医療ドラマに転換期? ドラマ多様化の裏で影をひそめるワケ
木村拓哉さん、二宮和也さん、綾瀬はるかさん、上野樹里さんら豪華俳優陣が主演を務める2022年春ドラマも続々と最終章に差しかかっています。果たしてどの作品が熾烈(しれつ)な視聴率争いを制するのか、気になっている方も多いでしょう。
今期はミステリー、サスペンス、ラブストーリー、コメディー、青春群像劇とさまざまなジャンルのドラマがラインナップされました。一方、これまで各局がこぞって制作してきた「医療ドラマ」がどこにも見当たらないのです。今回は、その理由を考察してみます。
「世帯視聴率」から「個人視聴率」の時代へ
理由の一つとして挙げられるのが、視聴率測定方法の変化です。これまで「視聴率」といえば、一般的に「世帯視聴率(全世帯のうち、どのくらいの世帯が番組を視聴していたか)」を示していました。しかし、ライフスタイルの変化に伴い、リアルタイムで、さらに家族で同じテレビを見るという機会はめっきり少なくなってきています。
そのため、テレビ視聴率データを提供する調査機関・ビデオリサーチ社は2020年3月30日に新視聴率調査を開始。何人が番組を視聴していたかを示す「個人視聴率」の公表と、番組がオンエアから7日間以内にどのくらい録画再生されたかを示す「タイムシフト視聴率」調査の全国展開が始まり、それらが各番組の人気度を測る新たな指標となりました。
かつて、医療ものは「確実に数字が取れる」とされ、民放ドラマが2つのジャンルで埋まっていた時期もありました。たしかに全面的にドラマの視聴率が低迷し始めた2010年以降も、「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜」(第2シーズン/テレビ朝日系)、「JIN-仁-」(TBS系)などが、いずれも平均視聴率20%越えを記録しています。近年でいえば、医者やナースではなく“放射線技師”に焦点を当てた「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」(フジテレビ系)も第1シリーズが好調な視聴率を獲得し、現在劇場版も公開中です。
日本の少子高齢化と、YouTubeや動画配信サービスの台頭で若者のテレビ離れが加速し始めた2010年代。主にテレビを見ているのは中年層から高齢層で、その人たちに受けがよく、数字の取れるドラマが医療ものだったといえます。
しかし、それはあくまでも「世帯視聴率」が重視されていた時代。「個人視聴率」「タイムシフト視聴率」の導入で視聴者の性別や年齢層も明らかになりました。
民放各局は、「個人視聴率」の公表開始に伴って、より幅広い世代の視聴者獲得に乗り出し、医療ドラマの一辺倒で食傷気味だった視聴者に向けて、幅広い世代に受ける多様な作品を提供するようになったように見受けられます。
視聴者との共感を重視? “シェア欲求”の煽りが奏功
一方で、もはやテレビの視聴率だけでは、ドラマの良しあしを語れなくなってきているのも事実。近年はNetflix、Paravi、FOD、TELASA、Amazonプライム・ビデオなど、動画配信サービスも充実しています。今年4月11日から民放10局が地上波で放送するテレビ番組をネットで同時配信する「地上波リアルタイム配信」も解禁され、テレビで視聴する機会が減少しました。
また、オリコン・モニターリサーチ社が発表する「ドラマの満足度ランキング」のように、ドラマを見た世帯や個人の数ではなく、脚本・キャスト・演出などを含めた評価にも注目が集まるようになりました。フィクションとはいえ、あまりに現実離れした描写や、人物や時代の設計に違和感がある場合は視聴者が途中で視聴をやめてしまう可能性も捨て切れません。
そのため、テレビ局は幅広い世代の視聴者が、「わざわざリアルタイムで毎話見たくなる満足度の高い」ドラマを制作する必要性が出てきたといえます。
例としていくつか挙げるとするならば、2019年4・7月期に放送された 「あなたの番です(あな番)」(日本テレビ系)。企画・原案を秋元康さんが務めたこのドラマは、田中圭さんと原田知世さん演じる東京都内のマンションに引っ越してきた年の差新婚夫婦が、住民たちの“交換殺人ゲーム”に巻き込まれていく姿を描きました。マンションの住人や関係者が次々と殺害される衝撃展開に、SNSでは黒幕が誰かを予想する考察が飛び交うなど、大きな話題となりました。最終回放送後は“あな番ロス”が広がりました。
同じく大きな反響を呼び、映画化に至ったドラマといえば、2020年10月期放送の「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)」(テレビ東京系)です。“触れた人の心が読める魔法”を手に入れたさえない30歳のサラリーマン・安達清(赤楚衛二さん)と、社内随一の人気者で仕事もデキる同期・黒沢優一(町田啓太さん)の恋を描いたラブコメディー。さまざな葛藤を抱えながらも、少しずつ愛を育んでいく2人のピュアな関係に心を掴まれる人が続出。深夜枠での放送ながら、日本のみならず海外でも熱狂的なファンを生み出しました。
「あな番」「チェリまほ」のヒットから見えてくるのは、誰かと共有したくなる作品づくりが功を奏すること。SNSの常時接続が当たり前となっている現代において、驚きや感動を気持ちが薄れないうちに誰かと分かち合いたい、自分の考えをシェアしたいと思わせることは“バズ”を狙う(SNSで爆発的な話題を集める)上で欠かせない要素となっています。「あな番」は黒幕を突き止めたい、「チェリまほ」は2人を見守りたいという視聴者の気持ちと同時に、“シェア欲求”を高ぶらせたことでヒットにつながったのではないでしょうか。
一方で、医師がさまざまな患者の命を救う一話完結型が多い医療ドラマはマンネリ化しやすく、「わざわざリアルタイムで毎話見たくなる」というところまで到達しにくいのかもしれません。もちろん全ての作品が当てはまるわけではなく、上白石萌音さん演じる新米ナースが主人公の「恋はつづくよどこまでも」や石原さとみさん演じる法医解剖医の奮闘を描いた「アンナチュラル」(ともにTBS系)など、医療ドラマでも反響を呼んだ作品はあります。
ただ、前者は佐藤健さん演じるドSな医師と主人公の胸キュンあふれる恋模様に注目が集まりました。また後者も井浦新さん演じる主人公と同じ解剖医の恋人を殺害した犯人は誰なのかという作品を貫く一本の謎や、脚本家・野木亜紀子さんの現代人の心に響くセリフなどが視聴者の関心を引き、どちらも「視聴率が高いのは医療ものだから」という言葉では語りきれない魅力が詰まっています。
医療という、ただでさえ正確な知識が必要とされる難解なジャンルで上質なドラマをつくるには、確かな実力を持ったクリエイターとスタッフが求められます。世界中の素晴らしい作品を見る機会が増え、視聴者の目も肥えている今、医療ドラマ制作の難易度はどんどん上がってきているのではないでしょうか。 視聴者の共感を呼ぶ、医療ドラマが今後、誕生することも期待したいと思います。
