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大阪府豊能町の山中で保護された野生の「ツキノワグマ」が、地元の寺に引き取られ、「寺のプーさん」として第2の人生(熊生)を歩み始めた。寺によると、ハチミツを塗った食パンなど、甘いものを喜んで食べているという。名前はまだない。今後、一般公募をする予定だ。

動画(高代寺提供)

https://www.youtube.com/watch?v=9P5LGmAM_PQ

発端は昨年6月。ツキノワグマが豊能町の山の中で、イノシシ捕獲用の「ワナ」にかかり、町の施設で保護された。その後、町が全国100以上の動物園に引き取りを求めたが、すべて断られたため、「引取先が決まらなければ殺処分」という可能性が出てきた。そこで、町内の宗教法人・高代寺がクマの飼育を申し出たのだ。

クマが寺にやってきたのは、今年の4月9日。引き取るにあたって、高代寺は「法律に違反しない形で飼育したい」と大阪府動物愛護畜産課に相談していた。府の職員が檻などの飼育環境を確認しにいったうえで、飼育許可を出したという。

「立ち上がると大きいなあと思うけどね。ゆっくり動いたり、檻にもたれてエサを食べながらくつろいでいるのが可愛い」(高代寺・副住職の長澤正秀さん)

●初日は報道陣に向かって「突進していった」

クマはいま、境内に設置された檻の中で生活している。野生動物の保護活動を行う一般財団法人日本熊森協会の協力をあおぎながら、寺が飼育を行っているという。また、寺を訪れた人のために一般公開も始めた。

「クマはトラックで運ばれてきたんですよ。かなり興奮状態で、トラックの内側に貼ってあるベニヤ板を爪で削ったり、檻に入った後も、しばらく走り回ってましたわ。町の職員に加え、取材が6社くらい来てたんだけど、その人たちに向かって突進していったりね。まあ、檻の中にいるから、大丈夫なんやけど」

副住職の長澤さんは、初日の様子をこう振り返る。ただ、2日目には、かなり落ち着いていたという。「お参りの後にクマを見に来た人が8人くらい、いてはったけど、人を怖がってはいなかったですね」

●「クマのプーさんじゃないけど、甘いものは好きみたい」

クマが入っている檻の広さは約70平方メートル。クマと人間がお互いに近づきすぎないように、2重の柵を設けた。鉄格子の間隔は5センチと狭くして、クマの手が檻の外に出ないように工夫した。長澤さんいわく「クマにも人間にも安全な檻」だという。

ところで、クマは体長1.34メートルで体重は51.5キロ、推定4〜5歳の若いオスの成獣とみられる。どんなエサを食べているのだろうか? 

「引っ越し当日は、熊森協会の人が持ってきてくれたタケノコとリンゴと、ドッグフードみたいな『クマフード』とかいうエサを食べてましたね。2日目は、ハチミツを塗った食パンをあげました。クマのプーさんじゃないけど、甘いものは好きみたいでね。

クマは人を襲うイメージがあるけど、あれは怖がって攻撃しているだけです。実際は草食で、秋口はどんぐりも食べると聞きました」

気になる名前だが、「まだ決まっていません。協会のほうで、これから一般公募すると言っていました」とのことだ。

●「安易に飼育できると思ってほしくない」

しかし、人が普通に住んでいる場所に「クマ」が暮らしていたら、周辺の住民はどう思うだろう。都心部の住宅地などでは、反対運動が起きてもやむを得ない気もする。今回は、寺側が動物の保護活動を行う団体や行政の協力を仰いだうえで、慎重に受け入れを決めたが、一般人でも「飼育したい」といえば、認められるのだろうか。

大阪府動物愛護畜産課の担当者にたずねると、「許可を得れば、危険な動物を飼えると安易に思ってほしくない」という答えが返ってきた。

クマやトラ、サルなど、法律で「特定動物」と定められた動物を飼育する場合は、事前に適切な飼育環境を用意し、飼育許可を申請する必要がある。許可を得ずに飼育した場合、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金を科せられる可能性がある。

「引き取りの申し出があって良かったと思っていますが、一般の人が危険な野生動物を飼育するのは、珍しいことです。

今回は、山の中で人とクマが遭遇する危険を考慮して、施設で一時保護をしましたが、本来であれば、誤ってワナにかかった野生動物を見つけたら、『保護』するのではなく、そのままワナから放してあげるのが一番です」

このように大阪府動物愛護畜産課の担当者は話していた。

(弁護士ドットコムニュース)