電気自動車が搭載しているバッテリーは、一般にガソリンエンジンよりも重いため、電気自動車は同クラスのガソリン車より(PDFファイル)車体が重く、このバッテリーの重さが電気自動車の燃費改善のネックとなっています。スウェーデン・チャルマース工科大学のLeif Asp教授は、強度を持たせたバッテリーをボディの一部にすることで、バッテリーの荷重を実質ゼロにする「Structural Battery(構造的バッテリー)」の開発に取り組んでいます。

Big breakthrough for ’massless’ energy storage | Chalmers

https://www.chalmers.se/en/departments/ims/news/Pages/Big-breakthrough-for-%E2%80%99massless%E2%80%99-energy-storage.aspx

バッテリーを車体の一部にするというアイデアは、以前から提唱されています。例えば、イタリアの自動車メーカー・ランボルギーニとマサチューセッツ工科大学は2017年に、ホイールにバッテリーを組み込んで軽量化と省スペース化を果たす電気自動車のコンセプトモデル「テルツォ・ミッレニオ」を発表しました。

車体そのものに充電することでバッテリーが不要のスーパーEV「テルツォ・ミッレニオ」をランボルギーニとMITがコラボで発表 - GIGAZINE



こうした「構造的バッテリー」の実用化には、強度とバッテリーとしての性能を両立させるという課題をクリアする必要があります。そこで、Asp教授らの研究チームは、炭素繊維強化炭素複合材料などに使われるカーボンファイバーがバッテリーの負極としての機能を持つことに着目。スウェーデン王立工科大学の研究者らと共同で、高い強度と剛性を保ちつつ電気エネルギーの貯蔵が可能なカーボンファイバー製の構造的バッテリーを開発しました。

以下が、Asp教授らが試作した構造的バッテリーです。このバッテリーは、カーボンファイバー製の電極とリン酸鉄リチウム製の電極をグラスファイバー製の布で隔てて、そこに電解液を含浸させることで製造されました。



この構造的バッテリーのエネルギー密度は24Wh/kgで、重量当たりの容量は現行のリチウムイオンバッテリーの約20%ほどとのこと。この点について、研究チームは「この構造的バッテリーをボティに使えば、車体の重量を大幅に減らし電気自動車を走らせるのに必要な電気エネルギーを少なくすることが可能で、剛性も一般的な建築材料に匹敵する25GPa(ギガパスカル)あります。また、エネルギー密度が低いというのは、安全性の面ではむしろ有利だと言えます」と説明しています。

また、Asp教授は「これまで作られた構造的バッテリーは機械的特性か電気的特性、つまり強度か容量のどちらかが優れているというものにとどまっていましたが、カーボンファイバーを採用することでその両方において競争力のある構造的バッテリーを設計することに成功しました」とコメントしました。



研究チームは今後、スウェーデン国立宇宙委員会が出資する新プロジェクトにより、この構造的バッテリーをさらに改良する予定とのこと。これにより、最終的には75Wh/kgのエネルギー密度と、アルミニウムに匹敵する75GPaの剛性を誇る構造的バッテリーが実現すると、Asp教授は見込んでいます。