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ここ数年、オークションを含むセカンド・マーケットでは時計の価格が高騰し、オークション市場でも、想像以上の高額落札が頻発している。その状況は現在も続いているが、しかしその傾向には少なからず変化が生じている。まず挙げられるのは、この高騰の先駆けとなったラグジュアリー・スポーツ・ウォッチの評価が落ち着き始めてきたことだ。

ロレックス、オーデマ ピゲなどの人気モデルの画像をSNSに投稿して自らのライフスタイルを発信してきた壮年・青年富裕層の一部の嗜好が、機械式時計本来の魅力である機構や仕上げをより味わえるドレス系ウォッチへと移行しつつあることがその理由のひとつといわれている。そのため、オメガのヒストリカル・モデルやパテック フィリップの古典的なハイエンド・モデル、そして大手ブランド以上に機構にこだわる独立系ブランドや個人時計師の作品が高い評価を受ける流れが生まれている。

いずれにしても、オークション市場全体がいまだ盛り上がっている状況は変わっておらず、フィリップスの時計オークションにおいても、落札率100%という好況が続いている。

さらに日本においての特筆点が、今年の歴史的な円安である。オークションに時計を出品し外貨で売却すると、一昨年・昨年にくらべて実質で3〜4割増しの円価になるのである。

以下、フィリップス時計オークションの注目ロットをいくつかピックアップしてみる。(※本文は、NYオークションの結果が出る前に執筆されたレポートです。)

【 気になる注目モデルの写真 】



F.P Journe 「Ref. T30」


HK Lot.841(11月28〜29日、香港)
予想落札額:HKD1,180,000-2,400,000
落札価格:HKD 3,024,000(約53,212,118円)

時計学校を卒業しパリの叔父の元で時計修理の仕事を手伝っていたフランソワ・ポール・ジュルヌは、自分で使う時計を作ろうと思い立ち、仕事を終えた夜と週末をその作業にあてながら、5年の歳月をかけ、1983年に最初の懐中時計を完成させる。それを見て自分にも作って欲しいという客が現れたことが、時計制作業に入る契機となった。それから数えて30周年となる2013年、ファースト・ワン懐中時計のコンセプトを腕時計へと再生した本作、「ヒストリカル・アニヴァーサリー・トゥールビヨン」、通称「T-30」を製作。ハンター・ケースバックにも見事なギョーシェが施された限定99本の作品で、 友人やブランドVIPに向け優先的に販売されたため希少価値が高い。当時の販売価格は$99,000だった。

Philippe Dufour 「Simplicity」


HK Lot.975(11月28〜29日、香港)
予想落札額:HKD 1,600,000-3,200,000
落札価格:HKD 6,905,000(約121,504,523円)

前文でも触れたが、最近の高額評価の流れである"ドレス系" "ヒストリカル独立ブランド”など、そのすべての要素を充たし、且つまた独立時計師の草分けとも言えるフィリップ・デュフォーの「シンプリシティ」の評価は留まるところを知らない。20年前にNHKで放送された「独立時計師の小宇宙」という番組で、彼が時計を構築していく細かい作業を接写レンズとハイビジョン・カメラを駆使して撮影し、その微細の世界を"小宇宙"という概念になぞらえた同番組のコンセプトは、以後の日本における機械式時計のイメージの指針となり、小宇宙の"造物主"として描かれたフィリップ・デュフォーは、今や”別格的な存在”となった感がある。この「シンプリシティ」は、シンプルなデザインと壊れにくい堅牢性を追求し、一定の力量を持つ時計師であれば誰でも、いつの時代でも整備・修理できる設計を最優先にしたもので、その想いは作品名「シンプリシティ(simplicity=簡明の意)」にも込められている。

Richard Mille 「Ref. RM 055 Ti-TZP」 


HK Lot.890(11月28〜29日、香港)
予想落札額:HKD 940,000-1,500,000
落札価格:HKD 1,890,000(約33,257,574円)

2012年と2014年の2度にわたりマスターズを制し、リシャール・ミル ファミリーの重鎮でもあるゴルファー、バッバ・ワトソンの名を冠する人気モデル。ゴルフプレイ中でも着けられるよう500Gを超える加速 / 衝撃にも耐える設計にもかかわらず、極限までのスケルトン仕様にゴルフコースを思わせる輪列が配置された「RM 055」。通常はグリーンによく映えるオール ホワイト カラーで知られているが、この作品はケース、ベゼル、ケースバック、バックル、ラバーストラップなどを黒で統一、ケースサイドにのみあしらわれたホワイトラバーがアクセントとなり、黒と白のコントラストが鮮やかな印象を与える一本となっている。アジア・マーケット用の特別限定として50本だけ製作された希少なモデルに相応しい評価となった。

Patek Philippe 「Ref. 5070J-010」


*NY Lot.56(12月10、11日NY) 
落札予想額:USD 80,000-200,000
落札価格:USD 441,000(約60,293,520円)

Patek Philippe 「Ref. 5059R-018」


*NY Lot.124(12月1011日NY)
落札予想額:USD 50,000-100,000
落札価格: USD 264,600(約36,176,112円)
2ロットまとめて紹介する。「5070」は1998年〜2009年まで、「5059」は1998年〜2007年まで、この2モデルは、ほぼ同期間にパテック フィリップのクロノグラフと永久カレンダーの主力を担ったモデルで、通常はそれほど注目を集めるものではないのだが、この2本に関しては、それぞれが非常にユニークなブラウン・ダイヤルと特別なインデックスの仕様であり、しかもパテック フィリップのコレクターとして著名な同じオーナーの元から出たという点が特筆される。ただ、カタログ上では名前を伏せる意向のようで、ヒント的に6時位置にある「MSO」という印字に触れるのみなので、ここでもそれに倣う。この「MSO」マークに価値を見出す方に向けての要素もあるため、エスティメートの幅が非常に広くなっている点が興味深い。

Omega 「Ref. 145.012-68SP」


NY Lot.169(12月10〜11日、NY)
落札予想額:USD 75,000-150,000
落札価格:USD 327,600(約44,789,472円)
オメガ「スピードマスター」の人気の裏付けには、1969年のアポロ11号の乗組員 バズ・オルドリンとともに月に降り立った歴史上最初の腕時計という事実がある。「スピードマスター」がNASAの有人宇宙飛行の公式時計に合格したのは1965年のことだが、この出品作のアーカイヴには、そのテストを指揮した元NASAのプロジェクトエンジニア、ジェームズ・H・ラガンの署名があるうえに、1968年12月6日にジョンソン宇宙センターのNASAプログラムオフィスに送られた個体であることが証明されているため、まさにムーンウォッチの”同期生”としての歴史的・文化的意味合いから注目ロットとなっている。過去にもムーンウォッチ関連は高額で落札されるケースがほとんどなので、落札額は予想を超えたものになる可能性が高い。

Grand Seiko 「Ref. SLGT001 ”KODO”」


NY Lot.100(12月10〜11日、NY)
落札予想額:―
落札価格: USD 478,800(USD 65,461,536円)
最後は日本にとって非常に興味深いロットを紹介したい。本年度のジュネーヴウォッチ グランプリにおいて、卓越した精度を備えた時計に贈られる「クロノメトリー」賞を受賞した、グランド セイコーのコンスタントフォーストゥールビヨン、Ref. SLGT001、通称”KODO(鼓動)”のユニークピースだ。これは通常のオークションとは別の仕切りで、先天性心疾患の研究に資金を提供するチルドレンズハート財団への寄付のために出品され、ユニークピースを示す番号1/1が付けられている。落札者には、グランドセイコー技術チームに会うための岩手県の「グランド セイコー スタジオ雫石」訪問を含む日本への旅行が付属する。エスティメートは明示されていないが、参考として、通常品のカタログ価格は4400万円となっている。

気になる時計をお持ちの方は、ぜひ一度、フィリップスの査定を受けてみてはいかがだろう。

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次回は2023年2月上旬に東京、名古屋、大阪にて開催予定。

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文:北村 泰(WATCH MEDIA ONLINE編集人)