記者会見で謝罪する「日本橋伊勢定」の役員ら(写真・時事通信)

 まさかうなぎ弁当を食べて亡くなるなんて……。

 7月29日、京急百貨店と老舗のうなぎ料理店「日本橋伊勢定」は会見を開き、これまでに販売した「うなぎ弁当」を食べた計147人が下痢や嘔吐といった症状を訴えており、90代の女性1人が亡くなったと発表した。

横浜市保健所は、体調不良の原因は、黄色ブドウ球菌による食中毒の可能性が高いと発表しています。実際に、5人の便から黄色ブドウ球菌が検出されましたからね。また、こうした事態を受けて、保健所は京急百貨店内の『日本橋伊勢定』を、営業禁止処分としました」(事件担当記者)

 日本列島が連日の猛暑に襲われるなか、「このままでは、食中毒が頻発する」と警鐘を鳴らすのは、五良会クリニック白金高輪理事長・五藤良将医師だ。

「まず、黄色ブドウ球菌は日常生活でよく接触する菌であり、特に高温多湿の環境下では急速に増殖し、食中毒の原因となります。食中毒は日本では第五類感染症に分類され、発生した場合の報告が法律により義務づけられています(五藤医師)

 どのような形で感染するケースが多いのだろうか。

「黄色ブドウ球菌は人の皮膚や鼻腔、口腔に常在する菌で、食品を汚染することで、食中毒を引き起こす原因となることがよくあります。とくに、手を介した汚染が最も一般的ですね。

 この菌は非常に早く増殖し、菌が生成するエンテロトキシンが原因で食中毒症状を引き起こします。エンテロトキシンは熱に強く、通常の調理過程では破壊されにくいことから、予防策としては厨房での衛生管理が非常に重要です」(同前)

 今回のケースでは、店のマニュアルでは、弁当を盛りつける際に手袋を着用することになっていたものの、実際には着用していなかったことがわかっている。マニュアルに従っていなかったことが、今回の食中毒の原因のようだ。

 だが、猛暑下ではさらに注意すべきことがある。

「仮に、猛暑の条件下で冷蔵保存されていない場合、黄色ブドウ球菌を含む多くの細菌の増殖速度は、大幅に加速されます。特に黄色ブドウ球菌は、まさに今と同じ程度の気温、つまり30℃から37℃の温度範囲で最も早く増殖します。具体的には、30℃以上で放置されると、3時間以内で有害なレベルにまで増殖します。

 半日ぐらい持つ、と考えている人も多いかもしれませんが、昨今の “異常気象” の下では、まったく安心できません。お弁当など、手作りの食品を持ち歩くこともあるかと思いますが、冷蔵できない場合は2時間以内に消費するか、保冷剤などで温度を抑制することが必須です」(同前)

 暑さと、食中毒のダブルパンチは喰らいたくない。