「みんなiPhone」は平成まで? アナタの知らない『分離プラン』後の世界
もはや生活に欠かせないインフラになりつつあるスマートフォン。その料金体系が大きく変わりそうです。携帯電話の料金体系が今までと大きく変わることで「値下げになるはずの新プランで、携帯代が高くなる」といった事態に陥る可能性もあります。そのキーワードとなる『分離プラン』について、現状と今後の課題を整理しました。

「分離プラン」とは何かを大まかに説明しましょう。スマートフォンを含む携帯電話サービスは、「携帯電話端末」と「通信サービス」という2つの要素を組み合せて利用します。この2つの要素をそれぞれ独立して販売するようにしよう、というのが「分離プラン」の趣旨です。

NTTドコモが4月に発表した新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」は分離プランです。また、au(KDDI)の主力プラン「ピタットプラン」「フラットプラン」とソフトバンクの主力プラン「ウルトラギガモンスター+」「ミニモンスター」も分離プランに相当します。NTTドコモが移行することで、大手3キャリアすべてが分離プランを導入することになります。

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これまで、携帯電話大手3社は携帯電話と通信サービスを事実上、一体のものとして販売してきました。たとえば「携帯電話の通信サービスを2年間利用する代わりに、携帯電話の購入代金相当の○○万円を割引します」とったように、携帯電話代金を大幅値引きしたり、時には"キャッシュバック"をつけて販売してきました。分離プランでは、この販売手法は原則としてなくなります。



大手キャリアが分離プランに移行する背景には、政府による法制化があります。ことの発端は、2018年8月に菅官房長官が「携帯電話料金は海外と比べても高い。4割程度、値下げできる余地がある」と発言したことでした。それが電気通信事業法の改正として、強制力を持って実現することになります。
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分離プラン導入後は「通信と端末のセット契約による割引」が原則として禁止されます。しかし、この法制化後、料金プランの設定は大手キャリアの裁量に任されています。したがって、"分離プラン後の世界"では「携帯電話料金は値下げするかは不透明だが、サービスを利用するために必要なスマートフォンの価格は高騰する」という状況になる可能性もあります。

■注目はドコモ夏モデルの「購入補助」

分離プラン化によって「大手キャリアのスマートフォンが高くなる」かについては、まだ不透明な部分があります。それは、NTTドコモが「ギガホ」発表時に予告した「新しい購入補助制度」の存在です。

NTTドコモは4月に「ギガホ」を発表した際、「新料金プランにあわせた新しい購入補助制度を検討している。夏モデルの発表にあわせて提供したい」と予告しています。同社の吉澤社長の発言からは、今までほど高額な割引は見込めないものの、スマートフォンを買いやすくするような新制度を検討していることが伺えます。ドコモの「ギガホ」「ギガライト」の印象は、この購入補助制度がいかに使いやすく、お得な制度となるかにかかっていると言えるでしょう。

■ユーザーにとっては「値上げ」の可能性も

スマートフォンを割引なしで購入し、別に調達した通信サービスと組み合わせて使う形態は、諸外国でも導入されており、一般的な販売方法と言えます。一方で、米国やヨーロッパ各国ではスマートフォンと回線セットで割引となる販売形態も残されており、「分離プランオンリー」となっている国は多くはありません。多くの国では「一定期間の通信サービスの利用を条件として機種代金を大幅に割引するプラン」と「機種代金は定価だが、利用期間を縛られないプラン」の2種類が提供されています。

ここで注意しておきたいのは、大手3キャリアを含む携帯電話キャリアは民間事業者で、政府がその通信サービスの提供価格を直接コントロールすることはできない、ということ。分離プランが法制化されたとしても、大手キャリアでの通信料金が安くなるとは限らないのです。

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■分離プラン導入の狙いは「競争促進」

今年2019年の国会では、政府提出法案として電気通信事業法の改正案が含まれており、衆議院ではすでに可決され、ゴールデンウィークが明けた5月上旬には、参議院でも可決される見通しです。この法案は「大手キャリアに分離プランへの移行を義務づける」内容となっています。

政府の中で通信行政を担当する総務省では、「携帯電話市場の競争促進」をスローガンに、各種の政策を打ち出してきました。その中心となるのが大手キャリアから通信回線を借り受けて携帯サービスを提供する「MVNO」の推進です。しかし、MVNOの普及は進んでいるとは言いがたい状況です。「格安SIM」という言葉とともにMVNOのサービスが知られるようになって数年経とうとしていますが、シェアはMVNO全社あわせて11.3%(2018年6月時点)にとどまっています。

総務省の見立ては、資金力のある大手キャリアが、回線を販売するために端末を大幅に値引きするため、MVNOのサービス拡大の妨げになっているのではないか、というもの。「分離プラン」を導入して割引販売を条件とした回線契約をなくせば、MVNOの契約も増えるだろう、というのが法制化の狙いと言えます。

■「格安スマホ」「中古スマホ」が台頭か

実は「分離プラン」の法制化後もスマートフォン(端末)の価格は、販売者が自由に設定できます。禁止されたのは「通信を条件とした割引」なので、通信契約なしでも同じ価格で販売するならば、ハイエンドスマートフォンに数万円の割引をつけることも可能です。

とはいえ実際には、通信契約が使われなくてはキャリアにとっての収益が見込めないため、スマートフォン単体での販売では、現在の「月々サポート」や「毎月割」のような高額な割引は望めないでしょう。

1つ考えられるパターンとしては、「端末メーカーによる割引」の可能性があります。海外メーカーが、あえて端末に大きな割引をつけて販売することで、大幅にシェアを伸ばすという戦略をとる可能性はあり得ます。特にたとえば中国メーカーのファーウェイやOPPOのように、コストパフォーマンスの良い機種を主力で販売しているメーカーには大きくシェアを伸ばすチャンスと言えます。



また、分離プラン化によって総務省が狙う目標の1つに、「中古スマホ市場の活性化」があります。中古スマホ市場では、ゲオや携帯市場など販売社による業界団体が結成され、その存在感を高めています。スマホが急激に高性能化していた2012年頃と違い、現代のスマートフォンでは2年前の機種でも常用できる性能があるため、分離プラン化が進めば、中古スマホをお店で買って使うというスタイルも広まるかもしれません。



ただし、古いスマートフォンを使い続けるのはセキュリティー上の懸念があります。その上、「そもそも新品のスマートフォンの販売数が減るなら、中古スマートフォンの入荷数が減ってしまうのではないか」という疑問もあります。
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■ハイエンドスマホには逆風

「格安スマホ」がシェアを伸ばす一方で、高性能な機種が売れなくなることが予想されます。特に日本で50%前後の市場シェアを持つAppleのiPhoneはすべてがほぼハイエンドモデルとなっているため、キャリアによる割引がなくなると、ますます手に届きづらい価格になってしまうものと思われます。



さらに国内メーカーにとっては、分離プラン化は向かい風となりえます。日本向け仕様のスマートフォンは、これまで大手キャリア3社が大口の顧客として製造数の大部分を購入してきました。分離プラン化によって、大手キャリアのスマートフォン販売数はこれまでより減少することが予想されます。そして、機種代金は全体的に高くなるため、これまでのよりも安く製造することが求められるようになります。スマートフォンを低コストで製造するためには、製造数を大幅に拡大する必要があるため、最悪のケースでは、この制度変更が日本メーカー撤退の決定打となるかもしれません。

■「5G導入推進」との矛盾も

2020年には次世代のモバイル通信サービス「5G」が日本でもスタートします。新しいモバイル通信の仕組みを利用するためには、新しい端末が必ず必要となります。これまでのキャリアの「購入補助」は、新しいスマホを買いやすくし、新技術の普及を促してきた側面もあります。その観点からみると、分離プランの導入は5Gへの移行の妨げになる可能性があります。



ただし、2019年時点で「分離プラン」が導入されているのは現行の4G LTE向け料金プランのみ。5Gでは全く違う料金体系となる可能性もあります。また、5G時代にはスマートフォンだけでなく、家電や家具などさまざまなモノに通信機能が搭載されるようになる可能性があります。そうした「モノ向けの通信料金」はスマートフォンとはまったく違う形になるものと思われます。5Gが普及した後の世界がどうなっているか明確でない以上、今の時点(2019年5月)で5Gでの影響を考えるのは時期尚早かもしれません。