うまく資産形成しているつもりの人、注意が必要です(写真:rainmaker / PIXTA)

コロナ禍の中、今ちょっとした「資産形成」ブームが起きている。

日銀が6月に発表した資金循環統計(速報)によれば、2021年3月時点の家計の金融資産は過去最高の1946兆円となった。このうち現金・預金の割合が半分を占めるのは相変わらずだが、株式や投資信託の伸びも大きく、消費がへこんだ一方で金融資産は増えている。

コロナ禍で暮らしの先行きが不透明という事情はあるにしろ、貯めたい・増やしたい人が今、多いということだろう。節約や資産形成の指南書も次々出版され、SNSやYouTubeでも人気のテーマだ。

その多くはためになる内容だが、「一般論では正しいが、もう少し先まで考えないと逆効果では」と気になってしまうものもある。やっただけで満足している、例えばこんなことはないだろうか。

まずは、節約でよく聞く「固定費の見直し」だ。お金の専門家が口をそろえて言うのが、「節約効果が大きいのは食費よりも固定費」というフレーズ。たとえ野菜や肉を買う量を削ったところで減らせる金額はそう大きくはない。それより、通信費や保険料こそ見直せば、一気に数千円〜数万円を一気にダウンできるし、減額効果が毎月ずっと続く――というわけだ。
もちろん、その通り。そのこと自体に異論はない。しかし、問題は、その浮いたお金はどうなった? という点だ。

それまで引き落としになっていた固定費分のお金が、浮いてそのまま口座に残っていたとする。お金に色がついているわけではないので、なんとなく使ってしまっても全く気づかない。結局、固定費を見直してお金が浮いたまではいいのだが、それが生活費や遊興費にただスライド――では、せっかく節約した意味は半減ではないか。固定費を見直したことに満足して終わり、ではなく、その浮いたお金の分を積み立てに回すなり、別の口座に振り替えるなり、そこまでやってこその節約術だろう。

春にスマホのプランを見直して、それまでの通信費が浮いた人も多いだろうが、その差額は今どうなっているのだろうか? そういえばなんとなく…となっていないことを祈る。

家計簿をつけただけで満足している?

「節約してお金を貯めるには、まず家計簿をつけることから」というアドバイスもよく聞く。自分がどんなものに・いくらお金を使っているか知るためには、確かに役立つ。が、つけただけで終わっているケースも少なくない。

家計簿は、言ってみれば支出簿だ。できるだけ細かくつけた方がいいと思っている人もいるが、それよりすべきは、収入に対して支出が赤字か黒字かを計算することだ。細かい支出の中身よりも全体の把握が肝心なのだが、その計算をしたがらない人が結構いる。痩せたいとは言っても、体重計に乗りたくないのと同じ心理だろう。現実を見せられるのはしんどいのはわかる。

しかし、本気で節約したいなら、そこからでないと始まらない。黒字なら、今よりもっと貯蓄や投資に回せる金額が割り出せるし、赤字ならいくら削る必要があるのか戦略が立てられる。その次に、細かい支出のチェックに向かえばいい。

家計簿についてはそれぞれ考え方があるだろうが、個人的には黒字かつ一定金額を毎月積み立てできているなら、こまごまと支出を記録する必要はないと考えている。貯めるお金と、使うお金は別会計だからだ。

上手にお金を貯められない人は、一念発起して家計簿をつけるよりも、まず先取り貯蓄分と引き落とし分を除いた生活費を銀行口座から下ろし、一度お札を数えてみるほうがいい。使えるお金の現実がわかって、嫌でも節約しようと思うだろう。

iDeCoを始めました」だけで安心してはいけない

最初にも触れたが、個人金融資産のうち株や投資信託の保有残高が顕著に伸びている。つみたてNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)を始めたという人が増えているのも要因だろう。特に、私的年金となるiDeCoの加入率は、近年では毎月4万人ベースで増加しており、2021年5月時点で200万人を突破した。コツコツ老後資金を作るという目的もさりながら、掛け金全額が所得から控除され、そのぶん納める税金の負担が減るという節税メリットがアピールされていることが大きい。人は「トクですよ」という囁きに弱いのだ。

iDeCoで老後に備えることは、もちろんやるべきだ。しかし、始めただけで安心してはいけない。もし資産を増やしたいなら、節税できて浮いた金額をなんとなく消費してしまってはもったいないからだ。

特に、住民税からの節税は還付金が戻るわけではなく、天引きされる金額が軽くなるだけ。自分でその分を取り分ける必要がある。会社員で所得税10%、住民税10%の人なら、年間の掛け金に20%をかけた分がざっくり節税分なので、毎月2万3000円拠出しているなら5万5200円。「節税したというけど、そのお金どこに行った?」ということにならないように、その分を年初にでも引き出したほうがいい。

注意すべきことがもうひとつある。老後が心配なあまり、iDeCoや個人年金保険にばかり資金を回している人がいる。60歳まで下せない「おトクな制度」に資金をつぎ込み、いつでも使える預貯金がほとんどできない。結局、足りない生活費はカードローンの借り入れなどでしのぐ――なんて本末転倒なことにならないように注意しよう。

先のiDeCoもそうだが、低金利時代の今、「節税になる」「お金が戻る」という謳い文句があふれている。寄付したお金が控除対象になる「ふるさと納税」人気も相変わらずで、特に年末にかけて利用する人が増える。

しかし、節税効果というのは、税金をたっぷり払っている人にこそ恩恵が高いもの。源泉徴収されている会社員などの場合、自分の課税所得がいくらなのか、把握していないまま「ふるさと納税」をせっせとしている人もいるのではないか。

また、確定申告不要のワンストップ特例制度を利用すると節税になるのは住民税のみのため、天引きされる額が減るだけで恩恵に気づきにくいのはiDeCoで書いたとおりだ。

節税になる制度を利用するなら、まずは自分の払っている税金と所得税率を知ることからスタートしよう(一般的な会社員なら税率5〜20%というところだろう)。

住宅ローン控除の駆け込みにも要注意

オトクな制度にこだわると、逆に家計を圧迫することにだってなりえる。例えば、住宅ローン控除だ。時限措置として、10年間の住宅ローン控除を3年延長して13年とする特例が設けられているが、これは消費税率10%へのアップに伴う景気刺激策だった。しかし、コロナ禍で2022年12月末入居までが特例の対象と延長されたため、駆け込み購入を狙う人もいるだろう。

そこに拍車をかけるのが、控除率の見直しの動きだ。この減税制度は、4000万円を上限に年末のローン残高の1%を控除してくれる(1%控除は10年間。11年目からは制度が変わる)のだが、今や多くの利用者が金利1%未満の変動金利ローンを選んでいる。つまり、負担する利息よりも控除される金額の方が多いという逆ザヤ現象にあるわけだ。それを問題視し、1%控除のあり方を見直すべきとの方針が政府から打ち出されている。

となると、頭金をせっせと貯めるより、早めになるべく多額の住宅ローンを組んだ方がトクだ、という風潮になる。

しかし、控除を受けるために多額のローンを組もうという発想は健全と言えるだろうか。特に東京23区内は住宅価格が高騰中で、不動産経済研究所によると新築分譲マンションの平均価格は7000万円近辺とすさまじい。パワーカップルがペアローンを組んで購入するとしても、お互いに数千万円のローンを抱えることになるのだ。1%控除のうまみを受けるためとはいえ、それが本当におトクな選択だろうか。 多額の住宅ローン返済が生活コスト増や貯蓄の妨げになっては元も子もない。

損得は、一面から見ているだけでは気づかないこともある。セオリー上はたしかによい制度でも、それはあくまでそれ単体としてのメリットだ。それを自分事に置き換えて、総合的にみて、先まで検証することが必要だ。「資産形成はほったらかしでOK」なんて言われるが、お金持ちほど自分のお金に常に目を配るものだ。資産をなすのは、そんなに簡単なことではない。