観測史上最古となる134億年前の銀河をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影することに成功していたことが明らかになりました。

Astronomers Just Confirmed the Most Ancient Galaxies Ever Observed

https://singularityhub.com/2022/12/11/astronomers-just-confirmed-the-most-ancient-galaxies-ever-observed/

2022年7月、NASAはハッブル宇宙望遠鏡の後継機として打ち上げられた赤外線観測用宇宙望遠鏡のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で、初めて宇宙の撮影を行いました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の撮影したカラー写真について、NASAは「これまでで最も深く、シャープに宇宙を撮影しました」「撮影した写真には、これまで赤外線を用いて撮影された中で最も暗い天体を含む数千の銀河が写っています」と述べており、これまでの技術では撮影不可能だった天体も写り込んでいる可能性が示唆されていました。

ついにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した最初のカラー写真が公開、何千もの銀河が写り込む驚異の性能 - GIGAZINE



この時ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した写真が以下のもの。



この写真について天文学者の間では「観測史上最古の銀河が写り込んでいるのでは?」とも言われており、これを分析した結果、「ビッグバン発生から3億5000万年から4億5000万年後の、今から約134億年前に発せられた銀河の光」が写り込んでいるという論文も発表されています。

天文学者は赤方偏移と呼ばれる尺度を利用して銀河がどれだけ離れているかを正確に記述します。赤方偏移が高いほど天体がより地球から遠くにあるということを示しており、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の撮影した写真では赤方偏移が「10.5」と「12.5」の銀河が見つかりました。赤方偏移「12.5」の銀河は、「観測史上最も遠くにある銀河」であるとされています。



さらに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されているNIRCamとNIRspecを開発した研究チームのJADESが、2022年12月9日(金)にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した写真で観測史上最古の銀河を観測することに成功したと発表しました。

NIRCamの科学チームの一員であり、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で天文・天体物理学の教授も務めるブラント・ロバートソン氏は、「史上初の、ビッグバンからわずか3億5000万年後の銀河の姿を観測することに成功しました。その素晴らしい距離に絶対的な自信を持っています」と述べ、今回の発見について喜びを語っています。

研究チームはまず非常に感度の高い赤外線カメラであるNIRcamのデータを分析。これにより、前述のような「134億年前に発せられた銀河の光」や「観測史上最も遠くにある銀河」の存在を指摘することが可能になったわけです。しかし、これらが本当に134億年前の銀河なのかや、観測史上最も遠くにある銀河なのかを確認するには、初期銀河の距離と年齢を正確に分析するためのゴールドスタンダードとなっている「分光分析」を行う必要があるそうです。分光分析を行う必要がある理由について、イギリスのハートフォードシャー大学の天文学者であるエマ・カーティス=レイク氏は「より近くにある銀河が非常に遠くにある銀河になりすます可能性があるため」と説明しています。

分光分析を行うための鍵となったのがNIRspecで、これにより2つの研究を発表できたとロバートソン氏。ただし、この2つの研究はどちらも査読前の段階です。

同研究に参加したリヴァプール・ジョン・ムーア大学のレンスケ・スミット氏は、BBCのインタビューで「観測された銀河の光は、腕を伸ばして持ったポンド硬貨上の女王陛下の目の大きさと同じくらい小さい」と語っています。なお、この小さな光の中には、約10万個の銀河が含まれていると推測されているそうです。



誕生から間もない銀河の年齢を推測するために、科学者は赤方偏移を測定します。これは遠方の天体から飛来する電磁波の波長が、ドップラー効果により長くなる(可視光で言うと赤くなる)現象です。そのため、遠方に存在する古い銀河は赤外線で観測されるというだけでなく、銀河間の水素の散乱により特定の点で電磁波が途切れるという特徴があります。

研究チームはNIRcamで観測した光のうち「赤方偏移の途切れを含むもの」をより詳細に分析するために、NIRspecを利用。250個の銀河を28時間かけて観測したところ、4つの銀河で赤方偏移が「10」を超えている、つまりはかなり古い銀河であることが判明しました。研究チームによると、この4つの銀河はかなり小さく、太陽質量の1億倍ほどの質量しか持っておらず、銀河に存在する星の年齢も1億年未満のものばかりであったそうです。なお、地球が存在する天の川銀河には少なくとも1000億個の星が存在しており、太陽は約46億歳であると考えられています。

研究チームはこの若い銀河について、「驚異的なスピードで星を生成しており、同程度のサイズの既存の銀河と比べると10倍近く速い成長速度」と述べています。以下が今回研究チームにより発表された、赤方偏移が「10」を超える4つの銀河。赤方偏移は高いものから「13.20」(JADES-GS-z13-0)「12.63」(JADES-GS-z12-0)「11.58」(GS-z11-0)「10.38」(JADES-GS-z10-0)です。なお、JADES-GS-z13-0がビッグバンからわずか3億2500万年後に観測された銀河で、地球から最も離れた位置に存在する銀河。



これらの銀河は分光学的に確認された銀河としては最古のものだそうですが、すぐにより古い銀河が観測される可能性があると研究チームは言及しています。なお、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はビッグバンから1億年後という早い段階の銀河も観測できるように設計されているとのことです。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は誕生したばかりの星や銀河を研究することで、銀河の形成についてさらなる知見を深めることを目指しています。天文学者は星の強い光が水素とヘリウムから電子を奪い、周囲のガスを電離する「宇宙の再電離」を検出することを目指しており、これの観測に成功すれば今回観測された4つの銀河の形成されたタイミングも微妙に異なってくる可能性があるとのことです。