ソフトバンクロボティクスのロボット戦略 ニューノーマル時代に向けて配膳/運搬ロボット「Servi」発表、清掃・人型ロボットの現状を聞く
その中核の企業のひとつ、ソフトバンクロボティクスは9月28日に自律移動する配膳ロボット「Servi」(サービィ)を発表して話題になった。
自律走行で料理を運んできた配膳ロボット「Servi」。女優の広瀬すずさんが体験(関連記事「【速報】ソフトバンクロボティクスが配膳ロボットに参入「Servi」(サービィ)を発表 テーブル選択するだけで自動運転で料理を運搬」)
配膳ロボット「Servi」はソフトバンクロボティクスにとって、コミュニケーションロボット「Pepper」、AI清掃ロボット「Whiz」等に続く、第3の柱となる。CEOの冨澤氏は、発表会でコロナ禍やコロナ終息後の「ニューノーマル時代」を見据え、ロボットの役割の重要性を語った。
日本経済はコロナ禍で深刻なダメージを受け、働き方や仕事のあり方が大きく変わろうとしている。その中でロボットが果たすべき役割とは何か、清掃ロボットや配膳ロボット発表の手ごたえ、Pepperの今後の展開など、ソフトバンクロボティクスグループのCEOの冨澤氏と、ソフトバンクロボティクスのCBOの坂田氏に聞いた。
編集部:
新型コロナ感染症はソフトバンクロボティクスグループのビジネスや働き方にも大きく影響を及ぼしていますか?
冨澤氏:
新型コロナ感染症は私たちソフトバンクロボティクスグループ全体に大きな影響を及ぼしていて、戦略も大きく変更しています。具体的に言うと、今一番、念頭にあるのは"コロナ禍やコロナ後の「ニューノーマル」時代に社会や人々に貢献できるロボットを提供していきたい"という思いです。今回発表した配膳ロボット「Servi」、AI清掃ロボットの「Whiz」は、自動化/省人化のニーズに応える業務用ロボットであり、Pepperにおいても検温やマスク着用と消毒を呼びかける機能などを新たに発表しました。
ソフトバンクロボティクスグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 冨澤文秀氏
編集部:
AI清掃ロボット「Whiz」はコロナ禍の影響で売上は伸びていますか? それとも下がっている傾向ですか?
冨澤氏:
コロナ禍で「Whiz」の導入は伸びています。ウイルス全般はドアノブや取っ手などに付着しているだけでなく、大半は床に落ちているという調査結果があります。清掃ロボットは床や床から舞い上がったダストを吸引するので、施設を清潔に保つとともに結果的にウイルス全般を除去する効果があると考えられています。
AI清掃ロボット「Whiz i」。従来モデルより清掃性能を1.6倍アップした新型を10月に発売する 関連記事「【速報】AI清掃ロボット「Whiz」の新型機「Whiz i」が発表 清掃性能が1.6倍にアップ、ダストセンサーで清潔度を見える化」
編集部:
今回、新たに配膳ロボットを発表されましたが、その商品化はコロナ禍がきっかけで検討しはじめたのでしょうか?
冨澤氏:
いえ、配膳ロボットについては数年前から検討してきました。連携パートナーを模索し、試作機を含めて候補となるロボットをいくつか見てきましたが、「Servi」のBear Roboticsのロボットが最も優れていたので「一緒にやろう」と決めました。それが2年くらい前のことです。
●清掃ロボットと配膳ロボットに要求される技術レベルはまったく異なる
編集部:
清掃ロボット「Whiz」や「RS26」も自動運搬の技術が使われています。それらの技術を配膳ロボットに応用するという戦術もあったと思いますが、「Whiz」のBrain社ではなく、配膳ロボットはBear社と連携したのはどうしてでしょうか?
冨澤氏:
自動運転の技術としては同じように見えるかもしれませんが、実は掃除ロボットと配膳ロボットとでは、技術的なアプローチがまったく異なります。
「Servi」は指定されたテーブルに自律移動で料理を運ぶロボット。狭い通路(60cmまで)でも走行でき、靴やカバンなどが床にあっても避けることができる
坂田氏:
「Whiz」と「Servi」の価格(月額料金)にも表れていますが、センシング技術にかけているコストが異なり、精度も全くちがうものになっています。清掃ロボットは広いところをまんべんなく清掃していくのがメインの業務で、人や障害物があればよければよいという発想です。一方で配膳ロボットの場合、60cmの狭い通路の中でお客様や従業員が頻繁に歩き回り、床にはカバンや靴が置いてあるかもしれない、そのような環境でもぶつからず、邪魔をせず自律移動して動き回る業務に求められるセンシングやルーティング、運動制御技術の精度がまったく違うのです。
ソフトバンクロボティクス株式会社 常務執行役員 兼 CBO 坂田大氏
冨澤氏:
わかりやすく言えば、「Whiz」の技術では配膳ロボットは作れないし、配膳ロボットの技術を「Whiz」に使うとコストが合わないものになります。
●「Servi」は遠隔操作でマップを自動作成
編集部:
なるほど。「Servi」にはどのようにしてコースや位置を学習させるのでしょうか。
坂田氏:
タブレットを使って「Servi」を遠隔操作して、店内の状況や各テーブルの位置を学習させます。記憶したテーブルが「Servi」の画面パネルに表示されるので、スタッフは料理を配膳したいテーブルを選ぶだけで「Servi」が自律移動して運びます。複数のテーブルを選択すれば、選んだ順番にテーブルを回ることもできます。
操作は画面でテーブル番号をタッチするだけ、簡単でシンプル
編集部:
動画の中では、「Servi」がテーブルに料理を運ぶと、レストランの従業員がテーブル上にサーブしていました。デモではお客様が料理をセルフで「Servi」から取る、という形態でした。どちらが想定している使用形態なのでしょうか
坂田氏:
それはそれぞれレストランや飲食店が選んでいただければよいと考えています。従業員がサーブするべきと考えるか、お客様にセルフでとっていただくことをお願いしたい、と考えるかです。例えば、セルフのスタイルが一般的な食べ放題の店舗ですと、ロボットがテーブルに持ってきた料理をお客様が自分たちでどんどん取っていただくことが可能です。また、使い終わった食器がテーブルに山積みになっていることも多いと思いますが、お客様自身にロボットにセルフで乗せて下膳させたいというニーズも多いと思っています。ロボットが配膳/下膳をすることで、余裕ができたスタッフの時間をお客様の接客時間にあてていただくことができます
冨澤氏:
実証実験では「配膳の作業負担が減っただけでも従業員さんの業務効率が著しく向上した」という評価をもらいました。従業員さんがお客様の接客に集中できるので、よくありがちな「従業員が配膳に走り回っていて呼んでも全然来てくれない」といったトラブルが減ったという声もあります。
編集部:
複数のテーブルに対して一度に「Servi」が配膳する場合は、お客様が料理を間違ってとってしまう、ということが懸念されますね
坂田氏:
お客様にセルフでとっていただく場合は、一度に複数のテーブルに配膳する機能はあえて使わず、1テーブルずつ「Servi」が配膳するようにしましょう、と飲食店様に働きかけて、運用で工夫して頂いています。
●「Servi」の最大のセールスポイントは
編集部:
他社からも配膳ロボットの発表が出始めています。「Servi」の最大の差別化ポイントを改めて教えてください。
冨澤氏:
他社の製品もいろいろと見てきましたが、どれも「Servi」の相手にはなりません。ビデオ動画ではなく、実際に稼働しているところを見てもらえば、認識能力や制御能力など、正確性やスムーズさで「Servi」は特出していることがわかると思います。
坂田氏:
飲食店の方々も既に他社の配膳ロボットをいろいろ見ていると思います。そういう方たちに渋谷の「Pepper PARLOR」に来ていただいて、「Servi」が稼働しているところを見た瞬間に「これはすごい」と評価していただくケースが圧倒的に多い(「Servi」は渋谷「Pepper PARLOR」等で稼働中)。一度でも見ていただければ、レストランで使われるために徹底的にブラッシュアップされていることがひと目で理解していただけると感じています。
これから開店するという店舗様の中には、お店のデザインやテーブル配置、キッチンとホールの通路など、「Servi」の導入を前提で設計したいという声もいただいています。ロボットを100%使い切りたいという思いとともに、ロボットと人が動きやすい、働きやすいお店を目指しているんですね。
編集部:
「Whiz」の場合は販売パートナーも発表されましたが、「Servi」は直販するのでしょうか? 導入時に技術的な設定などは必要ないのでしょうか?
坂田氏:
販売パートナーを順次ご案内していく予定です。販売パートナー様がエンジニアを確保していただく必要はありません。導入時にマッピングしたデータをクラウドと送受信するのにWi-Fiは使用しますが、通常の運用ではWi-Fiも使用しません(通信によるトラブルがないので安定稼働できる)。
製品や導入に関するご質問やご相談、実証実験等、お問い合わせ先は現時点では当社にお願いします。
●Pepperは「コロナ対策サポーター」に就任
編集部:
最後に「Pepper」についての現状と今後を教えてください。
坂田氏:
「Pepper」については従来の路線を継続しつつ、ニューノーマル時代のニーズに合わせた機能を追加していきたいと考えています。例えば、この度発表した「サーマルPepper パック」や遠隔操作機能などです。Pepperは人を惹きつけるチカラを持っているので、その特性を活かしてソリューションに繋げたいと思っています。
実はコロナ禍にあってPepperの露出度も上がっています。西村康稔・新型コロナウイルス感染症対策担当大臣から委嘱され「コロナ対策サポーター」に就任しました。また、東京都の軽症者等受け入れ宿泊療養施設で、入居者の皆様のお出迎えや受付を行っています。
ソフトバンクロボティクスは、2020年9月3日にPepperがコロナ対策サポーターに就任したことを発表していて、今後は政府の特設サイトや弊社のSNS等で、テクノロジーを活かした感染症対策や生活様式の紹介、新型コロナウイルス感染症対策の知識や理解を深めるための情報発信、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のダウンロードを呼びかけるなどの活動を行っていく予定だ。任期は2021年3月末まで。
東京都は、新型コロナウイルス感染症の陽性患者のうち、入院治療が必要ない軽症や無症状の人を受け入れる宿泊療養施設に「Pepper」とAI清掃ロボット「Whiz」を導入している。新たに開設した施設に試験的にロボットを導入し、入居時の出迎えや清掃作業をさせる取り組みだ。「Whiz」は、食事等の受け渡しをするホテルロビーなど、人の出入りが制限される「レッドゾーン」において、正確で効率的な清掃を担当している。「Whiz」にはHEPAフィルターが搭載されているので、空間の浮遊菌量も削減することが期待されている。
(神崎 洋治)