■ごく一般的なサッカー部の姿

プレミア、プリンスといった地域リーグのみならず、東京都ではT1からT3まで3部構成されたTリーグがあり、チームのレベルに応じたピラミッド型のリーグ戦文化が浸透し始めてきている。また、同じ高校からの複数チーム登録も認められており、強豪校ともなればA、B、Cと3チームをリーグ戦登録するようになっている。ただし、重要なのは強豪校ではない普通の高校サッカー部における浸透度合いであり、「補欠」や「引退」という日本独自の制度がなくなりつつあるのかということ。それを探るべく、19日に駒沢補助Gで行なわれた高校総体(インターハイ)東京都予選1次トーナメントの試合を取材してきた。

まず初めに観戦した試合は、都立町田高校と修徳高校のカード。結果は古豪の修徳が4−2で都立町田に勝利するも、前半3失点しながら後半に2点を返し、修徳を追い詰めた都立町田の粘りが目立つ試合だった。町田といえばゼルビアのみならず、町田JFCなどの強豪クラブのあるサッカーどころ。しかし、「都大会に出場することが目標」という都立町田は進学校ということもあり、国公立を目指しながらそこそこのレベルでサッカーをしたいという生徒が集まるごく一般的なサッカー部だ。

■残ったとしても毎年1人か2人

試合後、都立町田の長山監督に話を聞いて一番驚いたのが「うちは顧問2人なので、リーグ戦登録はしていません」という発言。東京都ではTリーグの下に地区リーグなるものがあるのだが、町田市が入る第6地区のリーグには登録していないとのことだった。長山監督はその理由についてこう説明する。「移動のことなどを考えると、グラウンドはあっても、結局はそこまで積み上がっていく前に、サッカー部の顧問がそこを継続して見ることができるのかという問題があります。あと、グラウンドがあったとしても野球部など、他の部活との兼ね合いで絶対に会場を確保できるという保証がないので、次に来る顧問の方のためにもそこまでやらない方がいいとなっています」

また、都立町田ではこの高校総体予選後に3年生の引退があり、「残ったとしても毎年1人か2人」なのだという。続いて観戦したゲームは、都立石神井高校と大東文化大高校の対戦。試合は、大東文化大が4−0で快勝。実は、都立石神井高校には私の知り合いで、スペイン留学の経験もある古賀康彦コーチがいる。その彼に一般的な都立高校の指導現場やリーグ戦化が進行するユース年代の現状について話を聞いた。

■ジレンマを抱えるコーチ

部活動の盛んな学校とはいえ、サッカー部においてもスポーツ推薦で入学してくるような選手はおらず、「そこまでうまい子も、有名クラブ出身の子もいません」という都立石神井高校サッカー部。話を聞いた古賀コーチ含め、外部からの2名のコーチを中心に指導が行なわれているが、130名ほどの部員を抱え、使用できるグラウンドは4分の1の広さのみ。そのため、時間帯や学年毎に分けながら練習を行なっているのだという。

リーグ戦登録は、T2に1チームと、第5地区のNSリーグに1チーム。ただ、NSリーグは、「リーグ自体しっかり整備されているようなリーグでもないですし、ちょっと難しい」そうで、実質的にはT2の1チーム登録状態なのだという。だからこそ、指導者としては毎週末に練習試合を組み、そこで選手のプレー機会を与えるしか方法がない。ただ、それは指導者の首を締めることにもなり、「朝から晩まで付きっきりになる」のだと古賀コーチは語る。そのジレンマについて古賀コーチはこう続ける。

■補欠が存在し、引退もある現状

「部員を多く抱えてしまって、試合に出れない子が多い現状は個人的にもすごく残念です。実際に私もスペインに行きましたし、ああいう環境を整えればベストですが、いきなり制度を変えるとなるとそれもなかなか難しい。なので、今できることはもっと指導者が一人一人の選手を見ることだと思います。やはり、うまい子がどうしても目立ってしまい、指導者はその子たちだけにアプローチをして、『はい、いいチームができました』となる。結果を出したやつが偉い、みたいな風潮もまだまだ多いです。そういうところからもっと外れて行き、本質的な部分にアプローチできる人が、わかりやすい形で見えて来たら面白いと思います」