心理学でいうレジリエンス(回復力)とは、不利な状況やストレスに適応する能力のことであり、近年はメンタルヘルスや生産性などの分野で注目されています。そんなレジリエンスと死亡リスクとの関連を調べた新たな研究では、「レジリエンスが高い人は長生きしやすい」という傾向が明らかになりました。

Association between psychological resilience and all-cause mortality in the Health and Retirement Study | BMJ Mental Health

https://mentalhealth.bmj.com/content/27/1/e301064



People with greater mental resilience may live longer, study finds | Mental health | The Guardian

https://www.theguardian.com/society/article/2024/sep/03/people-with-greater-mental-resilience-may-live-longer-study-finds

People with high resilience live up to ten years longer - Earth.com

https://www.earth.com/news/people-with-high-resilience-live-up-to-ten-years-longer/

人生には「宿題の提出期限に間に合わなかった」「アルバイト先で怒られてしまった」といった日常的な苦しみのほか、「会社が倒産してしまった」「愛する人と死別してしまった」といった大きな苦難も待ち受けています。レジリエンスはそんな逆境を乗り越えるために重要な能力であり、人々はさまざまなライフステージでレジリエンスを形成します。

近年はさまざまな分野でレジリエンスが注目されていますが、レジリエンスが死亡リスクの低下と関連しているのかどうかについてはよくわかっていませんでした。そこで中国の中山大学の研究チームは、アメリカの50歳以上の成人を対象とした大規模調査「Health and Retirement Study(HRS)」のデータを分析しました。

HRSは1992年に初めて開始され、参加者の経済状況や健康状態、婚姻や家族に関する情報を記録し、2年ごとに追跡調査を行っています。今回の研究では、初めてレジリエンスに関する質問が行われた2006〜2008年の参加者1万569人分のデータを調べました。参加者は2021年5月まで追跡され、平均12年間の追跡期間中に3489人が何らかの原因で死亡したとのことです。

レジリエンスは「忍耐力」「落ち着き」「目的意識」「自立心」「1人で向き合うべき経験があるという認識」といった項目で測定され、スコアは「0」〜「12」のスケールで表されました。なお、参加者全体の平均スコアは「9.18」だったそうです。



レジリエンスのスコアと死亡リスクを、年齢・性別・人種・ボディマス指数(BMI)を調整したモデルで分析したところ、「レジリエンスのスコアが高いほど全死因での死亡リスクが低下する」という関連性があることが判明しました。この関連性は特に男性よりも女性で強かったとのことです。

レジリエンスのスコアに基づいて参加者を4分割すると、最もスコアが低い下位「0〜25%」の参加者の10年後生存率は61%でしたが、「26〜50%」の参加者の10年後生存率は72%、「51〜75%」の参加者の10年後生存率は79%であり、最もスコアが高い「76〜100%」の参加者の10年後生存率は84%でした。

最もレジリエンスのスコアが低い25%の人々と比較して、最もスコアが高い25%の人々は今後10年間で死亡する確率が53%も低いことがわかりました。この傾向は糖尿病・心臓病・脳卒中・がん・高血圧といった病気について調整した後も統計学的に有意であり、喫煙やその他の健康関連行動を考慮しても持続したと報告されています。



研究チームは、今回の結果はあくまで観察研究に基づいたものであり、レジリエンスと死亡リスク減少の因果関係については不明だとしています。また、ホルモンや遺伝的要素、小児期の逆境といった潜在的な影響については考慮されていません。

その上で、「人生の意味・自己評価による健康状態・社会的支援に対する満足度など、さまざまな要因が心理的なレジリエンスに影響する可能性が指摘されています。これらのポジティブな感情を引き起こすことで、心理的レジリエンスの保護効果が高まり、成人のメンタルヘルスに蓄積された逆境の悪影響が緩和される可能性があります。今回の知見は、死亡リスクを軽減するための心理的レジリエンスの促進を目的とした介入の、潜在的な有効性を強調するものです」と研究チームは述べました。