国内の店舗数を急激に増やしているバーガーキング(筆者撮影)

テイクアウト需要が高く、コロナ禍でも勝ち組といわれたハンバーガーチェーンだが業界内での競争は激しい。そんな中で存在感を高めているのが「バーガーキング」(運営はビーケージャパンホールディングス)だ。

発祥国のアメリカではマクドナルドに次ぐ店舗数を持ち、1993年に日本に進出して30年経つ。だが当初は8年で日本市場から撤退、6年後に再び進出するなど、日本市場を攻めあぐねていた。それが近年、急激に店舗数を増やしている。躍進の背景を野村一裕社長に聞いた。

店舗数は約3年で倍増

「国内店舗数は204店(2023年11月末見込み)となり、約3年で倍増しました。売上は2019年から毎年、前年比130%以上を達成しています」(野村社長)

キリンビール出身の野村社長が同社に入社したのは2019年のこと。同年5月末には不採算店舗などを閉鎖して国内店舗数は77店にまで落ち込んだ。

そこから巻き返して国内店舗数を拡大。首位の「マクドナルド」(2970店/10月末時点)や2位の「モスバーガー」(1297店/10月末時点)とは依然として差が大きいものの、国内200店を超え、街でもよく見かけるハンバーガーチェーンとなった。

反撃を開始するにあたって野村社長が重視したのが、強みを再認識して訴求することだった。

「看板商品の『ワッパー』は、“とてつもなく大きい”という意味です。そして100%ビーフパティを鉄板ではなく、直火でじっくり焼いています。2020年1月から『直火は、うまい。』を打ち出しました」(野村社長)

取材前、都内の店舗に足を運び、「ワッパーチーズセット」(税込み990円)を注文した。提供された商品の下に敷く紙(トレイシート)にも直火の文字が入っていた。


ワッパーチーズセット。トレイシートには直火であることが強調されていた(筆者撮影)

「2020年春からのコロナ禍はファストフード業態には追い風となりました。当社も、それまで全売上に占めるデリバリー率は5%未満だったのが20%超となり、通常生活に戻った現在も維持しています」(野村社長)

直火焼きでの調理は、店頭で頼むと時間がかかり、お客さんにはストレスになる。そこでモバイルオーダーにも注力する。スマホで注文すると調理してくれ、待つことなく受け取れる。支払いはクレジットカードで決済。公式アプリの会員になればクーポンが利用でき、割引率も高い。前述の「ワッパーチーズセット」は税込み740円で購入できる(2023年11月時点)。

利用客の20代男性は、「セットメニューもあり、ボリュームを考えると割安感があります」と言う。

メニューには、550円、600円、650円のバーガーセットも各3種類ある。朝〜夜まで、土日も利用できるなど利用客の使い勝手も意識しているようだ。

「ガツンと食べたい」消費者を取り込んだ

「今年は4回、食べたい放題イベントを実施しました。バーガーキングの16店舗で『デラマキシ ザ・ワンパウンダー』を45分間、食べたい放題で味わっていただく企画で、参加費は3900円。チケットは全16店舗で1412枚を販売しました」(野村社長)


キリンビールから転身、「バーガーキング」の立て直しに成功した野村一裕社長(撮影:ヒダキトモコ)

「デラマキシ ザ・ワンパウンダー」は10月27日から期間・数量限定で販売するメニューで、バンズにビーフパティ4枚、ベーコン4枚、チーズ4枚とフレッシュ野菜が挟み込まれている。1個当たりの総カロリーは1599キロカロリーで総重量は582グラムもある(※)。11月の食べ放題ではこれを味わえ、フレンチフライとドリンク(各Mサイズ)もおかわり自由だった。

※栄養成分等の数値は配合に基づいた標準値。総重量には個体差がある。


店舗の入り口(右)に掲げた「デラマキシ ザ・ワンパウンダー」(筆者撮影)

バーガーキングの通常バーガーも、一般的なハンバーガーの約1.4倍のサイズだが、最近は“ガツンと感”をさらに強めている。健康志向の時代に、なぜこうした戦略を取るのか。

「さまざまなことをガマンする生活が続き、どこかで発散させたい思いがあると感じます。『食べたい放題イベント』には女子高校生が3人で参加していたこともありました。最近は全体の顧客層も広がり、2019年は45歳以上の男性客が中心でしたが、現在は女性客も増えています」(野村社長)

食べ放題のチケット購入者には、限定ワンパウンダーTシャツ+限定ワッパーケースもつけた。これは身に着ける品で“ブランドを思い出してもらう”狙いもあるだろう。

「カネがなければ知恵を出す」の広告施策

近年のバーガーキングはSNSでも話題になることが多い。

ある日、「バーガーキング下北沢店作ってくれや」というファンからのツイートがあった。約半年後、実際に下北沢駅南口店(東京都世田谷区)のオープンが決定し、公式ツイッター(現X)で「作ってんで! オープン初日にお待ちしております。」とリプライした(ツイートした本人には引用許可を得た)。2019年11月、このやりとりを準備中の店舗に大きく掲げたのだ。


新店舗準備中に「作ってくれや」「作ってんで」を掲げた下北沢南口店(写真提供:ビーケージャパンホールディングス)

2020年1月には、バーガーキング秋葉原昭和通り店のポスターに、閉店する近隣のマクドナルドに対して「22年間たくさんのハッピーをありがとう。」と記した以下の文面を掲げた。


文面の冒頭を縦読みすると……(写真提供:ビーケージャパンホールディングス)

表向きは競合店へのエールだが、文面の冒頭を縦読みすると「私たちの勝チ」になる仕掛けだ。これも話題となった。

「広告予算が限られているので、話題性も意識しながら商品やブランドらしさを訴求してきました。みなさんの話題のネタになればと思っています」(野村社長)

あと5年で店舗数はさらに3倍を目指す

余勢を駆って「2028年をめどに600店を目指す」と言う野村社長。残された課題は何か。

「人材を大切にすることです。1店の運営には40人近い人員が必要ですが、社員は1〜2人。残りがアルバイトやパートさんです。雇用形態や国籍にかかわらず人材の重要性を再認識しています。企業体力はついたので、出店に向けた良い物件を探していきたい」(野村社長)

ライバルとして意識するのは意外にも他業態だ。

「消費者調査をすると『ラーメン二郎』『蒙古タンメン中本』といった個性的なラーメンチェーンと比較する声も目立ちます。これからも、らしさを前面に訴求したいと思います」(野村社長)

アメリカ本国では圧倒的なプレゼンスを誇る「バーガーキング」。日本でも、この勢いで有数チェーンへとのし上がれるだろうか。

(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)