音楽フェスの「洋楽離れ」が話題に。実は24年前、すでに起こっていた“地殻変動”の正体
売上の大きさと音楽の質を結びつけ、それを自信にしていった時代が、ちょうどこの頃なのです。LAの高層ビルの屋上でヘリを飛ばしてMVを撮影した華原朋美の「I’m proud」が象徴的です。洋楽に追いついて、ひょっとしたら追い越せるという期待がピークに達していたのですね。
同時に、渋谷系や本格的なR&Bを下敷きにした、サブカルチャーの豊かさを感じさせる音楽を楽しむ余裕もありました。
◆2000年は「日本が斜陽の時代に入っていく最初の年」だった
その一方で、2000年はバブル崩壊から10年弱が経過した時期でもあります。戦後初めてデフレを経験したのも2000年ということで、いよいよ日本が斜陽の時代に入っていく最初の年だったのです。
経済の弱体化は輸入する力、意欲を削ぎます。音楽においては、洋楽から学ぶ余裕が失われてくる。お財布の事情、そして精神的にも鎖国せざるを得ないような状況がやってきたわけですね。これが見事にJ-Waveの状況と重なって見えるから面白い。
こうしてやむを得ず内向きになったことで、J-POPがガラパゴス化して唯一無二の個性を獲得した、と言うこともできるかもしれません。
けれども、失われた◯十年と表裏一体だと考えれば、J-Waveの洋楽離れは暗い側面も示していると理解する必要があるのです。
◆サマソニでの現象は、積み重ねの結果
つまり、今回のサマソニで見られた状況は、20年以上もの年月をかけて、日本から洋楽を聞く習慣が消滅していったことが積み重なっていった結果なのではないでしょうか。
そして、その背景には、頑固一徹洋楽至上主義を貫いていたJ-Waveというカルチャーが唐突にメルトダウンしたことがある。“洋楽を追っていなければまずい”という焦燥感でリスナーを動かすことができなくなった。
クリスティーナ・アギレラそっちのけで、Creepy NutsのBBBBに興じる光景は雄弁です。
それはいいことでも悪いことでもありません。素晴らしい音楽が英語でなければならない時代ではなくなっただけの話なのですから。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4