ヒズボラは28日、最高指導者ハッサン・ナスララ師が死亡したことを確認した

(CNN)中東レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは28日に最高指導者ハッサン・ナスララ師が死亡したことを確認した。イスラエル軍は27日、レバノン首都ベイルートに対して空爆を実施し、ナスララ師を殺害したと発表していた。

ナスララ師の死は最近の中東史にとって大きな節目となった。しかし、長期的な帰結は不透明だ。ここで重要な疑問が生じる。テロ組織の指導者を殺害する「斬首作戦」によって、その組織は無力化されるのか。簡単にいえば、「そんなことはない」。

イスラエルは、こうした攻撃が武装組織の壊滅に必ずしもつながるとは限らないことを自らの歴史から知るべきだ。イスラエルは2008年、ヒズボラの幹部イマド・ムグニエ容疑者をシリアの首都ダマスカスで殺害した。しかし、ヒズボラはその後数年間で勢力を増しただけだった。

さらにその4年前、イスラエルは、イスラム組織ハマスを設立したアハマド・ヤシン師を空爆で殺害した。しかし、ハマスは崩壊することなく、その約20年後、イスラエルに対して奇襲を行い、1日でイスラエル人約1200人を殺害した。

さらに最近では、今年7月にハマス軍事部門トップのムハンマド・デイフ氏を殺害した。デイフ氏はハマスによるイスラエル奇襲を立案したひとりとされているが、ハマスは依然としてパレスチナ自治区ガザ地区で戦闘を続けている。

米国にも相手の無力化を期待してテロ組織の指導者を殺害してきた歴史がある。米国は06年、「イラクのアルカイダ」の指導者ザルカウィ容疑者を爆撃により殺害した。同組織が、イラクを大きく引き裂く内戦に深く関与していたことから、同容疑者の殺害は大きな状況の打破だと考えられた。

しかし、8年後、この組織は最終的に過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)へと変貌(へんぼう)を遂げる。シリアとイラクでポルトガルと同程度の広さの領土を占領し、約800万人を支配下に置いた。ISISもまた西側諸国で壊滅的なテロ攻撃を実行した。例えば15年のフランス首都パリのテロでは130人が死亡した。

ISISによる地理的な「カリフ制国家」を終わらせたのは、その指導部への攻撃ではなく、イラク軍とクルド人部隊が14年から19年にかけてISISに実施した地上作戦だった。地上作戦は数千人の米軍と大規模な米空軍による支援を受けていた。この時の戦闘によって、イラクの第2の都市モスルにあったISISの拠点はおおよそ破壊された。

16年5月、オバマ大統領(当時)は、パキスタンでのドローン(無人機)による攻撃を承認した。これによりフガニスタンの反政府勢力タリバンを率いるマンスール師を殺害した。しかし、現在はタリバンがアフガニスタン全土を支配下に置いている。

20年1月、トランプ大統領(当時)は、イラク首都バグダッドへの空爆を指示した。これにより、イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した。同司令官は、ヒズボラやハマスをはじめ、イエメンの反武装組織フーシやイラクのシーア派武装勢力など中東地域のイランの代理勢力との関係で重要な地位を占めていた。

トランプ氏はソレイマニ司令官の殺害後、「ソレイマニ司令官が米国の外交官や軍の関係者に対して差し迫った邪悪な攻撃を計画していたが、米国はそのさ中にソレイマニ司令官を確保し、殺害した」と述べた。

しかし、ソレイマニ司令官の死はイランの中東での力や野望に長く影響を及ぼすことはなく、ヒズボラやハマス、フーシは依然としてイスラエルの標的への攻撃を継続し、シーア派の武装勢力はイラクの米国の標的への攻撃を続けている。

米国は、タリバンやフーシ、ハマス、ISIS,ヒズボラをテロ組織に指定している。

何がテロ組織を無力化するのか

テロ組織を機能不全へと追いやることができるのは、できるだけ多くの指導者や幹部を排除するための継続的な軍事作戦だ。米シンクタンク「ニューアメリカ」によれば、米中央情報局(CIA)は08年にアフガニスタンと国境を接するパキスタンの部族地域でドローン(無人機)による作戦を強化し、アルカイダの指導者の多くを殺害した(筆者は同シンクタンクの副所長を務めている)。

海軍特殊部隊(SEAL)が11年にアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者をパキスタン・アボタバードの屋敷で殺害した際に回収した書類によれば、ビンラディン容疑者は定期的に、部族地域内に住む信奉者に手紙を送り、ドローンの効果が弱まる曇りの日だけ移動するよう促していた。その結果、ビンラディン容疑者は信奉者全員を部族地域から移動させ、他の地域に再定住させる計画を立てていた。

ビンラディン容疑者の死は、テロリストに対するアルカイダの魅力や、その攻撃実行能力を弱めることに確かに大きく貢献した。だが、それは、アルカイダを創設し、最も危険な作戦を指揮したのがビンラディン容疑者であり、アルカイダのメンバーがビンラディン容疑者に個人的に忠誠を誓っていたためだ。

ビンラディン容疑者の後継者であるアイマン・ザワヒリ容疑者には、アルカイダを復活させるためのカリスマや組織力はなかった。ザワヒリ容疑者自身、2年前にアフガニスタンで、米軍のドローンによる攻撃で死亡した。国連の推計によれば、現在アフガニスタンに住んでいるアルカイダのメンバーは約400人。

アルカイダは比較的小規模なテロ組織だが、ヒズボラは40年前から存在しており、イランの支援を受けている。ヒズボラは中東地域の主要な勢力であり、兵士の数は約3万人。約15万発のロケット弾やミサイルを含むさまざまな兵器を保有している。

ナスララ師の殺害はイスラエルにとって大きな成果だ。イスラエルは大規模な攻撃の一環として、今月に入り秘密作戦で数千台のポケットベルやトランシーバーを爆発させ、その後、大規模な空爆によって、インフラを破壊し、ヒズボラの幹部を排除した。

しかし、ヒズボラを壊滅させたのかどうかについては時期尚早だ。明らかに、ヒズボラが混乱状態に陥っているとはいえ。歴史が示唆しているのは、ヒズボラはイスラエルとの長きにわたる戦いを継続するために、組織を再編して、他の指導者を任命するだろうということだ。

本稿はCNNのピーター・バーゲン記者の分析記事です。