ChatGPTやBingなどの生成系AIは、文章作成にも活用することができます(写真:ほんかお/PIXTA)

150字程度の要約を書き、生成系AIにそれを500字程度の文章にしてもらう。そこから推敲を繰り返して、自分の文章とする。これが、「逆向き文章法」だ。よい文章を書けるのは、よい要約を書ける人であり、それは、よいアイデアを持っている人だ。

昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第93回。

質問をするのでなく、要旨を拡大させる

ChatGPTやBingなどの生成系AIに文章を書かせるには、2つの方法がある。

第1は、疑問を投げかけることだ。例えば、「2022年の日本の貿易収支の動向について教えてください」というように。

第2は、指示を与えることだ。要旨を示し、それをもっと長い文章にしてもらう。生成系AIは長文の要約を作成してくれるが、その逆をやってもらうのだ。これを「逆向き文章作成法」と呼ぶことができる。

これら2つの方法のうち、第2の方法を採用されることを強くお勧めする。なぜなら、第1の方法では、文章の内容をあなたがコントロールすることはできないからだ。

「公表する文章を書くのが目的ではなく、何かについて情報を得たいのでこの方法を用いるのだ」と考える方がいるかもしれない。しかし、その考えは間違っている。なぜなら、ChatGPTやBingなどの出力内容は、ほとんど信用できないからだ。事実の誤り、論理の誤りなどがきわめて多い。

情報を得るのが目的であれば、従来タイプの検索エンジンを用いるほうがはるかに確実だ。生成系 AIを用いた検索エンジンによって従来型の検索エンジンが駆逐されるようなことが起きるとは思えない。

そこで以下では、「逆向き文章法」の具体的な手続きを述べることとしよう。

なお、以下では、経済問題についての論考を書くことを想定するが、他のジャンルの文章の場合も、基本的には同じ方法で行うことができる。

指示は詳細に行う

指示は、できるだけ詳細に行う必要がある。経済問題に関する文章の場合、以下のようにするのが適当だろう。

第1に、最近のデータを求める。指示をしないと、生成系AIは古いデータを参照することがある。しかし、経済問題については、古いデータは役立たない場合が多い。

第2に、データや資料の参照先を限定し、かつ出所のURLを求める。これはChatGPTなどの生成系AIが提示するデータや資料に信頼が置けないため、それを元のサイトで確認するためだ。

具体的には、次のように指示する。「データや資料は、できる限り最近のもの、そして、政府、公的機関、国際機関のもの、あるいは新聞記事を参照してください。また、データ出所のURLも示してください」

ただし、示されたURLに当該データが見つからない場合も多い。あるいは、示されたURLが国際機関などのホームページのものであるため、膨大なウェブサイトのどこに当該データがあるかがわからず、役に立たない場合もある。

日本語の場合、文語体と口語体のいずれで書くかという問題がある。いずれにするかを自由に選択できず、どちらかの文体にしなければならない場合が多い。ところが、生成系AIを相手にすると、これが意外に面倒だ。

口語体の文章が必要な場合、単に「口語体」と指定するだけでは、「……だよ」のように過度に砕けた表現になることがある。そこで、つぎのように指示する。

「つぎの内容を**字程度の口語体で書いてください。口語体とは、「です、ます調」のこと。ただし、日常会話のような砕けた表現でなく、正式な文章の口語体としてください」

文語体を求める場合には、つぎのように指示する。

「つぎの内容を**字程度の文語体で書いてください。文語体とは、「だ、である調」のこと」。

このように指示したにもかかわらず、それに従ってくれない場合も多い。とくに、「正式な口語体」にしてくれない場合が多い。文語体の場合も、「だ」とすればよいところを、やたらと「である」にするなど、思いどおりにならない場合が多い。

この問題はおそらく日本語に特有のものであり、アメリカ生まれの生成系AIにとっては苦手なものなのだろう。

3000字書くなら6回程度に分ける

ChatGPTやBingなどの生成系AIでは、入力でも出力でも、字数の制約がある。厳密に定められているわけではないが、日本語の場合、入力、出力とも、2000字以上は処理できないことが多い。

1000字程度なら、多くの場合に問題ないが、答えが途中で切れることもある。入出力とも500字程度までにしておけば、まず間違いなく処理してくれる。だから、例えば最終的に3000字程度の文章がほしい場合には、6回程度に分けることが必要だ。

具体的には、つぎのように進める。

まず、150字程度の要約を書く。これはツイート程度の長さだ。

そして、すでに述べたデータや文体などに関する指示文を最初に置き、500字程度の文章を書くよう指示する。

適切な文章が得られない場合は、要約文を変えて再度試みる。

3000字の文章がほしいなら、上記の過程を6回行う。

そして、ほぼ望みどおりの文章が得られたら、あとは、あなたが推敲する。AIが出力した文章を修正し、構成を変更し、表現を洗練するのだ。そして、あなた自身の文章に仕上げていく。

以上で述べた「逆向き文章法」は、文章を書く最初の段階を起動させるのに有効だ。

文章を書く場合に最も難しいのは、書き始めることなのである。つまり出発慣性が大きいのだ。この段階を生成系AIの力を借りて突破しようというのが、「逆向き文章法」の神髄である。

「3000字の文章を書く必要があるのだが、どこから手を付けてよいのかわからない」といった場合があるだろう。

確かに、いきなり3000字の文章を書くのは大変だ。しかし、ツイート程度の文章を6本書くことはできるだろう。それによって「逆向き文章法」で3000字程度の文章が得られれば、それを修正することで作業を進めていくことができる。何もないところで文章を書くのは困難だが、文章を直すのは、それより容易なのだ。

ただし、この作業にはかなりの時間がかかることもある。だから、文章を書く時間が全体として短くなるわけではない。重要なのは、文章を書く作業が楽になることだ。

出来上がったものは、AIが出力したものとは大きく異なるものになるだろう。場合によっては、AIが出力した文章は、影も形もなくなるだろう(できれば、そうなるまで推敲を続ける)。そうなれば、これはAIが書いた文章ではなく、あなたが書いた文章だ。

良い感性、アイデアを持っている人が良い文章を書ける

以上の過程において、文章を書く主導権は人間が握っている。AIは補助しているだけだ。

だから、誰もが同じ結果を得られるわけではない。重要なのは、出発点での良い要約だ。良いアイデアを持っている人がより要約を書ける。そして良い文章を書くことができる。また、文章に関して正しい感性を持っている人が、推敲過程を通じて、良い文章に仕上げることができる。

文章を書く方法がこれまでとは変わるのだが、良いアイデアを持ち、よい感性を持っている人がよい文章を書けることに変わりはない。

なお、言うまでもないことだが、データの分析作業などがあるときには、この方法だけですべてを書くことはできない。また、新聞記者のように取材して書くことも、この方法だけではできない。ただし、分析結果や取材内容をまとめるためには有用だろう。


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(野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授)