求められる最低限の基本姿勢、肝に銘じておきたいことを解説します(写真:ロイター/Kim Kyung Hoon)

新型コロナウイルス特措法にもとづく緊急事態宣言が継続している首都圏4都県と北海道について、政府が5月25日に専門家会議などを開催し、解除する方向で検討段階に入ったことを複数メディアが報じています。実現すれば全都道府県で解除されることになり、経済活動の再開がいよいよ進んでいくことになります。

しかし、第2波、第3波が危惧されているうえに、各自治体の判断が異なることもあり、「開放的になりすぎてもいけないし、だからと言って、抑制的すぎる必要もない」と、さじ加減が難しいところ。外出時に白い目で見られたり、“自粛警察”の標的になったりしないように過ごしたいものです。

私は感染症の専門家ではなく、経済の専門家でもありません。あくまで人間関係と生き方のコンサルタントという立ち位置から、緊急事態宣言解除後にどう振る舞ったらいいか、どんなマナーが求められるのか。緊急事態宣言の発令中、私のところに寄せられた相談者さんの声を交えながらつづっていきます。

離れてしまった距離を縮めていいのか

まず挙げておきたいのは、対人関係。緊急事態宣言の発令中、私のもとには家族や友人とのコミュニケーションに悩む人々からの相談が寄せられました。

「妻が向き合って会話してくれないし、食事の席も離れていますし、あからさまに僕を遠ざけるようになりました。その理由は僕が『週2〜3日電車通勤しているから』。妻の気持ちもわかりますが、僕の存在自体が嫌なものだと思われている感じで、こちらもイライラますし、すぐに険悪なムードになってしまいます」(30代男性)

この男性のように通勤などで外出する人は、家族から距離を取られてしまうケースが多く見られました。家族に限らず友人や同僚のケースも含めて、このような人は「緊急事態宣言が解除されたから」と言って、その距離感を急に縮めようとしないことが大切。

相手目線で見たら「急に縮められたら、かえって離れたくなる」ものであり、それをきっかけにケンカに発展しやすいので、解除後もしばらくは距離感を変えず「少しずつ元に戻していく」、あるいは「相手から距離感を縮めるのを待つ」ほうが円満な関係につながりやすいものです。

「駅から自宅への帰り道、あまりに暑かったので『あと少しで家に着くからいいかな』と思ってマスクを外したら、ひと言も話したことがない近所の人から『非常識だよ』と叱られました。ムカッときたのでマスクをつけて反論したら、顔をそむけられて去り際に『こういうバカに言っても仕方がないか』と吐き捨てられたんですよ。これくらいのことで暴言を吐くなんておかしくないですか?」(20代男性)

緊急事態宣言の期間が長くなったことで、「不満をためた“自粛警察”が自分の身近なところにもいる」と感じた人は少なくないでしょう。それは解除後も第2波の不安が消えないかぎり変わらないだけに、外出先では「『自分が感染しているかもしれない』という前提で、他人に感染させない」ための配慮が求められます。

そのような配慮は近しい人にも必要であり、「マスクをつける」「少し横を向いて話す」「大声で話さない」「微熱があるときは会わない」「(家や会社で)外出先から帰ってきたら手を洗う」などの基本的なマナーは必須。「感染予防」という理由以上に、「親しき仲にも礼儀あり」の姿勢が「この人は自分のことを大事にしてくれる」という優しさを感じさせ、相手との関係性はよくなるでしょう。

友人関係の白黒をはっきりつける

外出自粛によって友人グループで会う機会が減ったことも、その関係性に影を落とし、悩みにつながっていました。

「いい飲み仲間だと思っていた友人たちとの関係性に悩んでいます。何度か5人でリモート飲み会をして近況報告をしたのですが、友人たちが何かにつけて『それはよくないよ』とか、『やめたほうがいい』とか否定されることが多くて、今後の付き合い方を考えてしまいました。『価値観が違うのかな』『何で上から目線なんだろう』と思いましたし、悪気はないのかもしれませんが、LINEのグループでも私だけ浮いてしまうようになった気がします……」(40代女性)

これまでのコミュニケーション形式がいったん途切れ、まったく話さなくなったり、手段がネットツールに変わったりしたことで、価値観の違いなどに気づかされ、「友人との関係性に疑問を抱いた」という相談も目立ちました。

緊急事態宣言が解除されたら元に戻るから、まあいいか」と、なし崩しにするのではなく、価値観の違いを認めたうえで付き合っていくのか。それとも、この機会に関係性をきっぱり絶つのか。気づきを得たタイミングだけに、自らの意思で決めることが大切です。

また、シビアなときだからこそ、友人に同じ価値観やノリを要求しないことも大切。自分にそのつもりはなくても、相手はあなたが常識のない人や自粛警察に見えるかもしれないのです。

その意味でぜひ覚えておいてほしいのが、友人にできるだけ「コロナ禍のストレスを口にしない」「政府やテレビ番組、政治家や芸能人などを批判しない」こと。何気なく言ったつもりでも相手からしたら楽しくないうえに、「ネガティブな発言に合わせて」「あなたもそう思うでしょ」という同調圧力を感じさせてしまいます。

まだまだ制限され、配慮が求められる生活が続く中、わざわざコミュニケーションを取っている相手がネガティブなことばかり言っていたら、その人を好きになり、「また会いたい」と思うでしょうか。図らずもコロナ禍で友人関係の必要性も見直されることになり、今後は互いに「この人と会いたい」「この人となら楽しく会話できる」と思える存在でいることが重要なのです。

飲食店における最低限のマナー

次に触れておきたいのは、外出と外出先での言動。飲食店やアミューズメント施設の営業再開が拡大することで、これまで以上に利用者側の姿勢が問われることになるでしょう。

「ラーメン屋に入っていただけで店の外を歩く人たちから白い目で見られましたし、会社で話したら先輩から『今はやめとけ』とダメ出しされました。緊急事態宣言が解除されたら『食べたかったものを全部食べに行こう』と思っていますが、特に問題ありませんよね?」(30代男性)

まさに昨日、このようなメールが届きました。もちろん、飲食店に入るも入らないも個人の自由。第2波の不安がある反面、一概に比較することはできませんが、飲食店の来客数が通常どおりに戻った国もあるなど、「他人に感染させない配慮をする」「それを周りにわかりやすい形で見せる」というだけの話ではないでしょうか。

 主なマナーとしては、「マスクをして店に入る」「入口に置かれた消毒液で手を消毒する」「できるだけ1人で行く(大勢で行かない)」「できれば横並びの席に座る」「直箸や回し飲みは避ける」「隣席が近いときはあまり話さない」「店員を大きな声で呼ばない」「店員と話すときは横を向いてあげる」「電話は店の外に出てする」「混んでいたらいったんあきらめる(行列を作らない)」「食べ(飲み)終わったら長居しない」が挙げられます。

テレワークが減り、出勤日が増えたときに気をつけたいのがランチタイム。たとえば、「昼休みに同僚数人で連れ立ってランチに行く」「そこで長々と会話を交わす」のは、やや会社の品位を落とす行為になるでしょう。現段階では、自分や同僚だけでなく、同じ店の客や店員を守る姿勢が最低限のマナーと言えるのです。

また、会社の飲み会もクラスターになってしまうリスクがある以上、開催の是非はグレーゾーン。もし飲み会を行った飲食店がクラスターとなり、社内に複数の感染者が出たら、業務にも支障が発生し、責任問題になりかねません。もし主催者になるのなら、店選びを筆頭に感染対策を徹底するのが望ましいでしょう。

客側だけでなく、店側からの悩み相談メールもいくつか届いていますが、その内容は実にシビアなものでした。

「店の経営的には、『苦しいながらも何とか持ちこたえている』という状況ですが、それでも緊急事態宣言が解除されて、どこかの国のように『“リベンジ消費”の客が殺到したらどうしよう……』と店員たちが怖がっています。『ある程度は来てほしいけど、多すぎると怖い』という複雑な心境です。私たちは腹をくくるしかないのでしょうか?」(40代男性)

このようなメールが、ショッピングモールのテナント、アパレルショップ、家電量販店など複数業態のスタッフから届きました。特別定額給付金の10万円もあり、ショッピングを考えている人は多いでしょうが、飲食店と同様に購入者としてのマナーが必要。まだ平時に戻ったわけではない以上、やはり「客だから」という上から目線ではなく、感染対策に加えて「営業再開してくれてありがとう」とスタッフを気遣う優しさが必要ではないでしょうか。

外出できないから友達とも会えないし、買い物にも行けないし、寂しくてやることもなくて、一人でいる悲しさが身に染みました。ずっとやろうと思っていたけど、心のどこかで避けていた婚活を始めたいと思っています。何をどう始めたらいいでしょうか」(20代女性)

実はこの1カ月間で22人もの男女から婚活の相談が届きました。外出自粛の日々が長引くほど、一人でいることの心細さを感じるのは当然であり、東日本大震災の発生後がそうだったように、今回も多くの人々が婚活を始めるきっかけになりそうです。

前述したように、人間関係を見つめ直す人が多い現在は、価値観のすり合わせがしやすく、意気投合につながりやすい婚活の絶好機。特に今回のような緊急時の価値観が一致する相手とは、危機を乗り越えやすい夫婦になれる傾向があります。実際、現在は婚活アプリなどを積極的に活用している人も多く、ポジティブな意味で“コロナ婚”を目指すのもいいのではないでしょうか。

働き方の提案を受け入れやすい時期

もう1つ、みなさんに伝えておきたいのは、ビジネスシーンでの振る舞い。私のもとには、主に働き方に関するいくつかの相談が寄せられました。

「週に1回だけ出社してあとはリモートワークをしていましたが、大きなトラブルなくやれています。それより、混んでいる電車に乗らなくていいし、上司と顔を合わせなくていいし、余計なお金もつかわないし、いいこと尽くめなので、元に戻ったらやっていけるのか不安です」(30代男性)

相談メールの中で最も多かったのは、この男性と同じように「元の働き方に戻りたくない」というもの。出退勤、会議、資料、ツールなど、これまでの慣習で続いていたもので、業務の遂行と収益に支障がないのであれば、この機会が会社側にそれを見直してもらうチャンスです。

会社は大小の差はあれど、変わり続けながら存続していくものであり、よほど無能な経営者でない限り、その意識はあるはず。今は経営者や上司が話し合いの場を持ちやすく、部下の声を聞き入れやすいタイミングだけに、今後の働き方を積極的に相談しながら決めていきたいところです。

「そうは言っても自分から会社を変えるのは難しい」と思うかもしれませんが、1つ間違いなく言えるのは、経営者も上司もコロナ禍は初めての経験であり、対処法がわからないこと。部下からの提案を受け入れやすく、会社の助けとなり、信頼関係の構築につながる可能性が十分ありえるのです。

「独身一人暮らしなので、どうしても食事が偏ってしまうし、飲酒量も増えてしまいました。ときどき腹痛もあるんですが、これくらいのことで病院の世話になっていいのか、わからなくて困っています。とりあえず頑張って生活習慣を変えるしかないのでしょうか?」(40代男性)

ビジネスシーンで活躍するために留意してほしいのは健康面。外出自粛によって、「家での食事になり、やせた人と太った人」「酒量が減った人と増えた人」「体を動かしていた人と運動不足の人」などの差がこれまで以上に大きくなっています。

緊急事態宣言の解除で再び生活習慣が変わると、さらに体調管理が難しくなるだけに、特に健康面の悪化を感じる人は、まずはそれを戻すための努力をしておいたほうがいいでしょう。一流のビジネスパーソンを自負するのなら、今の時期に「新型コロナウイルスに感染していないのに、別の疾患で医療機関の世話になる」という失態だけは避けたいところです。

「最悪のケース」の想定も忘れずに

当然ながら緊急事態宣言が解除されたところで、元の生活に戻るわけではありませんが、だからと言って今すぐに新たな生活様式の社会に移行することもないでしょう。まだまだ段階的な制限があり、配慮が必要な日々が続くからこそ、その中で「公私ともに生産性を上げていこう」という姿勢が求められています。

具体的には、前述したような「人との距離感」「働き方」「プライベートの過ごし方」「その他のルーティーン」などを見直し、自分にとって適切なものを選ぶこと。この1カ月半あまりで得られた気づきを生かし、自らの言動で自分と周囲の人々を守りながら生活していけるか。誰もがシビアな時期を体験したことで、リスタートの第一歩となる緊急事態宣言の解除後は、「生き生きと過ごせるか」「周囲からの評価を得られるか」の差がはっきり表れるでしょう。


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また、ビジネスシーンと同様に、前を向いて進むだけではなく、最悪のケースを想定しておくことも大事。例えば、「第2波、第3波が2週間後に来たら……公私ともにどんな言動で乗り切っていくのか」を考えておく姿勢が望まれます。

これは裏を返せば、「最悪のケースを想定しておけば、リスタートの際に適切な言動の範囲をつかみやすい」ということ。いずれにしても、「急に言動を変える」という急激な変化は禁物であり、それをした自分自身どこか後ろめたさがあり、周囲からの信頼も得られにくいでしょう。その意味で、東京都が掲げたロードマップのように、自分なりの言動を段階的に緩和・解禁していく形はアリなのです。