世界の製造業、付加価値創出の国際比較

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中国企業が嗤う、日本の管理職の「致命傷」

先日、中国企業大手と商談をしていたら、こう言われた。

「うちはハイエンドな技術者が全然足りていないけど、戦略がいいから収益を上げている。それに比べると日本企業はもったいないよね」

世界の大企業と比較し、日本企業は潜在能力が高いのに価値創出が小さい(図参照)。

また、国内外で様々な業界と関係を持ちながら、多国籍な企業と商談をしていると、日本と世界の管理職の「収益力格差」が確実に広がっている、と実感する場面も増えた。

それはどんなところに原因があるのか。

私が見たところ、最近の日本企業の管理職には共通した3つの「弱点」がある。2回に分けて、そのポイントと対策を書いてみたい(1回目はパフォーマンス力、2回目はチャレンジ力と先見性)。

■管理職の点数 日本40点:海外80点

日本人管理職の弱点1▼組織のパフォーマンス力

日本企業 40点
海外企業 80点

[ここがダメ]とにかく遅い!

90年代から日本企業には「保守的」という定番の評価がある。褒め言葉ではない。海外企業から見ると「日本企業はビジネス進行が遅く、変化に乏しい」。この25年間日本企業現場は何も変わっておらず、現状でも商談には丸1年を要する。

[ここがダメ]戦略ネタが乏しい!

パフォーマンス向上には、しっかりした戦略企画が必須だ。日本企業の場合は、市場拡大のためのM&Aのような戦略投資はよくある。しかし、圧倒的に苦手なのは次のような分野だ。

・成熟市場での収益構造の改革など、地味だが頭をひねらないと出てこないような戦略企画
・既存事業を売却し将来進化が図れる事業への入れ替えなど大転換を伴う戦略企画

現状の戦略企画では組織パフォーマンスの向上を促す、刺激的な材料に乏しい。

[ここがダメ]事業計画上の思考停止!

「今、うちは事業計画通りに推移しているから問題ない」

日本企業に「世界の業界がこんな動きをしていますよ」と世界市場最前線の状況を説明し、市場での素早いアクションを促しても、現場の部長職からはこんな説明を受けることがよくある。彼らの本音はたぶんこうだ。

「新規案件をぶちあげて、失敗したら、キャリアはパー。失点しないに尽きるね」

こういう思考停滞気味の管理職の存在は、日本企業に特有の現象と感じる。

彼らの市場の定義は、身の回りの日系他社が対象で、基本的に国内市場中心にどんな競争をし、海外では決まったパイの中だけでどのくらい展開しているのかを着目している。

日本企業のパフォーマンスが乏しい原因のひとつに、閉鎖的な"村社会"意識が挙げられる。また経営戦略は毎年考える事業計画の延長上にあり、年次の数字を安定維持してさえいれば合格とされる。よって変革の時代を迎えても、ひっくり返して新しく掘るような野望ある発想やハングリーな戦略策案は生まれてこない。

■「日本の管理職は世界で通用しない」

▼世界の先進企業の管理職はこうしている!

[ここがすごい1]挑戦的な収益改善案が続々

一方、海外企業では経営層が現場のパフォーマンス向上にうるさいので、どこの管理職も必死になって、年次ごとに収益改善のための策を次々と発案し実行していかなければならない。組織に停滞が起こることなどあり得ない。

今の市場に安泰など感じておらず、5年の中期目線で、どんどん新しい戦略と行動計画を仕込んでいる。一番の違いはそのチャレンジやアクションを部長や事業部長といったリーダー自身が率先して行っていること。自らが勉強会に出て、ネタを仕込み、次の新しいチャレンジを考案する。上になればなるほど、収益改善へのハングリーさがものすごい。

[ここがすごい2]投資会社・株主がやかましい

経済低成長の時代となり、企業とは働く場所であるとともに、投資対象としての側面がより濃厚になってきている。口やかましい株主がいて、収益マイナスが2〜3期連続続いたら、経営職は新しく入れ替わる。

そのため、経営戦略には人事が入り、専門部隊が入り、絶対に戦略をやり遂げるための人材を揃えてチーム編成を行う。組織全体で時間内でミッションを遂行をするようになっている。人の能力の“狂い”は、仕事の精度の“狂い”。戦略遂行のためには、まず人の能力を揃えることがより重要になってきている。

[ここがすごい3]常に前進、あぐらをかかない

現場では職務分担しながら結果を分かち合うシステムを採用し、個人に対しては絶対なる仕事への信頼を寄せているため、各人の腕の磨き合いが自然に起こる。その結果、より強固な現場を生み出している。

先日、米国の混迷を極めるリテール業界のノードストロームを取材をし、飛行機の移動時にフランスの高級ブランド・クリスチャン・ディオールのプロジェクト現場の仕事ぶりを紹介するビデオを鑑賞した。その知名度、商品力は世界的に知られる伝統あるブランドだが、常に前身しようとしている姿には胸を打たれるほど、仕事に対するモチベーションには圧倒された。

市場と顧客から求められる創造価値の提供、創造を形に作り上げていく個々人の責務全うのパワー、長期勤務の職場が形成するブランドへ絶対なる忠誠心、そしてお披露目ですぐ下される評価と契約……。彼ら一人ひとりがプライドをかけたミッション遂行はすさまじい。

08年からの経済不況以降、市場構成、競合他社、ビジネスモデル、収益構造などが大きく様変わりし、市場の「仕込み」は、前へ前へと対策が取られ、アクションは秒単位とすこぶる早い。世界の各地域で仕事をすると、市場トレンドは刷新され、世界はひとつにつながっていると実感することが増えた。

日本は早く目を覚まさないと、取り返しがつかなくなる、と私は感じている。

(SPCコンサルティングLabo所長 白藤 香=文)