虐待増加と、少年たちが非行に走る背景についてさらに詳しく取り上げます(写真:Luce/PIXTA)

元法務省職員でこれまで1万人の犯罪者・非行少年を心理分析してきた犯罪心理学者の出口保行氏の最新刊『犯罪心理学者は見た危ない子育て』では、子どもの将来を壊しかねない、家庭教育にひそむ危険性について解説している。

回転寿司チェーンで撮影された迷惑動画、新宿歌舞伎町を荒らすトー横キッズ、闇バイトとして強盗や詐欺に加担させられる若者たち……。なぜ少年たちは非行に走るのか。

ここまで3回の記事で過去のケースとともに紹介してきた。今回の記事ではそうした変化の背景についてさらに詳しく取り上げていく。

なぜ虐待が増加しているのか

厚生労働省がまとめたところによると、児童相談所への児童虐待の相談件数は増え続け、令和3年度は20万7660件です。

なぜこんなに虐待が増えているのでしょうか?

まず、かつては家庭内の問題として見過ごされてきたものが、「虐待は犯罪である」という認識が広まり、社会として対応するようになってきたことが1つです。とくに「児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)」が2000年に施行されてから法整備が進み、2019年の改正では体罰が明確に禁止され、児童相談所の介入機能が強化されました。

同時に、社会環境の変化で、親ひとりにかかる子育ての負荷が増加していることが挙げられます。ひとり親家庭、貧困、ワンオペ育児など親自身に余裕がない中で、ひずみが子どもに向かってしまうのです。

非行少年の中には、虐待を受けてきた少年たちが多くいます。虐待から逃れるために非行に走るケースも少なくありません。これは「虐待回避型非行」と呼ばれています。家出だけでなく、そのための原資を獲得しようと金品を持ち出したり、万引きしたりといったことを含みます。

これだけでは終わりません。当初の目的が薄れて、次第に非行が本格化します。遊びのために家に居つかなくなる、金品やスリルを求めて万引きを繰り返すといったように目的が変化し、刺激や快楽を求めた非行に移っていきます。

彼らにとって、家よりも非行集団の中にいるほうが心が安定します。お互いに傷をなめ合うような関係性であっても、そちらのほうがいいのです。家庭を回避する以上に、積極的な気持ちで非行集団と関わるようになります。

以前、全国の少年鑑別所に収容されている少年を対象に「心理的距離」の調査を行ったことがあります。SD法という心理学的手法により、父親、母親、きょうだい、友だちなどについて心の距離を調べたところ、家族よりも友だちのほうが心理的距離が近いという結果が出ました。

「家族はわかってくれる、自分を認めてくれる」「家族には何でも相談できる」と思えるような家族が本来だと思うのですが、彼らにとってはそうではないのです。むしろ、非行集団にいる友だち、親友を頼りにしており、大切に考えています。

暴力団がイメージしやすいかもしれません。絆の強い「疑似家族」が作られており、家族のためなら何でもできるというくらいになります。

私は暴力団メンバーの心理分析もずいぶんやりましたが、組長のことを「親」と呼んで慕っている姿をよく見ました。親のように指導してくれたことがうれしく、「こんな自分の面倒を見てくれた親のためなら、何でもします」と言うのです。場合によっては、敵対集団を1人で襲撃するヒットマン役を買って出ます。

非行集団に入る少年たちは、その集団が悪いことをやっているのはわかっています。危険なことをしていると知っています。でも、家よりこっちのほうがいい。そう思う気持ち自体は、わからなくありません。

愛情飢餓状態につけこむ「犯罪の誘い」

保護者からじゅうぶんに愛情を得られないまま育つと、愛情飢餓状態が続きます。愛情飢餓状態では、ごく普通のやさしさにも過剰に反応し、強く惹かれやすくなります。

そもそも、無関心な親に育てられた子はコミュニケーションに問題を抱えていることが多く、「誰からも相手にされない」と孤独感を強めています。そんなときに、やさしくしてもらったら……。社会的な視野も狭いので、「この人しかいない」「この人のためになら何でもできる」と思うことさえあるのです。

プロ犯罪者からすると、ちょろい相手です。やさしい言葉をかけて疑似家族や疑似恋人のようになり、ここぞのときに犯罪の手先として使います。なんと悲しいことでしょう。

少年鑑別所で心理分析をする中で、こういったパターンで非行に走った何人もの少年に出会いました。彼らは、非行の事実を認め「後悔はしていない」と言っていました。恋人のためにやったことだから。恋人のためになったと信じているからです。「利用された」なんて、とても認められないことでしょう。

私が見たケースの中には、恋人のために臓器売買に加担した人もいました。やさしくしてくれて恋人になった人は、実は臓器売買を仕事にしていた。子どもの臓器を外国に売り飛ばすのです。

それでは、どこからその臓器を手に入れているのでしょうか? 普通は、そんなことがわかったら恐ろしすぎて逃げるか何かするでしょう。ところが、彼女は恋人のために手伝うことにしたのです。

「捨てられたくないから」

そう言っていました。重大な罪であることがわかっていても、恋人に捨てられたくないからやるのです。そして、手先となって危険な部分を手伝わされ、逮捕されます。こんなことがあってはならないと強く思います。

半グレという新しい組織

前回3回目記事の事例に出てきたリントは、半グレメンバーでした。半グレとは、暴力団のような明確な組織ではないものの、集団で犯罪を行う新興の組織です。もともとは暴走族から発展して組織されたものが多かったのですが、いまは暴走族自体が下火です。地域の不良集団が徐々にテリトリーを広げる中で組織化されたものが増えています。

暴力団は組織ありきですが、半グレは基本的に個人の集まりであるのが特徴。個人の目的のために犯罪を行いつつ、都合よく組織を使います。バックにこんな怖い組織がついているんだぞと見せられることが重要なのです。組織のためにお金を稼いでいるわけではありません。

どちらも反社会的組織であり、同じようなことをやっているように見えるかもしれませんが、半グレに所属している人と、暴力団に所属している人では求めているものが違います。リントがそうであったように、半グレがいいと思う人は、権威や居場所は求めているけれど、暴力団のような疑似家族的組織はわずらわしい。

一方、暴力団メンバーは「半グレなんて絶対に嫌だ」と言います。暴力団メンバーは親や兄貴に認められ、面倒を見てもらい、その代わり組織のために体を張るというその関係性を求めていることが多いのです。

近年、暴力団構成員の数は減少を続けています。取り締まりが厳しくなっており、暴力団では飯が食えないということもあるでしょう。同時に、暴力団内部での関係性が昔ほど求められなくなってきている面もあると思います。半グレのような、個人の集まりとしてのゆるやかな組織を求める人が増えているのです。

実際、半グレメンバーは増えています。ただ、暴力団と違って構成員が明確になっていません。お互いに名前を知らないことも多いくらいです。そのときは一緒にチームを組んで強盗をやったけれど、誰なのか知らないということが普通にあります。この匿名性の高さが、居心地のよさにつながっているのかもしれません。

警察は、半グレも暴力団と同じような認定(準暴力団)をしており、摘発することができます。約4000人の半グレメンバーを把握し、情報収集を行っているとも言われています。ただ、どこからどこまでが構成員なのかを見極めるのは困難であるのが現状です。

最近、飲食店などでの迷惑行為を撮影した動画をSNSに載せ、炎上して問題になった事件が相次ぎました。回転寿司チェーンで醬油さしに直接口をつけたり、カラオケ店でソフトクリーム機器から直接食べたりといった不快で迷惑きわまりない動画、カラオケ店の消毒用スプレー缶にライターで引火させるなど危険行為の動画など、キリがありません。

また、ホームレスに嫌がらせをして笑いものにするような動画も多くアップされ、問題になりました。社会的弱者を攻撃するという許されない行為です。こういった迷惑行為動画はまたたく間に拡散され、行為者が特定されていきました。

満たされていない承認欲求と歪んだ自己顕示欲

なぜ彼らは、わざわざこのような迷惑行為を世間に知らしめようとするのでしょうか?

中には、仲間内の「悪ノリ」の延長線上でやったことで、ここまで拡散されて大きな問題になると思っていなかったという人もいます。迷惑行為自体がダメですが、SNSに対する認識の甘さが感じられます。仲間内にのみ見せたつもりでも、それが切り取られるなどして拡散されれば一気に広まり、止めることができません。

もちろん、多くの人に拡散されることを狙ってやっている人もいます。視聴数を稼ぐために迷惑行為を動画にしている迷惑系ユーチューバーも然り。人が見て不快になるような迷惑行為動画は、手っ取り早く視聴数を稼げるという考えです。

いずれにしても、背景には歪んだ自己顕示欲が見えます。目立つためなら、話題になるためなら、手段を選ばないというのは普通の感覚ではありません。


歪んでしまうのは、承認欲求が健全に満たされていないからです。家庭内でじゅうぶんな愛情を受け、承認されていれば、わざわざ悪いことをして注目を集めたいとは思わないはずです。

すべてを家庭の問題につなげるつもりはありませんが、歪んだ自己顕示欲の裏には、生育歴の中で「承認されてこなかった」背景があると考えます。

なお、メディアでは通常これらの問題を伝えるとき「迷惑行為」と表現していますが、私はこの言い方はよくないと考えています。れっきとした犯罪だからです。回転寿司チェーン「スシロー」をはじめ多くの企業が受けた損害に対し、刑事・民事の双方から厳正に対処すると発表しました(威力業務妨害罪、器物損壊罪、賠償責任など)。

「軽い気持ちでやったイタズラでした、ごめんなさい」で済む話ではありません。こういった世間を騒がすニュースは、家庭でも1つの材料として「絶対にやってはいけないことだ。犯罪だよ」と教えてあげてほしいと思います。

(出口 保行 : 犯罪心理学者)