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 恵まれた国民皆保険制度と高い医療水準を誇る日本。しかしその反面、医療費は毎年1兆円を超えるペースで増え続けている。その陰に“過剰診療”があるのでは、と語るのが、医師で元厚生労働省医系技官の木村盛世(もりよ)先生だ。

【写真】わかりやすいイラストで、ワル病院・ワル医者には見切りをつけて!

「患者が元気になると、医者は儲からない」

「2006年に北海道の夕張市が財政破綻したとき、公の病院が廃止になり、多くの人たちが手軽に病院に行けない医療難民になりました。

 ところが驚くべきことに、手厚い医療サービスがなくなったのに、がんや心疾患、肺炎といった高齢者に多い病気の死亡率は逆に低下したんです。増えたのは女性のがんだけ」

 病院に行かないことで、長生きが増えてしまったのがこの「夕張パラドックス」。実は新型コロナの流行下でも同じようなことが起きた。

「新型コロナの流行が始まった2020年の国内の死亡者数は、前年より8000人以上も少なかったのです。新型コロナが怖いこともあって、病院の受診回数が減ったにもかかわらず、亡くなる人が増えるどころか減ったのは注目に値します」(木村先生、以下同)

 その後は死亡者数が増えているが、これは外出自粛によって高齢者の老衰が進行したり、コロナにかかった高齢者が多かったことも影響したと、木村先生は推測する。

「拝金主義の病院や医師は、今まで高齢者や生活困窮者に何かと病名をつけたり、入院させて収入を上げてきました。

 たまに、架空請求など、診療報酬を不正に請求していた病院が報道されることも。“患者のために身を粉に働く医者”がいる反面、“ワルい医者”もいるのが現実です」

医者が健康の妨げになることも……

 木村先生は私的に病院を訪れることがほとんどない。

「私の実家は代々病院をしてますが、子どものころから父は家族を診療室に近づけませんでした。『消毒液がある=消毒しなければ危険』ということですし、別の見方をすれば、危ない病原菌が1か所に集まっているところが病院。害になることも多いため、できるだけ行かないに越したことはないですよ」

 実際、病状がより悪化したり、別の病気をもらうといった経験をした人も少なくない。

「受診すべき目安としていえるのは、心筋梗塞とか脳卒中、骨折などのケガといった緊急性のある『救急』の場合だけです。日本では、風邪をひいたら病院へ行って薬を処方してもらうのが普通になっていますが、実は世界的に見ると、すごく特殊なこと。

 しかも軽度の風邪に、肺炎予防として抗生物質を処方する医師がいますが、ウイルス性の風邪の治療には本来用いません。薬局の風邪薬でもほとんどが治るのに、不必要な医療で医療費を増大させる必要はないのです」

 その中には過剰に検査や治療を行い、診療報酬を増やそうとする“ワルい医者”がいる可能性は捨てきれない。

「海外では『病院は重症の患者が行くところ』と考えられています。38度の熱が続くと重症だ、と思い込むのは日本だけで、わざわざ病院に出向かないのが普通。

 熱のせいで意識がもうろうとして気を失うとか、呼吸が苦しくて息が吸えないような症状になって、初めて病院に行くのが海外では一般的なんです」

 さらに近年、問題視されているのが、高齢になるほど処方薬が増えていること。

「高齢者では処方薬が6つ以上になると、副作用を起こす人が増えます。服薬管理も大変。病院に行き、言われたとおりに薬を飲んだ結果、不健康になっている可能性も」

年齢によっても変わる医者との付き合い方

 多くの人が“気軽に”医療機関を利用する現在の日本の状況は、いくつかの理由が重なって生まれた。ひとつは誰でも保険医療が受けられる国民皆保険制度があること。

「素晴らしい仕組みではありますが、治療費の10%から30%の費用負担で医者にかかれることで、少し具合がよくないだけでもすぐ病院へ行く、というのが当たり前になってしまいました」

 この日本人の習性は、良からぬことを考える“ワルい医者”にとっても都合がいい。

「現在の医療制度では日本の病院は薄利多売でしかやっていけません。風邪や高血圧など軽症の治療では診察料が安い分、多くの患者に何度も来院してもらわなければ経営が成り立たない。

 それ以外に国から診療報酬の点数に応じて報酬も得ているので、投薬や検査の回数を増やせばその分、収入を上げられると考える医師もいるのです」

 職場で毎年の健康診断やがん検診がほぼ義務づけられたり、日本人の死因第1位だからといってがん検診を自治体がここまでサポートするのも日本だけだ。

「年齢を重ねるに従って身体のあちこちに不具合が出てくるのは、自然の摂理で仕方ありません。40代、50代に入ると少しずつ若いときのようにはいかなくなっていきますが、老化は病院に通えば避けられるわけではありません。

 むしろ、年を取っていく自分に慣れ、うまくやりくりをつけるほうが大切です」

 2021年時点で日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳。今後も平均寿命は延びていくと予測されている。「できるだけ長く生きる」ことと、「楽しく幸せに生きる」こと、どちらに重きをおくのか。患者がしっかり考える必要がある。

QOLを損なう!? がんや慢性病の治療

「どんな場合も“早期発見、早期治療”を掲げるのが、日本のがん医療です。極端な例としては、80歳を超えていても初期のがんが見つかれば、すぐ切除手術、それができなければ抗がん剤投与、放射線治療というのが『標準治療』になります」

 標準治療とは、専門家の間で最善と合意された治療法のこと。それに沿うなら、65歳以上では過半数があてはまる高血圧の人は、生涯、降圧剤を飲み続けることになる。

 それが保険適用になる治療法をまとめた『今日の治療指針』に記載され、標準的な医療となっているのが現状なのだ。

「問題なのは『今日の治療指針』にエビデンス(科学的根拠)がはっきりしないものや、時代遅れのものが含まれていること。

 例えば、がんの標準治療には、推奨している治療をした場合○年生存し、行わなかった場合は○年生存した、というようなデータがありません。

 ところが切除手術をすれば必ず身体を傷つけ、高齢者であれば術前術後に足腰が衰えたり認知機能低下の危険も。化学療法や放射線治療が身体に大きなダメージを与える可能性があります」

 85歳以上の高血圧治療では血圧を無理やり下げて低血圧の状態になると、頭がボーッとしてめまいやふらつきが出たり、味覚が変わって食べ物がおいしくなくなることも。

「医師は患者さんと向き合って、一人ひとりが抱えている身体の苦しみや問題を解決するのが役割。不調や不具合で生活がうまく回らないのを、正しい方向へと戻していく手助けすべきなのに、画一的な治療によってQOL(生活の質)が低下してしまうのは本末転倒です」

 しかし、悩みや苦しみにつけ込み、何度も通院させたり、余計な薬を処方して診療報酬を荒稼ぎするような、ワルい開業医がいるのも事実だ。

「もちろん、単なる医師の勉強不足というケースもあります(笑)。とはいえ、そのせいで患者の幸せな生活が妨げられては医療の意味はありません。

 これからますます高齢化のスピードが上がる日本では、適切な医療的ケアを果たしてくれる『かかりつけ医』が重要だといわれる意味はそんなところにもあります」

 かかりつけ医は本来、自宅近くのクリニックや診療所にいて、健康に関することを何でも相談できる存在だ。

「すぐ薬を出したり、たくさん検査をする医者とは違います。徹底的に治療することだけが、患者とその家族の幸せにつながるとは考えません」

 生き方も価値観も、大きな転換期を迎えている令和。

「検査結果だけ見るのなら、今はAIがあれば十分。“ワルい医者”は今後、淘汰されていくと思います。上手に医師を選び、あなたの人生を一緒に考えてくれるかかりつけ医を見つけてください」

こんな病院&医師には早めに見切りをつけて!

〜病院へ行ったらここをチェック〜

 日頃、何げなく通っている病院でも、ちょっと気をつけると「危ないサイン」がいくつも見えてくる。大人気で、はやっている医者と思っていたら、実は頼ってはいけない“ワルい”医者なのかもしれないのだ。

1. 患者の話を聞かず目を合わせない

 本来の医師の役割は一人ひとり異なる患者の状態を確認して最適の療法を施すこと。そのために一番重要なのは「傾聴」。

 患者の話にしっかり耳を傾けることで、初めて症状だけでなくその原因や本人が解決したいと考えている問題を確認でき、必要な治療や方針が明らかになる。症状だけを聞いてすべての患者に一律の治療法しか施さないのでは機械と同じ。

2. 風邪の治療に抗生物質を処方する

 ほとんどの風邪はウイルスのせいで罹患する。ところがウイルスには抗生物質はまるで効かない。抗生物質が退治できるのは緑膿菌や肺炎球菌のような「ばい菌」で、ウイルスによる風邪治療にはまったく効果がないのだ。

 不適切に服用すると抗生物質に対して抵抗性がある「薬剤耐性菌」を生んでしまい、かえって重い病気につながる。

3. 待合室が高齢者クラブ化している

 病院にやってくる顔ぶれが固定化することは3つの大きな問題がある。

(1)適正な治療が行われないので症状が改善せず、通い続けている。(2)診療を継続させ診療報酬を積み重ねるために故意に治療を引き延ばしている。(3)本来の医療行為ではなく、病院に通うことが患者の目的になっている(医師もそれを助長)。

 どれも身体の不調除去という目的に反する。

4. 医師がカルテをまだ自筆している

 医療の効率化や情報共有化を目的とした電子カルテ導入推進がスタートしてから20年以上経つが、個人病院を中心にいまだ4割が未導入。メリットのほうがはるかに大きいのに未導入のままという本当の原因は、医師が単にPCが苦手で利用できないため。

 医療が日進月歩で進化しているなかで、以前からの医療常識をベースに治療を続けている、とも考えられるので危険。

5. デスクの上に『今日の治療指針』『今日の治療薬』のみ

 日本の医療制度で「標準治療」とされる通常の「診断〜治療方針〜処方例」をまとめた『今日の治療指針』と処方される医療薬を解説した『今日の治療薬』は、勉強しない医者の虎の巻。

 一般的とされる治療方法を医学界の大御所とされる医師などがまとめた内容だが、エビデンス(科学的根拠)のない経験上の判断に基づいた内容が多く信頼性に欠ける。

6. 受付横で事務員が大忙し

 日本では医療機関は医療費の7〜9割を公的医療保険に診療報酬として請求し、収入を得る。病院経営で利益を上げたい“ワルい医者”は、多くの患者を頻繁に来院させるため、その分、医療事務員は診療報酬の計算でてんてこ舞いに。

 支払いまでの時間がかかる病院は、患者を必要以上に通わせている可能性も。

教えてくれた人……木村盛世先生●元厚生労働省医系技官で、医師・作家、元WHOコンサルタント。(社)パブリックヘルス協議会理事長。『わるい医者から命を守る65の知恵』(ビジネス社)など著書多数。

(取材・文/オフィス三銃士 イラスト/小島サエキチ)