なぜ、阿部一二三は強いのか 筋トレより睡眠した方が強くなる「肉体的才能」
全日本男子体力強化部長・岡田隆氏が語る、「東京五輪の星」の体のヒミツ
華麗なる一本勝ちで多くの人を魅了する柔道、阿部一二三(日体大)。現在、国際柔道連盟の世界ランキング1位に座し、2020年東京五輪での活躍が期待される柔道界のヒーローの強さについて、柔道全日本男子体力強化部門長である岡田隆氏(日体大准教授)に聞いた。
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柔道など様々なスポーツでよく、「フィジカル負けをする」という言い方をします。柔道の場合、海外選手にフィジカル負けをするというのは、筋肉量で相手に負けていることを意味することがほとんどです。体を車に例えると、筋肉のサイズ=エンジンのサイズ。つまり、筋肉が大きいほど、発揮する筋パワーも大きくなります。
日本人は骨格などの要因から、体重が重い選手では筋肉が十分に付きにくい傾向があります。したがって体が大きくなるほど外国人と筋肉量の差は開くため、例えば柔道の重量級やラグビーなど、競技によっては諸外国と戦う際、肉体的ハンディにつながります。
一方、体が小さいと諸外国の選手との差が出にくい。柔道でいうと軽量級の選手は、諸外国の選手と対比すると、筋肉量で引けを取る事もなくなります。また、軽量級の選手は国内で自分より体の大きな選手との稽古が可能。よって、ウェートトレーニングにそれほど時間を割かなくても、自分より重く力が強い選手との稽古で、試合に必要な筋肉量を自然とつけられる利点もあります。
筋肉の成長が早い才能溢れるアスリートの場合、通常の稽古でも筋肉がギチギチに詰まってしまう可能性もあるのです。したがってむやみなウェートトレーニングによる筋肥大は、階級で定められる体重上限を過度にオーバーしてしまう事になり、過酷な減量を強いられて疲弊した状態で試合に出なければならなくなります。
とはいえ、競技に必要な練習だけを行えば、肉体的に必要なものが自然と備わる体というのは、宝石のような素晴らしい才能の一つです。最近の柔道軽量級でいうと、阿部一二三選手の肉体的才能はずば抜けています。まず、彼の体は形が非常に美しい。筋肉量は申し分なく、脂肪が削れてくる減量時期ともなると、バキバキに割れた腹筋が表面に現れる。しかも彼は、筋肉を増やすためのウェートトレーニングをしなくても、その肉体を維持できるのです。
ウェートトレより睡眠? 肉体的才能がもたらすメリット
阿部選手からウェートトレーニングや食事に関して相談されることもありますが、基本、ウェートトレーニングはケガの予防に必要な補強トレーニングなどを中心としています。また、栄養も細かなサプリメントは摂らず、すべて食事から必要な栄養素を摂ればよいと指導。体に余計な負担をかけず、常に100%いい状態で、100%のエフォートを稽古に投入させるためです。
稽古は心身ともによい状態であるほど、精密な動作ができ、そして自身を強烈に追い込むことができます。筋肉量が足りない選手は稽古以外の時間を使い、様々な補強トレーニングで筋力の強化を図らなければなりません。しかもウェートトレーニングをすれば必ず筋肉は強く疲労するので、翌日の稽古は100%の状態で臨めない。つまり、稽古の質が少し下がってしまいます。
ですから、阿部選手のようにすでに十分な筋肉量があるならば、ウェートトレーニングをするよりも精神的リラックスや睡眠などに当てたほうが良いし、大量のタンパク質の消化吸収にエネルギーをとられるより、普通の食事をしっかりとるほうがいい。肉体的才能を持つ選手が、毎日、100点満点の練習を続ければ、他の選手との力の差は、間違いなく広がっていくからです。
では、世界で活躍する選手を目指す子どもたちが、阿部選手から学べることとは何か? 「筋トレをして、阿部選手のような筋肉をつけましょう」ではありません。「阿部選手のように質のいい稽古を、たくさんしておきしましょう」です。
阿部選手は多彩な投げ技を持ち、強烈な一本勝ちを決める柔道家です。難しい体勢からも相手を投げる感覚のよさ、体の使い方のうまさには、いつも驚かされます。しかし、彼の「投げる」力は、元々の才能だけで得られるものではありません。小さい頃から稽古をやりこんだ結果、身についたものです。
日々の練習を100%の状態で臨み、100%の力を出し切ること
柔道は技がかかるか、かからないかで勝負が決まります。そして、世界大会のような一流の選手同士が戦う試合ともなると、お互いが100点の技、あるいは101点ぐらいの技を出せないとかかりません。それほどわずかな力の差でせめぎ合うトップレベルでは、いくら阿部選手でも、日々、質の高い稽古を続けなければ、勝ち続けることができないレベルです。
昨今では、フィジカルトレーニングや食事の大切さも認知されてきました。しかし、競技力を伸ばすためには、スキル練習が最も重要です。筋肉がつきにくい中学生ぐらいまでは間違いなく、筋トレよりも自分に必要だと思う技術練習を、どんどん積み重ねてほしいと思います。しかし、技術の成長は中学生で止まる訳では有りません。技術を伸ばす努力は、どの年代であっても大きなエフォートを支払うべきです。
練習の質が下がれば、本当にすごい選手にはなれません。日々の練習を100%の状態で臨み、100%の力を出し切る。当たり前のことかもしれませんが、強くなるためにはこれがもっとも大切なのです。
<バズーカ岡田氏が指南、最短で体を変える自宅トレ!>
骨格筋評論家・バズーカ岡田氏が指南する体作りのアンサー「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」が好評を博している。
筋トレは、同じように動作しているつもりでも成果は0にも100にもなる。少しの知識と技術が足りないだけで、時間も労力も無駄になってしまう。本書は、解剖学、筋生理学、理学療法などを学び、実践の場ではトップアスリートから高齢者までを指導した著者が、筋トレをする人が知っておかないと損をする情報をまとめた一冊。わかりにくい動作を動画で確認するためのQRコード付き。(長島恭子 / Kyoko Nagashima)
長島恭子
編集・ライター。サッカー専門誌、フリーランスを経て編集ユニット、Lush!を設立。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌、WEBなどで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『肩こりには脇もみが効く』(藤本靖著、マガシンハウス)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。
岡田隆
1980年、愛知県生まれ。日体大准教授、柔道全日本男子チーム体力強化部門長、理学療法士。16年リオデジャネイロ五輪では、柔道7階級のメダル制覇に貢献。大学で教鞭を執りつつ、骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でテレビ、雑誌などメディアでも活躍。トレーニング科学からボディメーク、健康、ダイエットなど幅広いテーマで情報を発信する。また、現役ボディビルダーでもあり、2016年に日本社会人ボディビル選手権大会で優勝。「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」「HIIT 体脂肪が落ちる最強トレーニング」(ともにサンマーク出版)他、著書多数。
