潜水艦によって撮影された、2000個から3000個の卵を抱いたまま深海を漂うイカの映像をアメリカのシュミット海洋研究所が公開しました。卵の育成期間は最長9カ月で、母イカはその間まったくエサを食べることができず、自分の足を食いちぎりながら卵を守って泳ぎ、最後は卵がかえるのを見届けながら死ぬとされています。

Post-spawning egg care by a squid | Nature

https://www.nature.com/articles/438929a

Astonishing Video Gives Rare Glimpse of a Mother Squid's Ultimate Sacrifice : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/astonishing-video-gives-rare-glimpse-of-a-mother-squids-ultimate-sacrifice

The Rare Sight Of A Brooding Squid

https://www.sciencefriday.com/articles/the-rare-sight-of-a-brooding-squid/

シュミット海洋研究所は公式Instagramアカウントで、抱卵したGonatus onyx(テカギイカ)のメスの動画を投稿しました。なお、この映像はInstagramで見やすいように90度回転されています。

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卵が成長するために必要な期間は6カ月から9カ月と推定されており、その間母イカはチューブ状の卵鞘(らんしょう)に包まれた2000〜3000個の卵をカギがついた腕でしっかりと抱きかかえつつ、腕をそっと伸び縮みさせて酸素が限られた深海の水を卵に送り込みます。

抱卵中のテカギイカのメスは、卵で口が完全にふさがれてしまうためエサを食べることができず、体内に蓄えたエネルギーだけを頼りにして泳ぎ続けます。サウスフロリダ大学の海洋生物学者であるブラッド・セイベル氏らは2005年の論文で、母イカの摂食用の付属肢がなくなっており、産卵前の母イカが卵の邪魔にならないように自分で腕を食いちぎった可能性があると指摘しました。

テカギイカは、エネルギーを使わずに浮くことができる中性浮力を持っていますが、抱卵中は素早く泳ぐことができないので、深海に潜る海洋哺乳類に見つかれば格好の標的になってしまいます。セイベル氏らの研究では、潜水艦の接近に気づいた母イカがエネルギーを振り絞って腕を動かし、成熟した卵を早期にふ化させる様子が観察されました。

また、この研究では、卵が成熟するにつれて母イカの筋肉や消化器の機能が徐々に低下していくことも確認されており、母イカは生涯に1度きりの繁殖を完了して子どもを卵からかえした後は死んでしまうと考えられています。



テカギイカは、産卵後に卵の世話をすることがわかっている2種類のイカの1種ですが、同じ頭足類の中にはさらに辛抱強い子育てが確認されたものがいます。

セイベル氏は2014年に発表した論文で、ホクヨウイボダコ(Graneledone boreopacifica)という深海のタコが53カ月、つまり4年半にわたって卵を守り続けた観察例を報告しました。