ファミマのお弁当が“突然、おいしくなった”理由

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売り上げが13カ月連続で同年前月比を上回ったファミマ。その大躍進を支えたのは、中食構造改革、つまりお弁当の大改革があったのだ。ファミマ反転攻勢の裏側を密着取材した!

■ムチャクチャ高いけどムチャクチャ美味しい

ファミリーマートの業績が順調だ。既存店の前年同月比売り上げが2015年の4月以来、16年の4月まで13カ月連続でプラスになった。ファミマは日本ではセブン、ローソンと並ぶ3強。しかし、トップのセブンとは、日販においてはまだ大きな差がついている。16年2月期において、セブン−イレブン・ジャパンの日販65万6000円に対し、ファミマは51万6000円である。

店舗数、売り上げにおいて長らく業界3位がその定位置となっていたファミマだが、現在、反転攻勢のための計画が整いつつある。その計画の中核をなすのが9月からのサークルKサンクスを傘下に収めるユニーグループ・ホールディングスとの経営統合という一大イベントである。

コンビニは上位2社しか生き残れない――。上田準二会長の持論だ。ファミマは今後、どのようにトップ争いに躍り出ようとしているのか、その大戦略を探る。

「今度発売された『うにのクリームパスタ』。これまでのコンビニ弁当と比べてムチャクチャ高いと思いませんか?」と、話すのは、ファミマでフード改革を担当する中食構造改革推進部長の足立幸隆氏だ。続けて「(値段は高いけど)味はさらにムチャクチャ美味しいでしょう」と笑う。たしかに税込み598円のスパゲティは、コンビニ弁当にしては少し高い。

「これは“ハレの日パスタ”なんです。毎日は食べない。だけど1週間頑張った自分にちょっとしたご褒美で買っていただきたいんです」

ファミマは惣菜の商品構成を3つに分けて考えている。第1が「常備惣菜」、第2が「メインのおかずとつまみ」、第3が「自分へのご褒美」だ。少々高くても、プレミアム感があれば、消費者は買ってくれる。クリスマスにローストビーフの豪華サラダを出したところ、よく売れた。他社との差別化と客単価アップのため、高品質フードの開発は欠かせない。

とはいえ、あくまでコンビニで求められる価格帯内でなければならない。キーワードは“コンビニ化”だ。例えばレストランのうにパスタは、最低でも1500円以上はするだろう。それをいかにして、味や品質を保ちつつ、コンビニの価格帯に落とし込めるかがポイントになる。レストランなどで食べる外食、自宅で調理する内食に対し、外で買ってきて自宅やオフィスで食べるのが「中食」だ。コンビニにとって、ナショナルブランド商品とは異なり、プライベートブランドとして他社と差別化しやすいカテゴリーだ。利益率も高いため、どのコンビニチェーンも、中食の開発に力を注ぐ。弁当などの目的買いが増えれば、そのほかのドリンクや雑誌、菓子などのついで買いなど併売効果も狙える。

■こうしておにぎりは美味しくなった

14年、ファミマは、中食の改革を目的に掲げた専門の新部署を立ち上げた。その名も「中食構造改革推進部」。従来の縦割り式の各部署を横断することで、あらゆる商品の抜本的なリニューアルを推し進める。

改革第一弾はおにぎりだった。おにぎりはコンビニの顔とも呼べる商品だが、これが「あまり美味しくなかった」。商品本部長の本多利範氏によると、米を炊いた後の蒸らし工程に問題があったという。

「これまでは、炊飯後の米を蒸らした直後に、98度から一気に瞬間冷却していました。しかしこれだと、まだ米に水分が付着しているままなので、味が劣化してしまうんです。これを改善するため、蒸らした後に水分を吸い取る装置を付けました。70度以下に冷ました米を冷却すれば、米の旨みは失われずに保存することができます」

海苔も季節に合わせて乾燥度を変化させ、さらに米の水分が移らないよう、3層シートに取り換えた。おにぎり、弁当、から揚げ、サラダ、パスタ、ラーメン……、あらゆる商品の問題点を徹底的に改善した。

サンドイッチのハムは、これまでメーカーからスライスしたものを仕入れていたが、塊肉を仕入れ、工場でスライスするようにした。美味しい部位まで使えるほか、ハムのしっとり感は増し、コストは下がった。パスタ用のトマトソースも、パック詰めの仕入れをやめ、工場で一からつくるようにした。

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(左)「お肉ごろごろビーフカレー」。その名の通りの肉のゴロゴロ感に加え、ご飯の立体的な盛り付けが特徴。
(中央)「育てるサラダ」。買ってびっくりした人も多い。これは水をやって「育てるサラダ」なのだ。
(右)ファミリーマート 中食構造改革推進部長 足立幸隆氏

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当然、新機械導入などコストもかかるため、工場の工程も見直した。

「13年頃、多品目製造を抱えた工場は疲弊しきっていました。そこで各工場の生産アイテムを、およそ200アイテムから100アイテムへと半減させました。それまで弁当やサンドイッチなど、管理温度帯が異なる商品も一工場で生産していましたが、これも新たに専門工場をつくり、分散化しました。結局、美味しいものをつくるためには、ある程度投資も必要なのです」(足立氏)

一方、店舗ではフードの商品数が半減したわけだが、売り上げは下がるどころか、逆に上がったという。

「結局、あの狭いスペースに200アイテムものフードなんて並ばないんです。だから、この店はこの弁当を、あの店はあの弁当と発注が分散する。あるいは多種品目を数個ずつ発注して、売り場が雑然となってしまう。これは一見、選択肢が豊富なように思えて、実はお客様の目には、売れ残り商品が並んでいるように映り、購買意欲が低下してしまう」(足立氏)

もちろんオフィス立地や住宅街立地など、店舗によってニーズは異なるため、商品に幅を持たせる必要はある。だが、地域に合わせて調味料を変えるなど、必然性は低く、工場の負担が大きい工程は極力省いた。

その結果、赤字体質が続いてきた工場の効率は改善され、黒字に転換。余剰分を投資に回せるようになった。

中食以外にも、昨年5682アイテムあった商品は、今年は4600以下に削減し、その結果、新規商品の導入率は50%台から80%台に上昇した。死に筋商品が省かれ、新商品がどんどん店頭に並ぶ好循環が生まれたのだ。

「実はお客様は、毎日日替わりで違う商品が欲しいのではなく、ある程度自分の欲しい商品というのは決まっているんですね。つまり「数打てば当たる」というマーチャンダイジングはやめ、お客様のニーズを絞り込み、その商品の品質向上や販促に力を入れることに、本多商品本部長の号令一下、舵を切ったんです」(足立氏)

■ドミナント戦略にかける思い

中食の抜本的な見直しと並行して進めるのが、店舗数の拡大だ。ファミマはサークルKサンクスを傘下に収めるユニーグループ・ホールディングスと経営統合し、9月には正式に「ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社」が発足する。16年6月時点で、日本全国に6243店舗あるサークルKサンクスは、2年半をかけて順次ファミマへと看板を替える。閉鎖店舗も出るだろうが、単純に計算して、ファミマは現在の1万1000店舗強から、1万8000店舗弱と、トップのセブンに肉迫することになる(16年6月時点で、セブンの国内店舗数は、1万8785店舗)。

もっとも店舗数増加に関しては、単純に喜んでばかりもいられない。業界初の規模となる今回の統合は、同時にリスクもはらんでいるからだ。ファミマは10年にも、当時業界7位だったエーエム・ピーエムを吸収合併した経験を持つが、当時のエーエム・ピーエムの店舗数は約1100店舗と今回より小規模だった(実際にファミマとして残ったのは733店舗)。今回はそれをはるかに上回る店舗数を、2年半で統合するのだ。莫大なコストや労力もかかる。

それでもなお店舗数増大にこだわる背景には、「ドミナント戦略」(狭い地域への集中展開)を徹底させたい思惑がある。日本のコンビニを事実上生み育てた鈴木敏文氏が、セブンの事業スタートに際し、出店エリアを厳格に制限してきたのは有名な話だ。1号店が豊洲にオープンして以来、当面は新規出店を「江東区から一歩も出るな」と指示したという。

ある特定の地区に限定して大量に出店するメリットは、物流の効率化と宣伝コストの抑制にある。一気に全国展開すれば、広範囲エリアに物品を配送する労力・コストは跳ね上がる。当初からそれを見据えてドミナントを徹底してきたセブンと、後続のローソン、ファミマに、次第に体力面で差が表れた理由の一つだ。今回の統合で、ファミマは物流コストを1年間で約40億円カットできると見込んでいる。なかでも東京、愛知、大阪の3大都市圏で、セブンを抜いて店舗数トップに躍り出る意義は大きいと考えている。

タイのセブンのコンサルタントを担当している物流コンサルタントの池田勝彦氏は、今回のファミマ戦略を、「理にかなった王道の道筋」と評価する。

「ファミマやローソンなど、商社が筆頭株主のコンビニは、これまでどうしても店舗数勝負という発想に偏りがちでしたが、国内のコンビニ総店舗数が5万を超えた今後は、他社を圧倒する魅力的なオリジナル商品・サービスの創造が求められます。今の消費者は、舌も肥えており、一度でも食べた弁当がまずければ、別のコンビニに行ってしまいます。いい商品を生み続け、売れない商品は店頭に並べない。まさに鈴木敏文氏が掲げた『単品管理』の徹底を、ファミマは行っている段階なのだと思います」

(文=三浦愛美 撮影=原 貴彦)