職場のハラスメントを根絶するには、周囲の人々がハラスメントの存在に気付いて報告することが重要です。2024年に学術誌のAmerican Journal of Sociologyに掲載された論文では、「職場で不当な扱いを受けた白人男性は、職場内のハラスメントに気付いて報告する可能性が高い」という結果が示されました。

Lowering Their Meritocratic Blinders: White Men’s Harassment Experiences and Their Recognition and Reporting of Workplace Race and Gender Bias1 | American Journal of Sociology: Vol 129, No 4

https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/728738



White men who have been mistreated at work are more likely to notice and report harassment − new research

https://theconversation.com/white-men-who-have-been-mistreated-at-work-are-more-likely-to-notice-and-report-harassment-new-research-234528

ミシガン大学社会学部の准教授であるエリン・チェフ氏は職場における不平等について研究する中で、「アメリカの白人男性にとって『職場でどのように扱われているのか』が、同僚に害を及ぼしている性差別的・人種差別的な出来事の認識に関係しているのではないか」という仮説を立てました。

この仮説を調査するため、チェフ氏は人事政策違反を排除する政府の取り組みを調査するために収集された、28の政府機関に雇用されている連邦職員のデータを分析しました。データには合計1万1000人もの連邦職員が含まれており、そのうち白人男性は5011人だったとのこと。

データを分析したところ、白人男性は女性や有色人種より頻度は低いものの、約3人に1人が過去2年間にいじめ・脅迫・その他の嫌がらせを経験していました。一方、同期間に何らかのハラスメントを経験した白人女性は44%、有色人種の女性は49%、有色人種の男性は35%でした。

そして、ハラスメントの標的となった白人男性はそうでない同じ職場の白人男性と比較して、同僚に対する性差別的偏見を認識する可能性が70%、人種・民族差別的偏見を認識する可能性が58%も高いことが判明しました。また、性別や人種による偏見を目撃した際、上司や同僚に報告する割合は約2倍だったとチェフ氏は述べています。



ハラスメントを受けた経験がある白人男性が職場での偏見に敏感になる理由についてチェフ氏は、「組織が公正に機能している」という考えに懐疑的になるからではないかと主張しています。

たとえば、ハラスメントを経験した白人男性のうち、「自分の組織では業績に応じて評価と報酬が与えられる」という意見に同意したのはわずか3分の1でした。対照的に、ハラスメントを経験していない白人男性では、3分の2がこの意見に同意したとのことです。

チェフ氏が重要な点だと指摘するのが、白人男性は自分が受けたハラスメントの理由にかかわらず、他者へのハラスメントに気付きやすくなったという点です。つまり、ハラスメントの理由が年齢や宗教、性的アイデンティティといった社会的特性だったのか、性格的な対立だったのかにかかわらず、ハラスメントを受けた白人男性は組織に対して懐疑的になり、ハラスメントの認識を高めたというわけです。



チェフ氏は、多くの白人男性は自分の職場は合理的に運営されていると信じており、「仕事が得意な人は昇進し、そうでない人は降格したり解雇されたりする」と考えています。しかし、実際のところアメリカでは人種や性別による差別が多く、女性の約40%が性差別を経験しているほか、黒人労働者の41%がキャリアのある時点で人種差別を経験しています。

職場から性別や人種による差別を根絶するには、多数派である白人男性の支援が必要です。チェフ氏は、「近年は職場における偏見を減らすための最良の戦略を明らかにしようとする取り組みが多数行われています。私の知見は、白人男性が職場で自分に降りかかった否定的な経験を振り返るように奨励することで、同僚の不当な扱いを認識しやすくする可能性を示唆しています」と述べました。