東北楽天ゴールデンイーグルス星野仙一監督が、10日に行われた対北海道日本ハムファイターズ第10回戦で、ファンの応援方法に苦言を呈した

 先発投手の永井怜が、3回1/3を投げ4失点。味方が1点を先制した直後の3回に同点に追いつかれると、続く4回にはミチェル・アブレイユにタイムリーヒット、大谷翔平には2ランホームランを浴び、3失点。4回途中で、マウンドを降りた。

 ノックアウトされた永井に対し、スタンドのファンから拍手が送られると、怒れる闘将は、「考えられない。俺には理解できない!」と苛立ちを隠せなかった。

 なお、試合は1対4でファイターズが勝利した。

 応援はファンの自由ではないか、と言いたいところだが、星野監督の気持ちもわかる。ここでの拍手は、永井のためにならない。過剰な忠誠心は、かえって選手やチームを弱体化させる。 

 米シカゴ・カブスは、メジャーリーグを代表する勝てないチームだ。最後にワールド・チャンピオンに輝いたのは、今から100年以上前の1908年。ここ最近では、2007年、2008年に2年連続でナショナルリーグの東部地区を制したが、2010年以降は3年連続で地区5位。今季も7月11日現在、4位で、首位のセントルイス・カージナルスとは15ゲームも離されている。最下位のミルウォーキー・ブルワーズとの差は、わずかに3.5だ。

 カブス低迷の理由では、いわゆる山羊の呪い(ビリー・ゴートの呪い)が有名だが、シカゴ大学トビアス・J・モスコウィッツ教授と、米のスポーツ雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」の記者、L・ジョン・ワーサイム氏は、共著「オタクの行動経済学者、 スポーツの裏側を読み解く」(ダイヤモンド社)で、チームに忠実すぎるファンの存在を挙げている。

 カブスの本拠地リグレー・フィールドでは、稼働率はここ10年間以上、80%を上回っている。チームが低迷すればファンの足も遠のくのが一般的だが、リグリー・フィールドは例外。カブスが最下位に沈んだ2006年も、稼働率は94%に達した。

 他方、カブスと同じくシカゴを本拠とするシカゴ・ホワイトソックスでは、USセルラー・フィールドの稼働率は、チームの成績を連動している。
 ホワイトソックスがワールド・シリーズを制した2005年には、稼働率は前年の61%から71%に上昇した。翌2006年は90%。チームは3位だったが、ファンはチームの勝利を信じていた。
 だが、2007年を4位で終えると、稼働率は82%に低下。3位だった2009年には、69%にまで下がった。

 このように、同じシカゴのチームでも、カブスでは毎試合、忠実なファンがリグリー・フィールドに足を運んでいることがわかる。
 球団の経営陣にはもちろん、選手にもありがたいが、実はこの忠実なファンがカブス低迷の要因の1つになっていると、モスコウィッツ、ワーサイム両氏は指摘する。

 スタンドを埋めるファンは、選手のモチベーションだけではなく、給料をも引き上げる。選手は少しでも良い条件で契約を勝ち取ろうと良質なパフォーマンスをし、それがファンを呼び寄せる。プレーや勝利にインセンティブがある。
 他方、リグリー・フィールドには、常に忠実なファンが詰め掛けている。チームの調子に関係なくファンが集まるのだから、選手はモチベーションを維持しずらいし、インセンティブも小さい。

 チームの調子に関係なくファンを呼び込むことは、スポーツビジネスの基本だが、カブスの場合、かえってそれがマイナスになっている。

 好不調に関係なく声援を送り続けるファンは、選手にはありがたい存在だ。その期待に応えようと、奮起する。
 だが、慢性化した応援は、選手の成長を阻害する。ときには心を鬼にし、ブーイングすることも、大事な応援方法だ。