なぜ「職場で電話を取らない人がいる」のでしょうか(写真:kou/PIXTA)

毎朝のことだ。営業部のベテランTさんは、自分のデスクで1日のスケジュールを立てていた。新製品の企画書に最終的な手を加えようとしている。そんな時だった。

またしても会社の固定電話が鳴りはじめた。目の前に座る若手社員のS君はスマートフォンに向かって指を滑らせているだけで、電話には一向に手を伸ばさない。

「仕方がない……」

Tさんが企画書を机の上に置き、電話に出るために立ち上がった。

「お電話ありがとうございます。ABC商事のTでございます」

Tさんが電話に出ている間、彼の本来の仕事は中断された。しかも大事な朝の時間にである!

「電話に出ない部下」は厄介な存在?

昨今このような場面が、いろいろな企業で見受けられるようになった。

昔は「電話にすぐ出ない部下」が話題になったが、最近はもっとヒドイ。「電話にまったく出ない部下」が増えているようだ。

「働かないおじさん」も困るが「電話に出ない部下」も、組織にとっては厄介な存在である。

なぜ「電話に出ない部下」は増えているのか。どう解決していったらいいのか。

今回は「電話に出ない部下」の実態と、その原因、対策について解説する。実際にそのような部下を持っている方は、ぜひ最後まで読んでいただきたい。

なぜ「電話に出ない」のか? 2つの理由

冒頭、「電話に出ない部下」は厄介だ、と書いた。しかし何を隠そう。私(54歳)も実は、電話には出たくないタイプだ。

お客様や部下とのコミュニケーションは、もっぱらテキストベース。メールやチャットが主体であり、周りの人もそれを理解している。なので電話がかかってくるとビックリする。

「何かあったのか?」

と思うし、滅多に連絡をくれない相手なら、

「売り込みか? 厄介なお願いだったらどうしよう」

と勘繰ってしまう。

実際に、AI電話自動応答・取り次ぎサービスのソフツーの調査によると「電話が怖い」「電話に出たくない」と感じている人は多い。


とくに20代ではその割合が74.8%に上るそうだ。


世代が上がるにつれて苦手意識の割合は減るが、40代でも半数以上が苦手意識を持っているらしい。

職場では44.8%の人がオフィスで固定電話が鳴ることに不快感を示し、その主な理由は「集中力の途切れと業務効率の低下」だという。

20〜30代の若者は「固定電話の使用経験の少なさ」を不安の一因として挙げているが、実際はそれだけではないようだ。

電話に出ない主な理由としては、

・怖い/面倒
・効率の低下

この2つが背景にあるようだ。

「電話そのものをなくす」という選択

「電話に出たくない」――。

それだけの理由で在宅ワークを選ぶ人や大きめのヘッドフォンをして耳をふさぐ人もいる。電話線を抜いてしまう者もいれば、会議室にこもって仕事をする人もいるようだ。

仕事に集中したい、という理由でそうする人もいるだろうが、単に見知らぬ相手からの電話が苦手だという事情もあるだろう。

どんな理由であれ、現状、職場に固定電話がある以上、無視することはできない。いつも電話をとる人が偏っていると、職場における不満は増大していくからだ。

世間では「電話そのものをなくす」という選択も広がりつつある。

「AIが進化しているのだから、WEBサイトのチャットボットを強化すればいい」「チャットボットでも対応できないものは、問合せフォームから受け付ける」

こういった意見もあるのだ。

「働き方改革で長時間労働ができなくなった。1分1秒も惜しい」「WEBサイトを見ればわかる問合せだったり、営業電話に対応している時間などない」

このような現場の声は、無視できなくなっている。わからないでもない。しかし、こうすれば本当に問題は解決するのだろうか。

上司のコップにビールをつげない若者

以前、25歳の若者と採用面接をした。流通会社に勤務する営業だ。とても成績がよく、この経験を活かして営業コンサルタントになりたいと、当社の門をたたいてくれた。

とても優秀な若者だった。最終面接もパスした。ただ、オンラインでの面接しかしていないため、一度リアルで会おうということになった。そこでコンサルタントの部下と一緒に、お酒を飲みに出かけた。

そのほうがフランクに話せると思ったからだ。本人も「ぜひ」と参加してくれた。

だがその飲み会の席で、私たちはとても引っかかることがあった。それは、彼が空いているコップにビールをつぐことができないことだ。

「コロナの時代になってから社会人になったので、慣れてないんです。ずっとオンラインで営業していたので」

と言う。私たちは「気にしないで」と言った。

「ボチボチ慣れていけばいい」と伝えた。

ところが本人は、とてもそれが気になるようだった。

「この会社に入ったら、目上の人にビールをつぐという決まりがあるんですか?」

と質問された。

「そういう決まりはないけれど、一般常識かなと思うよ」

と言ったのだが、納得がいかないようだった。

「お客様と飲みにいくときもあると思う。そういうときは、ビールをつぐだけでなく、いろんな気遣いは必要だよ」

と言っても、

「古い考えですね」

と反論するのだった。

もちろん、例えば社内の親睦会で気を遣いすぎて楽しめないのはよくないし、自分のペースで飲みたい人もいるので、無理にビールをつぐ必要はない。

ただ、そのゼロかイチの柔軟性のない態度が引っかかり、彼は不合格となってしまった。

電話に出るかどうかも一緒だ。

大事なことは、相手の立場に立って物事を考えられるか、である。フリーランスで仕事をするのならいいかもしれない。自分の都合でお客様を絞り込むことができる。

だが、組織に属している以上、自分視点だけで考えていてはいけない。

私も電話は苦手とお伝えしたが、電話はまだメジャーなコミュニケーション手段だ。メールやチャットではなく、電話で話すことを好む人や取引先はまだ大勢ある。

いくら時代が変わってきたとはいえ、まだまだ広く一般的に慣習として残っているものを全面拒否するのは、本人の可能性を狭めることになってしまわないか。

それゆえ、職場に固定電話が残っているのであれば、かかってきた電話ぐらいは出るようにすべきだと考えている。

スマホを貸与、代表電話は当番制で起きた変化

ちなみに、当社は全員にスマホを渡し、社員一人ひとりが直接電話番号を持つようにした。啓蒙活動に1年近くを要したが、顧客からのコールに直接応答する体制を整えた。

これにより、他者宛の電話に出ることはなくなった。若手社員の電話応対スキルは自然と向上し、中堅社員の負担軽減にも繋がった。

代表電話への対応は当番制にすることで、負担が偏ることも防いだ。

確かに初期投資は必要だ。セキュリティ対策など、スマートフォンの管理には新たな手間も伴う。だが、それを補ってあまりある効果はあった。

「なんで私ばかりが電話に出なくちゃいけないんですか」

と言われることがゼロになったのだ。電話対応の悪さでお客様との関係を悪化させることも防げた。

そういう意味でも「電話に出ない部下」は放置してはいけない。どの職場でも抱える問題であろうから、継続的な啓蒙活動をし続けるべきだろう。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)