“灯台パルサー”周辺の磁場構造を詳細に分析 NASAのX線偏光観測衛星「IXPE」が観測
スタンフォード大学の大学院生Jack T. Dinsmore氏を筆頭とする研究チームは、パルサー「PSR J1101-6101」の磁場を直接測定することに初めて成功したとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載されています。
このパルサーは、周囲に広がる星雲とともに「Lighthouse(灯台)」の愛称で呼ばれています。NASA(アメリカ航空宇宙局)のX線偏光観測衛星「IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」の観測に支えられた今回の成果は、極端な物理条件下にある天体の内部構造を解き明かす貴重な手がかりとなります。
高速回転する中性子星と謎めいたX線構造
パルサーは「中性子星」の一種で、自転にともなう規則正しいパルス状の電磁波が観測されることが特徴です。中性子星は太陽程度の質量が直径20kmほどの大きさにまで圧縮された高密度な天体で、太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星が生涯の最後に起こす超新星爆発の後に残された中心核だと考えられています。
研究チームによると、“灯台パルサー”ことPSR J1101-6101は毎秒16回という高速で自転しつつ、毎秒990kmで移動しています。自転が徐々に遅くなるペースをもとに、年齢は6万3000年と算出されています。

このパルサーをX線で観測すると、周囲に性質の異なる2本の構造が伸びていることがわかります。
1つは天球上で約1分角の長さにわたって伸びる「トレイル(尾)」と呼ばれる構造で、パルサーの生まれ故郷といえる超新星残骸「MSH 11-61A」の方向を指しています。もう1つはトレイルとほぼ直交する方向へ約5分角、実際の距離に換算すると数パーセク(1パーセク=約3.26光年)にわたって伸びる「フィラメント」と呼ばれる構造です。
論文によれば、パルサーからは高エネルギー粒子が吹き出していて、これが星間物質に衝突すると、航行する船の船首にできる波のような衝撃波「バウショック(弧状衝撃波)」が形成されます。大半の粒子はバウショックの後方に捕らわれて乱流に満ちたトレイルを形成するものの、よりエネルギーの高い一部の粒子がバウショックを突き抜け、銀河の磁場に沿って流れ出すことでフィラメントを形成する可能性が、これまでの研究で指摘されていたといいます。
18日間にわたる観測で明らかになった磁場の向き
Dinsmore氏によると、フィラメントの形成に関する理論を検証する上で決定打となったのは、磁場の向きを示す「偏光」の観測でした。
可視光線やX線といった電磁波は、空間を「波」として伝わります。太陽光などの自然光や電球から発せられるような光は、様々な方向に振動する波が入り混じっています。ところが、天体から地球に届く電磁波の波は、特定の方向に偏って振動していることがあります。偏光とはこのように「波の振動方向が偏っている電磁波」を指す言葉です。偏光の性質は、身近なところでは反射光を軽減する「偏光サングラス」などで利用されています。
研究チームは2025年5月30日から6月17日までの約18日間にわたってIXPEでPSR J1101-6101を観測。約11日分の観測データ(95万秒)を解析して、フィラメントの偏光度を調べました。偏光度とは電磁波の振動方向がどれくらい揃っているのかを百分率で示した指標で、値が高いほど磁場が乱れていないことを意味します。
論文によると、フィラメントの磁場はフィラメントの軸に対して平行に並んでいることが確認されました。偏光度は約55%(誤差18ポイント)に達しており、高エネルギー粒子が銀河の磁場に沿って流れ出しているとする先述の理論を裏付けています。
また、この偏光度の高さは、磁場の乱れが従来のモデルで想定されていたよりも弱いことを同時に示唆しているといいます。論文の共著者であるスタンフォード大学教授のRoger Romani氏は、フィラメントに関する多くのモデルが前提としていた強い磁気乱流に対しては矛盾する結果が得られたと指摘しています。
X線と電波で食い違うトレイルの磁場の向き
一方、もう1つの構造であるトレイルも研究チームは分析を行いました。X線観測で得られた磁場の向きはトレイルの軸に平行だったものの、研究チームがATCA(オーストラリア望遠鏡コンパクトアレイ)を使用して得た電波の観測データは、磁場の向きがトレイルの軸に対してほぼ直交していることを示していたといいます。
論文の共著者であるイタリア国立天体物理学研究所のNiccolò Bucciantini氏は、X線と電波の観測でそれぞれ得られた磁場の向きがこれほど食い違っている点について、PSR J1101-6101のような天体が非常に複雑な構造を持っていることを示す強力な証拠であることや、エネルギーの異なる粒子がパルサー周辺における異なる領域を占めていることを示す初の明確な兆候であること、複数かつ大きく異なる可能性のある粒子加速メカニズムが働いていることなどを示唆していると述べています。
なお、研究チームはPSR J1101-6101自体が放つX線の偏光も検出しており、その振る舞いは磁極が自転軸の周りを規則的に回転する「回転ベクトルモデル」によってよく説明できることも判明しています。
極限の磁場構造に迫るさらなる観測に期待
中性子星という極限的な天体の周囲でエネルギー粒子がどのように運ばれてどのように加速されるのか、その全体像に迫る新たな一歩となった今回の成果は、パルサーから伸びるX線のトレイルやフィラメントについて、X線偏光の観測による磁場の検出を初めて実現したケースとなります。今後はより長時間の観測を行うことで、パルサー、トレイル、フィラメントの磁場構造に関するさらに詳しい知見が得られると期待されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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