買い物をした際にもらえるポイントが増えるというわけだ。

12月の改定では、各サービスの倍率が見直され、最大15.5倍から16.5倍に倍率がアップする。一見、利用者にとっては朗報とも言える改定だが、ネットでは「史上最大の改悪」との声も相次いだ。それはなぜか。その理由をひも解いていくと、楽天グループが楽天モバイルの契約者獲得に向け、さらにアクセルを踏み始めたことが見えてくる。

楽天モバイル契約だけで常時5%還元

楽天は、12月1日のSPU改定で、楽天モバイル重視の旗色を鮮明にする。11月までは、楽天モバイルを契約している場合、楽天市場でのポイントが2%上昇する。楽天市場の通常ポイントは1%のため、合算すると計3%だ。6カ月間で4000ポイント以上かつ30回以上ポイントを貯めた楽天カード保有者がなれるダイヤモンド会員だと、このポイントがさらに1%上乗せされる。楽天モバイルの契約で、3%ないしは4%の上乗せがあるというわけだ。

これに対し、12月1日からはランクによるポイントの差分をなくし、楽天モバイルの契約だけでSPUのポイントを4%まで増加させる。楽天市場の通常のポイントと合わせると、還元率は5%だ。ポイントをある程度貯めつつクレジットカードを契約しなければ4%に達しない現状と比べ、条件がシンプルで、かつ幅広いユーザーが5%還元の恩恵を受けられる。楽天市場でお得な買い物をするための条件として、楽天モバイルの価値が高まったと言えるだろう。

また、モバイル回線だけでなく、楽天モバイルが運営する他のサービスも還元率が軒並み上昇している。例えば、AndroidのGoogle Playなどで利用できる「楽天モバイルキャリア決済」で月2000円以上利用した場合に上がる還元率は、0.5%から2%へと4倍も増加。固定回線の「楽天ひかり」や、モバイル回線を使う据え置き型ルーターの「Rakuten Turbo」を契約した際の還元率も、1%から2%に倍増する。楽天モバイル関連だけで、8%ぶんのポイントが上乗せされる格好だ。


最大倍率とともに、楽天モバイルの還元率が一律5%まで拡大する(画像:楽天グループ)

1万円ぶん買えば1100ポイント付与される

この状態で楽天カードを使って決済すると、通常ポイントも合わせ、計11%もの還元が実現する。1万円のものを買っただけで、1100ポイントが戻ってくるインパクトは大きいと言えるだろう。楽天ポイントは楽天市場など、楽天グループのネットサービスで利用できるのはもちろん、楽天ペイを通じて店舗での決済にも活用できる。楽天市場で日用品を1万円ぶん購入するだけで、ランチ1食分は浮いてしまう計算だ。

ちなみに、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は、データ利用量が3GB以下の場合、料金は1078円で済む。この利用額は還元率に影響を与えない。毎月、楽天市場で2万7000円程度の買い物をすれば、楽天モバイル契約ぶんとして1080ポイントが付与されるため、楽天モバイルの料金が“チャラ”になってしまう。楽天市場での買い物がこれより多ければ、差し引きでプラスになる。仮に楽天モバイル回線を使うつもりがなくても、契約していればお得になるという状況だ。その意味で、新しいSPUは、楽天市場の利用者を楽天モバイルに誘導するための色合いがこれまで以上に濃くなっている。

トータルでのポイントも最大15.5倍から16.5倍に上がり、大きな改善に見える楽天のSPUだが、ネット上では「改悪」との声も噴出した。その理由は、「上限額の低下」と「楽天カードの改悪」「達成条件の難度向上」の3つに集約される。1つ目の、上限額は非常にわかりやすい。サービスごとに付与されるポイントの上限が、あからさまに低下しているからだ。これは、還元率が上がっているサービスも同じだ。

改悪と言われる3つの理由、上限額は大きくダウン

例えば、楽天モバイルの場合、現状ではダイヤモンド会員なら7000ポイント、それ以外は6000ポイントを上限にポイントが還元される。これが、12月1日以降は一律で2000ポイントまで天井が下がってしまう。楽天モバイル絡みでは、先に挙げたキャリア決済の上限も5000ポイントから1000ポイントに低下。楽天ひかりやRakuten Turboも、5000ポイントから1000ポイントに縮小される。

楽天モバイル関連以外も、獲得上限が大きく減るサービスは多い。例えば、楽天カードの特典ぶんは、5000ポイントから1000ポイントに縮小。プレミアムカードに至っては、1万5000ポイントから5000ポイントまで上限が下がる。ほかにも、楽天証券の投資信託が5000ポイントから1000ポイント、楽天ブックスや楽天Koboが1000ポイントから500ポイントなど、上限額は軒並み減少している。毎月大量にポイントが付与されているユーザーにとって、改悪になることは事実だ。


各サービスの上限額は、軒並み低下している。これが、改悪と言われる理由の1つだ(画像:楽天グループホームページより)

また、上記のように楽天カードもポイント獲得上限は減少しているが、楽天プレミアムカードは、還元率まで下がってしまう。これが2点目の、楽天カードの改悪だ。11月までは楽天プレミアムカードの場合、ポイント倍率が特典ぶんだけで2%上がり、獲得上限も1万5000ポイントだった。この倍率優遇がなくなり、一般カードと同じ1%に引き下げされる。改定後のポイント上限は5000ポイントと、一般カードより多いが、ポイントの貯まりやすさは損なわれてしまう。

しかも、一般カードの楽天カードは年会費無料だが、楽天プレミアムカードは1万1000円と有料になる。プレミアムカードと銘打っている割には一般的なゴールドカードより安いものの、ポイント還元目当てで契約していた人には、SPUの改定が改悪に見えるはずだ。SPUと直接は関係ないが、2025年1月から、楽天プレミアムカードの特典だった空港ラウンジ利用サービスの「プライオリティ・パス」にも、年5回までという制限がつく。こうしたサービスの削減が相次ぎ、SPUへの不満も噴出した格好だ。

3つ目の達成条件の難化は、なかなか見えにくいところ。発表では、注釈で示されていたからだ。例えば、楽天ブックスは、現状だと1000円以上の注文で対象になるが、SPU改定後は3000円以上と達成のためのハードルが上がっている。楽天Koboも1000円から3000円に、Rakuten Fashionに至っては、利用だけで達成できていたところに5000円の上限がつくことになる。SPU達成のためにギリギリを狙った“ポイ活”をしていたユーザーには、これも改悪になる。

大まかに言えば、楽天モバイルさえ契約していればポイント還元率は上がるが、その上限は縮小される。率が上がり、天井が下がるわけで、そのぶん、すぐに上限に達しやすくなる。楽天モバイルに限っていえば、これまではダイヤモンド会員で約23万円ぶんの買い物をしなければ7000ポイントもらえなかったが、改定後は5万円で上限の2000ポイントに達してしまう。

改悪になるのは2割のユーザー

ただ、いくら上限が多いからと言って、毎月、楽天市場で23万円もの買い物をするのはあまり現実的ではない。その意味では、改定後のSPUのほうが、より幅広いユーザーに受け入れられやすいと言えるだろう。楽天市場での買い物が5万円以内に収まっていれば、還元率が高くなるぶん、還元額も上がるからだ。一部のポイ活に手厚く還元していたポイントを、広く薄くばらまくような改定と見ることもできる。


決算補足資料からは、一部のユーザーに集中していたポイントを、広く薄く付与する狙いが見えてくる(画像:楽天グループ決算補足資料より筆者抜粋)

ポイント目当てでヘビーに楽天市場を利用していたユーザーを逃してしまうおそれはあるが、それ以上に、裾野を広げつつ、楽天モバイルの契約者獲得を促進するメリットのほうが大きいと判断したことがうかがえる。楽天グループが11月9日に開催した決算説明会で、楽天グループの取締役副社長を務める武田和徳氏は、「改悪という声も最初のころは結構あったが、モニタリングをしていると、1週間ぐらいでほぼほぼそういった声は上がらなくなった」と語っている。

楽天グループの会長兼社長、三木谷浩史氏も、「現場からの報告ではポジティブに捉えている方が大半だと聞いている。何事も変えたときには、多少のプラスマイナスが出てくる」と、批判の声にはどこ吹く風の様子。逆に、「やってみなければわからないが、毎月5倍(通常ポイントと楽天モバイルの上乗せぶんの合算)はかなり魅力的だ」と改定には自信をのぞかせている。

実際、楽天グループによると、改定後も8割のユーザーが改定前と同程度か、むしろポイント還元額が上がるとしている。改悪になるのは2割のユーザー。8割は現状維持か、現状よりポイントが上がることになる。決算の補足資料では、ポイントを荒稼ぎする一部のユーザーは、結果として利益にならないことも示唆されていた。利益の上がらないポイ活の促進より、広く薄くポイントを配り、楽天モバイルの契約を加速させるというところに、SPU改定の狙いがあると言えそうだ。

(石野 純也 : ケータイジャーナリスト)