2023年11月16日、特設サイトで先行公開されたホンダの新型SUV「WR-V」(写真:三木宏章)

本田技研工業(以下、ホンダ)が、新型のコンパクトSUV「WR-V(ダブリューアールブイ)」を公式特設サイトで先行公開した。2023年12月に正式発表、2024年春に発売を予定するこの新型モデルは、タフネスさを演出した外観デザインや、カテゴリートップクラスの広い室内空間を持つことが特徴。また、200万円前半〜250万円という比較的リーズナブルな価格帯が注目だ。

まだエクステリアやインテリアなどのデザインを中心とした情報のみしか明かになっていないが、現時点でわかる範囲で、新型の特徴や商品性などについて紹介してみよう。

WR-Vはインドで販売しているエレベイトの国内版


WR-Vという車名は、「Winsome Runabout Vehicle」(ウィンサム ランナバウト ビークル)」の頭文字を取ったもので、Winsomeには「楽しさ」「快活さ」の意味があり、このクルマと生き生きとした毎日を楽しんでほしいという意味が込められている(写真:三木宏章)

新型WR-Vは、ホンダが2023年7月よりインドで発売している「エレベイト(ELEVATE)」の国内仕様車、つまり輸入車となる。開発の拠点はタイにあるホンダの研究所で、メンバーにはタイ、インド、インドネシア、日本など、多様な国のエンジニアたちが参加。さまざまな制約があったコロナ禍を乗り越え、自由の大切さや価値観の多様性を感じた現代人、とくに20〜30代のミレニアム世代をメインターゲットにすえる。

ちなみに、WR-Vという同名のホンダ車は、マレーシアでも販売されているが、こちらは車格のより小さいスモールサイズSUV。全長4mを超えるコンパクトクラスの国内版WR-Vとは違うモデルだ。


WR-Vのフロントフェイス(写真:三木宏章)

国内で販売するホンダのコンパクトSUVには、すでに「ヴェゼル(VEZEL)」が存在するが、流麗で都会的なフォルムのヴェゼルに対し、WR-Vは、よりスクエアで分厚いボディやボリューム感あるフロントグリルなどが印象的。昔ながらのSUVらしい、タフなイメージの外観デザインを持つ。このあたりは、デザインスタッフに東南アジアの出身者が参加していることも影響しているのかもしれない。


WR-Vのサイドビュー(写真:三木宏章)

また、日本と比べると、インドでは道路整備が進んでいない。それを考慮し、悪路などでも気兼ねなく、ガシガシと走れる車体の作り込みや機能なども、外観デザインに反映されていることがうかがえる。

キーワードは思い切った設定と手頃な価格のSUV


中間グレードになるZのスタイリング(写真:三木宏章)

日本仕様のWR-Vでは、ラインアップにエントリーグレードの「X」、中級グレードの「Z」、上級グレードの「Z+」といった3タイプを設定。パワートレインの詳細は未公表だが、いずれのグレードにも1.5Lガソリン車のみを設定。ヴェゼルなどに採用するハイブリッド仕様「e:HEV(イーエイチイーブイ)」車はWR-Vにはなく、駆動方式も2WD(FF)のみ。

かなり思い切った設定だが、そのぶん、価格帯は、前述のように、200万円前半から250万円までに設定。ガソリン車とハイブリッド車の両方、それに2WD(FF)と4WDを用意するヴェゼルの価格(税込み)239万9100円〜341万8800円よりも、かなり抑えた設定だといえる。

道路状況も悪いインドを想定した外観


最上級グレードとなるZ+のリアビュー(写真:三木宏章)

WR-Vのボディサイズは、全長4325mm×全幅1790mm×全高1650mm。一方、同じコンパクトSUVのヴェゼルは、全長4330mm×全幅1790mm×全高1580〜1590mmなので、サイズ感的に両モデルは近い。全高がより高いWR-Vのほうが、やや大きく見える印象すらある。

ちなみに、WR-Vの最低地上高は195mmだから、車高はかなり高めだ。ホンダの開発者によれば、「豪雨が多いインドの天候に対応し、道路がある程度の冠水状態であっても、クルマの室内へ浸水しにくくすることも考慮した」という。最近は、日本でも線状降水帯などで道路が冠水し、浸水被害を受けるクルマも増えている。その意味で、日本のユーザーにとっても、車高が高いSUVのほうが、より安心感を持てる点は同じだろう。


ZおよびZ+グレードで標準となる17インチアルミホイール(写真:三木宏章)

WR-Vの各グレードにおける外装装備の違いは、Xには16インチのスチールホイールを採用するのに対し、ZやZ+には、17インチのアルミホイールを装備。Zには、LEDフォグライトも搭載する。さらに最上級グレードのZ+では、ベルリナブラック・カラーのフロントグリル、シャープシルバー塗装が施されたルーフレールガーニッシュやドアロアーガーニッシュ、クロームメッキのアウタードアハンドルなども追加し、より高級感を演出している。

良好な視界を確保した運転席


WR-Vの運転席まわり(写真:三木宏章)

運転席からの視界は、高いアイポイントや水平基調のインストルメンタルパネルなどにより、広々として開放感も満点だ。また、フロントフードのセンター部に凹みを作るなどで、ボンネット先端の位置を見やすくし、狭い路地などでの取りまわしもしやすい工夫が施されている。

ドライビングポジションは、「ZR-V」に近いセダン的な感じで、スポーティな座り心地を演出する。ATのシフトレバーは、上下に動かすオーソドックスなタイプで、ZやZ+に採用する7インチTFTメーターは、右に速度計、左に回転計を配置する。回転計の内側には、平均車速や運転の経過時間、航続可能距離、安全運転支援システムの作動状況など、多様な情報を表示することが可能だ。ちなみに、WR-Vには、独自の安全運転支援システム「ホンダセンシング」を全グレードに標準装備し、リーズナブルな価格ながら、高い予防安全性能も併せ持つ。


Z+のシート(写真:三木宏章)

シートの生地には、Xにファブリックを採用。ZとZ+には、プライムスムースとファブリックのコンビシートを装備する。ほかにも、ZとZ+の装備では、本革巻きステアリングホイール、プライムスムースを施したドアライニングなども用意し、より高級なテイストを醸し出す。

余裕のある後席&荷室


広々としたWR-Vの後席(写真:三木宏章)

後席では、室内高やショルダー空間に余裕があるとともに、足元スペースもかなり広いことで、ゆったりと座ることができる。また、荷室は、ヴェゼルより大容量の458Lを確保し、スーツケース4個(25インチ×2、21インチ×2)を収納できる広さを持つ。さらに後席は6:4分割式で、背もたれを前に倒すことで、より広い荷室スペースを作ることも可能だ。ちなみにWR-Vは、ホイールベースを2650mmに設定。2610mmのヴェゼルより長いことで、こうした後席や荷室の広いスペースを確保しているという。


後席を倒した状態のラゲージスペース(写真:三木宏章)

ただし、ヴェゼルのように、シートを座面ごと足元へ収納できる「ダイブダウン機構」などはない。背もたれを倒すと、座面と背もたれの厚みが段差となり、ヴェゼルほどフラットにはならないのだ。そのぶん、より厚みのある後席はクッション性が高く、長距離走行でも乗員が疲れにくい効果を持つという。積載性のヴェゼルか、乗り心地のWR-Vか、このあたりはユーザーの使い方や好みにより、どちらを選ぶのかが分かれるところだろう。

ほかにも、荷室には、床下収納やコンビニフックも採用。各ドアの内側には、1Lペットボトルが収納できるポケットも用意するなど、使い勝手のいい装備も各所に用意している。

価格帯やサイズ感から考察するライバル車


写真左がZグレード、写真右がZ+グレード(写真:三木宏章)

あくまで私見だが、WR-Vのライバル車としては、おそらくトヨタ自動車(以下、トヨタ)の「ライズ」と、兄弟車であるダイハツ工業(以下、ダイハツ)の「ロッキー」になるだろう。これらは、WR-Vより車格が小さいスモールサイズSUVだが、いずれも2019年11月の発売以来、SUVセグメントで常に高い人気を誇っているヒットモデルだ。しかも、価格(税込み)は、ライズが171万7000円〜233万8000円、ロッキーは167万7000円〜237万7900円。WR-Vの価格設定は、まさにこれら2機種にぶつけてきた印象さえある。


ホンダアクセスの純正用品を装着したカスタマイズ仕様(写真:三木宏章)

両モデルには、1.2Lエンジンで発電しモーターで走るハイブリッド車もあり、ガソリン車のみのWR-Vよりもラインナップは多い。ただし、ライズとロッキーのハイブリッド車は、2023年5月19日より販売・出荷を停止している。これは、海外向け車両の側面衝突におけるダイハツの不正行為が判明したことによるものだ。現時点(2023年11月11日現在)では、販売や出荷をいつ再開するのかなど、明らかになっていない。WR-Vが発売される2024年春までに、これらライズやロッキーのハイブリッド車が再び出荷や販売されなければ、対抗車は2機種のガソリン車のみとなる。


「TOUGH STYLE」と名付けられたカスタマイズ仕様のリアビュー(写真:三木宏章)

しかも、車両のサイズ的にいえば、ライズとロッキーは全長3995mm×全幅1695mm×全高1620mmと、WR-Vよりコンパクトだ。同じような価格帯のガソリン車で、ワンランク上のモデルが買えるとすれば、WR-Vの購入を検討するユーザーもより多くなることが予想できる。ちなみに、スバル「レックス」もロッキーのOEM車だが、こちらは1.2Lガソリンの2WD車のみで、価格(税込み)182万円〜217万1100円(ハイブリッド車の設定なし)。価格帯やパワートレインの設定を考慮すると、こちらもWR-Vの競合車となる可能性は十分にある。

コンパクトSUVの人気モデルには、ほかにも、トヨタの「ヤリスクロス」もあり、価格(税込み)は189万6000円〜293万6000円。このモデルにもハイブリッド車とガソリン車の設定があるが、WR-Vと同じガソリン車の2WD(FF)であれば、価格(税込み)は189万6000円〜236万7000円。やはり価格帯はWR-Vと近い。

また、車体サイズも、ヤリスクロスのガソリン車は全長4180〜4200mm×全幅1765mm×全高1580〜1590mmだ。前述したWR-Vの車体サイズ(全長4325mm×全幅1790mm×全高1650mm)よりやや小さいが、車格的には同等だといえる。そう考えると、直接的なライバル車となるのは、ヤリスクロスのほうかもしれない。

低価格帯の新型SUV国内導入はユーザーに響くのか


Zグレードのサイドビュー(写真:三木宏章)

従来、ホンダのSUVラインナップは、ヴェゼルとZR-Vの2機種しかなかったため、豊富なラインナップを誇るトヨタをはじめ、マツダやスバルなどの他メーカーと比べると、かなり手薄だったことはたしかだ。新型WR-Vの登場により、ホンダ製SUVは、3機種で200万円〜400万円台という、より広い価格レンジをカバーすることになる。


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なかでも、200万円前半〜250万円のWR-Vは、近年成長が著しいSUV最激戦区への投入になる。しかも、開発から生産までをアジアで手掛けたモデルを日本導入するというのは、新しい試みでもある。そうしたホンダのトライアルに、日本のユーザーがどのような反響を示すのかが今後注目だ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)