インドネシアの特別捜査機関「汚職撲滅委員会」が5月13日、裁判官への贈賄容疑で大証2部の電線メーカー『オーナンバ』の現地法人『オーナンバ・インドネシア』の塩川利雄社長を逮捕した。塩川社長は社員の大量解雇に関する労務訴訟で会社側に有利な判決を得るため、既に刑事事件化している裁判官買収事件に深く関与した疑いがもたれている。

 現地からの報道によると、労使関係裁判所の裁判官は昨年6月、オーナンバ側から310万円の賄賂を受け取る見返りに同社の訴えを全て認める判決を下したとして逮捕、今年1月に禁錮6年の実刑判決を受けた。この裁判官に賄賂を渡した同社の人材開発マネジャー(インドネシア人)も禁錮4年の判決を受けている。
 裁判官の犯罪あぶり出しに躍起になっている汚職撲滅委員会は捜査を継続、ついに現地法人トップの関与にまで辿りついたというわけだ。

 オーナンバは金の受け渡しを認め、対外的には「裁判官から要求され、断り切れずにインドネシア人社員が渡した」と釈明している。悪いのは裁判官で、現地法人は賄賂要求に応じるしかなかったとの論法だが、その見返りが労使訴訟の全面勝訴では“同じ穴のムジナ”と言われても仕方がない。
 「蔓延する“汚職天国”に業を煮やしたインドネシア政府が、汚職撲滅委員会を設置したのはメガワティ大統領時代の2003年のことです。国家警察や検察だけでは対応し切れないとして旗揚げしており、要は大統領直轄の汚職摘発機関。しかし欧米諸国に比べ給与水準があまりにも低いことから、司法関係者が平気で賄賂を要求すること自体が日常茶飯事になっている。だから大半の国民は裁判官だってカネで転ぶぐらいにしか思っておらず、今回の事件にしても『日本の企業が格好のカモにされた』と受け止めているに違いありません」(現地の事情に詳しい商社マン)

 インドネシアといえば、予定されている“世界の歌姫”レディー・ガガのコンサートが「過激すぎる」として中止の危機に直面しているお国柄。今回の逮捕劇が“一罰百戒”だとしても、他国での振る舞いには十分な用心が必要だということだろう。