女性たちを食い物にする権力者とメディアの罪を暴く衝撃ノンフィクション! #MeToo運動はこうして始まった――

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 辱めを受け、トラウマに苦しみ、そんな自分を責めながら、どれほど多くの人が涙を飲んできたのだろう。セクハラや性的被害を受けた人たちがその被害を告白する「#MeToo運動」。国も性別も問わず、世界的な広がりを見せたこの運動がどのように始まったのかをあなたはご存じだろうか。性被害を告発しようとした人が受けた尾行、監視、脅迫。メディアが報じた不自然な被害者バッシング。金と権力を持つ加害者たちの告発者へのあまりにも恐ろしい行為と、それに加担し続けたメディアの罪を、あなたは知っているだろうか。

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『キャッチ・アンド・キル #MeTooを潰せ』(ローナン・ファロー:著、関美和:訳/文藝春秋)はあまりにも衝撃的なノンフィクションだ。ハリウッドの性的虐待のスクープから始まった「#MeToo運動」。その報道の一翼を担い、ピューリッツァー賞受賞したジャーナリスト・ローナン・ファローが、その報道に至るまでの軌跡を描き出したこの本には、「これが現実におきたのか」と驚かずにはいられない。

 大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが、20年以上にわたって多くの女性たちに性的虐待を働いてきたことはハリウッドでは昔から周知の事実だったらしい。その疑惑を追い続けたローナンは、女性たちの証言をひとつひとつ集めていくが、取材が進むほど、ワインスタインが掌握している人脈からの攻撃を立て続けに受けることになる。「お前を見張っている、お前を見張っている、お前を見張っている」という不気味な脅迫メッセージが届き、誰かにつけられているような気配も感じる。さらには、ローナンが尊敬していたはずの上司たちはその報道を潰そうとしてくる。ローナンが所属していたのは、アメリカの三大テレビ局のひとつのNBC。大手メディアは被害者女性ではなく、ワインスタインに味方するというのか。

 ワインスタインはあくどい。長年女性たちを貶めてきたその詳細はあまりにもおぞましく、吐き気さえ感じるが、さらに恐ろしいのが、ワインスタインが金と力で被害者たちの口を巧みに塞いできたことだ。本書のタイトル「キャッチ・アンド・キル」とは、メディアが権力者のスキャンダルネタをもみ消すために買い取る行為のこと。ワインスタインからすればメディアを動かすのは容易く、メディアは告発しようとした被害者に秘密保持契約を結ばせ、口を開けば損害賠償を求めると脅していた。さらに、ワインスタインは、世界的に有名なスパイ組織、イスラエルのモサド出身者による調査会社を雇い、性加害を告発した女性たちやそれを報じようとするジャーナリストたちを盗聴、尾行。私生活にも入り込み、粗探しをしては、メディアを焚き付けて、被害者バッシングを繰り返していた。被害者がどうにか警察に駆け込んでも、その告発を受理して捜査を行うはずの地方検事は、被害女性の個人的な性的履歴を尋常でない厳しさで問い詰め、ワインスタインを不起訴にする。……そこまでするのか。当然、ローナンも同じように、身の危険を感じるようになる。

 まさに「事実は小説より奇なり」。本書はサスペンス小説のようにスリリングだが、何よりこれが現実だという事実がずしんと胸に重くのしかかる。残念ながら、どこの国にもどこの組織にも、ワインスタインのように女性を食い物にするモンスターは潜んでいるものだろう。しかし、それを黙認する者たちがいること、それを聞き届けるはずの存在が腐りきっていることに愕然とせざるを得ない。メディア界も政界も司法界も腐りきっていたアメリカ。「アメリカでこうなのだから、きっと日本も……」と考えずにはいられなくなる。だが、そんな中でも、真実を追い続けたジャーナリストと、トラウマに苦しみながらも声を上げ続けた女性たちの姿に救われた気持ちになる。ひとりひとりの声は小さくても、勇気を持って叫び続ければ、きっと世界は変えられる。そのことを教えてくれるノンフィクションは、男女問わず、すべての人に読んでほしい。

文=アサトーミナミ