「日々やることを具体的に逆算していくことを心がけている」と語る品川祐さん(筆者撮影)

映画監督、作家としても存在感を放つお笑いコンビ「品川庄司」の品川祐さん(51)。11月17日公開の映画『OUT』でも監督、脚本を務めています。さらに、来年にはアメリカでゾンビ映画『Among the Dead』を撮影する予定です。作り手としての根底にある信念について聞きました。

アメリカから映画撮影のオファー

アメリカでゾンビ映画を撮る。そんなお話をいただくなんて、本当にありがたいことです。ただ、これも縁というか、一つひとつがつながったというか。そういう流れで実現したことでした。

そもそもの話、僕の知り合いがアメコミを出したいとなって、アメリカに売り込みに行くことになったんです。

僕がたくさん映像作品をやらせてもらっていることもあって、アメリカに行く前に「見てもらえませんか」と相談を受けました。僕なりにアドバイスらしきものを伝えたんですけど、知り合いがアメリカに行った時に、逆に向こうのスタッフさんから「ゾンビ映画を撮ろうと思っているんだけど、誰かいないか」と相談をされた。

「だったら、日本でゾンビ映画を撮っている監督がいますよ」となって、僕の話をしてくれたんです。「その人の映像、ネット上にありますよ」とその場でなって、僕がYouTubeにアップしていたホラー映像を見てもらったら話が進んでいった。そんな形で、まさかの話が具現化していったんです。

アメリカで映画を撮る。この文字面だけを見たら「そんなバカな」というふうにも見えるんですけど、一つひとつがつながっていくと、そういうことも起きるんですよね。

これは芸人になった頃から心がけていることなんですけど、目的地を定めて、日々やることを具体的に逆算していく。今回も完全にそのパターンだと考えています。

例えば、芸人として最初の目標を「テレビのバラエティー番組に出る」と定めたとします。いきなりそこにレギュラーで出るのはさすがに無理です。なので、まず収録前に若手芸人が観覧のお客さんを温める“前説”を目指す。

前説は行きつくところコンビでのフリートークになるので、その力をつけるためにオールナイトのライブをやる。そして、基本的な“筋力”をつけつつ、テレビ局の人と知り合いになって、なんとか前説に呼んでもらう。そこで結果を残して、また呼んでもらって、さらに知り合いを増やしていく。それをつなげていくと「番組に出演する」という目標に近づくわけです。

その目的地に行くためには何をしておかないといけないのか。それを常に考える思考方法は芸人の世界に入った頃から続けてきたものでした。

サポートを得るには目標を明確に

それと、これも強く意識してきたのが“目標をできるだけ明確に”ということです。

「プロ野球選手になりたい」よりも「ストレートで勝負できるピッチャーになりたい」と目標を立てたほうが、そのために必要なこともわかりやすい。それと、ありがたい話、周りでサポートをしてやろうと思ってくださった方がいた時にも、具体的なサポートを提示しやすい。

「飲食店をやりたい」ではなく「インドの南部のこの地方の名物カレーを出すお店をやりたい」というほうが「だったら、ウチの大学にその地域出身の人がいるから、今度会わせるよ」となりやすい。これって、ちょっとしたことかもしれませんけど、すごく大きなことだとオレは思うんです。

なので、40歳の時に「アメリカでインディーズのゾンビ映画を撮る」という目標を立てました。だからこそ、YouTubeにもゾンビ物の映像を作って残しておきました。「私はこういうことをやっていて、これくらいのことができる」という証しとして。

さらに、WOWOWで40本以上ドラマを撮ったり、経験と実績を重ねていくことも心がけました。いくらやる気があっても実績がない人に、大人は何かを頼まないですから。

それと、自分自身の行動も整理ができるというか。ゾンビ映画を撮るんだったら、特殊メイクのプロとコミュニケーションが取れるようにしておいたほうがいい。アクションシーンもあるだろうから、その分野の人と関係性を作っておいたほうがいい。そういうふうに、時間の使い方も見えてくるんですよね。

言霊じゃないけど、極力具体的なことを言っておくことが次に結びつく確率を上げてくれる。それは体感として確信しています。


「40歳の時に『アメリカでインディーズのゾンビ映画を撮る』という目標を立てていた」と語る品川祐さん(筆者撮影)

10年後、60歳の頃に何をしたいか

今回はインディーズのゾンビ映画ですけど、次の10年を経て60歳の時には製作費100億円以上のアクション映画を撮りたいと考えています。

そのためにはスタントの分野、特殊なカメラ技術、カーアクション、格闘技……そういった部分に習熟しておくことが必要。さらに、60歳の頃に声をかけてもらえる自分でいられるための実績も作っておかないといけない。

Netflixなどの監督を何本かやっておくなどになるんでしょうし、また、そのためには何が必要なのか。この目標設定、逆算、具現化という流れをこれからもやっていくんだろうなと思います。

そして、なぜそうやって目標を立てて、次のゴールを目指していくのか。これはね、気持ちイイから。楽しいから。それしかないんですよね(笑)。

今回も『OUT』の撮影が終わって飲んだ酒のおいしいこと。そして編集を終えて飲んだ酒の染みわたること。それを味わうために、日々の積み重ねをしているんだと思います。

大きな家に住みたいとか良い服が着たいとか、本当にそんな思いは今何もないんです。ただ、家族ができて、娘に借金を残すようなことをしちゃいけないなとか、やりたいと思ったことをやらせてあげたいなとか、そういう欲はできました。でも、自分はユニクロのTシャツで十二分ですし、好きなことをできるように積み重ねていく。そこに尽力したいと思っています。

相方と一緒にお笑いでも挑戦し続けたい

あと、映画とは違った道でひとつあるのは、相方の庄司(智春)と小さな小屋でもいいからアメリカで英語でネタをやる。そして、現地のお客さんを笑わせる。これはやりたいですね。

笑いというシビアなところで喜んでもらう。そのためにはアメリカの文化を知る。まず英語を勉強する。そういう積み重ねをしてウケたら、その後飲む酒はさぞかし美味しいだろう。そう思うんです。

もちろんお笑いですから、思いっきりスベる危険性もありますけど(笑)、そうやって次の楽しみを見つけていく。そのために準備をする。そうやって歳をとっていけたら、自分としては最高ですね。

■品川祐(しながわ・ひろし)
1972年4月26日生まれ。東京都出身。NSC東京校1期生。1995年、同期の庄司智春とお笑いコンビ「品川庄司」を結成する。品川ヒロシ名義で小説『ドロップ』『漫才ギャング』などを執筆。また、映画『ドロップ』(2008年)、『漫才ギャング』(2011年)、『サンブンノイチ』(2014年)、『Zアイランド』(2015年)では同名義で監督を務める。11月17日公開の映画『OUT』でも監督、脚本を担当。同作は累計発行部数650万部を突破する同名漫画を実写化したもの。出演は倉悠貴、醍醐虎汰朗、水上恒司、與那城奨、与田祐希ら。『OUT』公式ビジュアルブックも発売中。さらに、来年、ゾンビ映画『Among the Dead』をアメリカで撮影予定。

(中西 正男 : 芸能記者)