『虎に翼』写真提供=NHK

写真拡大

 「よきことはカタツムリの速度で進む」と言ったのはガンジーである。『虎に翼』(NHK総合)第109話では、風雲急を告げる麻雀対決が行われた。

参考:『虎に翼』第110話、のどか(尾碕真花)たちの本心を聞いた寅子(伊藤沙莉)が新たな提案

 秋山(渡邉美穂)の妊娠をきっかけに、寅子(伊藤沙莉)たちは署名を募り、職場の育児支援、長期休暇取得を求める意見書を最高裁事務総局に提出。桂場(松山ケンイチ)も意見書を受理し、事務総局で検討できるように助力した。劇中で、女性が働きやすい職場環境に向けて一歩前進といえる。

 新たに星家の一員として迎えられた寅子と優未(毎田暖乃)は、少しずつ新しい環境になじんでいった。義母の百合(余貴美子)や航一(岡田将生)の長男・朋一(井上祐貴)とは、家事の分担をめぐって互いの考えを知ることができた。新しく棚を作ることから、航一の亡き妻の照子(安田聖愛)やはる(石田ゆり子)の思い出を共有することは、「家族のようなもの」から本当の家族に近づく過程である。

 これに対して、長女ののどか(尾碕真花)は誰よりも醒めている。第107話で兄の朋一に「どうにもならないことに腹を立てるのはやめなよ」と諭すなど、淡々と現実を受け入れていた。父が連れてきた新しい母とその娘が合わないからといって、今さらどうしようもないと諦めているように見える。

 だが、意外にも、というか往々にしてありがちだが、静かだからといって何も考えていないわけではなく、黙っているけれど本心を抑えている、というのがのどかの場合、正しかったようだ。深夜に芸術家の集会に参加して補導されるなど、どこか無理していたのかもしれない。不機嫌さを隠しきれないのどかは、押し殺していた本音をぶちまける。

「ごめんなさい。私、やっぱり無理だわ。どうしても好きになれないの、この人たちが」

 ここで、頭ごなしにのどかを否定する人間がいなかったことに少しだけ安堵した。互いを尊重する文化は星家にも猪爪家にもあって、歩み寄るための土台はできている。空気を読んで寅子は優未を連れて席を外し、航一はのどかに負担をかけてしまったことを詫びた。

 のどかも性来が優しい気質なのだろう。この場の空気に責任を感じたこともあってか、自分が家を出ればそれで解決すると提案するが、家族は戸惑うばかり。そこに優未が一人で戻ってくる。「お母さんについていくのはやめました」。手にしていたのは雀卓だ。

 優未いわく「この家では、何かおねだりをする時、おじいさん(※星朋彦初代最高裁判所長官(平田満))と勝負をしてきた」。であるので「私と麻雀をして、私が勝ったら、私と母の何を好きになれないのかを正直に話して、解決策を一緒に探ってほしい」と、のどかに対決を申し込み、のどかも「私が勝ったら、私が家を出る」と応諾。航一も承認し、かくして、優未、のどか、航一、朋一による麻雀対決の火ぶたが切って落とされた。

 星家の人々は、あらためて「この娘は母親と違う」と感じただろう。そのことは、直後にたい焼きを買って戻ってくる寅子との対比からも明らかである。優未とのどかによる家族のちぎりを賭けた対決の行方が注目されるが、勝負のさなか、いち早く優未の異変に気づいたのどかは、とても良い姉になってくれそうである。(文=石河コウヘイ)