受給日に並ぶ人々(写真はイメージです)

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 12月26日に開かれた厚生労働省の生活保護基準部会では、生活保護費のうち家賃や冬の暖房費について、実態に合わない支給が一部で行われているとして、その見直しに向けて具体的な検討を始めると発表。さらに同日、大阪市は生活保護費の一部をプリペイドカードにチャージして支給するモデルを2015年に実施すると発表。約2000世帯でまずは実施し、生活保護費を無計画に使うケースを炙り出すことを目指す。衆院選後、生活保護をめぐって新たな動きが起こる中、受給の現場はどうなっているのか?

 生活保護とは、「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的」(生活保護法第1条)とする。

 これは、日本国憲法第25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定する理念に基づく――。

景気動向に関係なくこの10年で受給者数は右肩上がり

 ひとことでいえば「日本国民であれば国がその生活を守ってくれる」ということだ。この条文を素読すれば日本国籍を持つ者しか生活保護受給は認められない。だが、不法入国などではなく、適法に日本に永住、定住している在留外国人にも国際道義上、人道上の観点から予算措置として生活保護法が準用されている。つまり日本人のみならず、定住外国人もまた生活保護受給が現実には認められているのだ。

 2014年9月に発生した神戸の女児殺害遺棄事件ではその容疑者が生活保護受給者であったことから、それまで問題視されながらも社会全体がタブー視してきたこの制度ににわかに光が照射されつつある。

 だが、私たちは生活保護という言葉を耳にするがその実態をあまりにも知らない。

 光が強ければ強いだけ陰は濃い。自民・公明が推し進めてきた経済政策「アベノミクス」が功を奏し活況が伝えられる「光」の部分がクローズアップされる一方で、わが国の生活保護受給数は10年前の2004年の約99万世帯/約142万人から、2014年には約161万世帯・約216万人と右肩上がりの上昇を続けるなど、その「陰」の濃さもまた際立っている。

 そこで今回、生活保護受給を申請する人、受給する人と対峙する神戸市職員たちへの取材を敢行。知られざる生活保護受給の最前線に迫ってみた。

水際で追い返した申請者も今は「できるだけ受給へ」

 地方自治体で生活保護行政を担当する職員が「ケースワーカー」だ。自治体により多少の違いがあるが、ケースワーカーは1人につき80世帯以内というのが理想だ。

 神戸市でケースワーカー職に就くA係長(30代)は、「ケース(生活保護世帯)約80世帯」を担当しているが、近隣の大阪市のように生活受給者世帯・者数が多い自治体に比べると、その数は少ないという。大阪市ではケースワーカー1人当たり100世帯を優に超えることもざらだという。

 先述のように生活保護受給世帯・者数がここ10年で右肩上がりで上昇していることから、この数はさらに増えると見込まれている。生活保護受給世帯・者数の増加で、これを担当するケースワーカーたちは疲弊、なかにはうつ病などの精神疾患を発症する者も出る始末だ。

 近年の生活保護受給者・世帯の増加には理由がある。かつては生活保護受給申請に来た者を水際で追い返すのが“受面(受付面接)”担当職員の腕のみせどころだった。しかし2000年代中頃から12年頃にかけて、担当職員による申請の拒絶が原因で自殺、孤独死するといった事案が頻発したためだ。

 とりわけ2007年の生活保護受給を断られた北九州市の52歳男性が、日記に「おにぎりを食べたい」と書き残し餓死した事件は、報道されるやいなや、行政側が大きな批判を浴びたことは今なお福祉行政に携わる者の間では記憶に留まっている。

 こうした背景から、近年では「受給資格がある人」と確認できれば、「できるだけ受給の方向に持っていく」(神戸市A係長)傾向がより強くなったという。

生活保護を「権利」と主張する人の増加

 しかし生活保護の最終的な目的は、冒頭部でも紹介した生活保護法第1条にも記されているように「自立を助長」することを目的とする。近年の「受給の増加」傾向により、受面時、そもそも「自立するつもりもない申請者」が増えてきたという。

 例えば就職活動中の大学生が、「就職が決まりそうにないので卒業後、生活保護受給を申請したい」と区役所の窓口に訪ねてきたり、ハローワークの帰り道、「年齢的にも、とても就職できるだけのスキルもないので生活保護を受給したい」と申し出る事案が、年々、増えつつある。

 ケースワーカーがまずは自立を促すと、冒頭部で紹介した「憲法25条」を盾に生活保護受給は「国民の権利」だと主張する。ひとりで窓口にやってくるだけではなく、地方議員やその秘書を付き添わせて受給をねじ込む例も後を絶たない。

「共産党の先生(議員)方は、きちんとご説明すれば受給に至らなくてもご理解頂けることがほとんどです。でも、その他の政党の先生方は選挙民でもある受給申請者へのパフォーマンスのつもりなのでしょうか。やたらと公務員である私たちに矛先を向けて怒鳴り散らします。“福祉に強い”といわれる政党の先生方も例外ではありません」(同)

議員にとって生活保護受給者は「大事な票田」

 議員にとっては生活保護受給申請者は“大事な票田”という側面もある。市職員であるケースワーカーの裁量で生活保護受給が決まっても、議員が同席しただけで申請者は「先生の付き添いのお陰」と思い込む。議員は感謝されるが、市職員・ケースワーカーは受給が決まれば当たり前、決まらなければ恨まれる。

「中央政界では生活保護費や受給世帯・者数を減らせという声が出ていますが、地方政治の現場ではその逆なんです。地方行政は中央政界と同じく生活保護費や受給世帯・者数を財源の問題から少なくしていきたい。しかし、本当に減らすと議員の先生方から吊るし上げられます。それが現実ですね」(同)

 政治が福祉に絡むことで、「本来、福祉の網にかからなければならない人が萎縮してその恩恵を受けられなくなっている」現実があると神戸市のA係長は話す。

 本当に困っている人を福祉の力で助けられず、政治の力で自立できる人を福祉という飴をしゃぶらせて囲い込みその自立を阻む。これが日本の福祉の現実だ(後編に続く)。

(取材・文/秋山謙一郎)