アテストテントで、オチョアをハグで祝福する宮里。次こそ宮里の番だ (Photo JJ.Tanabe)
 帰国前の米ツアー最後の試合で初優勝を――日本中の期待を一身に浴びていた宮里藍はよくがんばった。がんばって5バーディ、1ボギーの68と健闘したが、優勝できなかった理由は、やっぱり相手が悪かった。単独首位で最終日を迎えたメキシコのロレーナ・オチョアの勢いは、宮里のそれを上回る7バーディ、ノーボギー。優勝はオチョア、宮里は4位。結果として宮里は「負けは負け」ではあるけれど、これは悔しい負けというよりも、むしろ未来の初優勝へ向けて、好感触を得た実りある大会だった。

 前日からオチョアは自信に溢れていた。宮里の「I try to win.」という優勝宣言を伝えたときも、オチョアは「私は私のゴルフをするだけ。アイのことは気にせず、がんばる」と答え、ニンマリと笑った。そのニンマリは自信そのもの。そして、その自信はスコアリングの決め手であるパットにはっきりと表れていた。宮里の感想も「ロレーナとはパッティングに差がある。決めるべきところでよく決める。チャンスを作っていく感じが違う」と、敗北の理由をそこに見い出していた。とはいえ、宮里は宮里で、自らのパットの自信を高めた。「クロスハンドは今後もやっていきます。4日間、安定して、いいストロークができた。日本に向けて、いいきっかけになったと思います」。

 強いて言えば、ロレーナと宮里の差は、目標設定にも表れていたと思う。宮里は「1日4アンダー」を目標に掲げ、初日から3日目まで、きっちりとその目標をクリアしてきた。そして最終日は通算で「20アンダーを目指していた」とプレー後に告白。つまり、最終日だけは「1日7アンダー」を目標にプレーしていたのである。ところが、オチョアのほうは「記録を破る10アンダーで回りたかったのよ」と告白。となると、オチョアと宮里にはスタート前から目指すところに差があったことになる。どこを見つめ、何を目指すか――。それはゴルフにおいて大きな違いを生む。もっと言えば、自らの実力や経験、自信に基づき、どこを見つめることができるか、何を目指すことができるか――。それが勝者と敗者の分かれ目になるのだろう。

 こんなふうに言ってしまうと、まるで敗者の宮里ががっかりしていたのかと思うかもしれない。勝てなかったのは事実だが、宮里はむしろ晴れ晴れとした表情だった。もちろん、何かを感じ、何かをつかみ取ったからこそ、その収穫に喜びを感じていたのだ。今季4度目の最終日最終組。「回数を重ねることで確実に自分のプレーができていったと思う。思った以上に、そういう経験ができたのは、うれしい誤算でした」。アメリカでのこの8カ月を振り返ると、「よくがんばったと思う。優勝するには、精神状態とフィーリングが噛み合わないと……。運もないと勝てない。でも、(ショットや攻め方の)バリエーションは確実に増えた」。

 これだけ得れば、収穫は大きすぎるほど大きい。その収穫は必ず日本ツアーでの成績や今後の米ツアーでの活躍に反映されるはずだ。まもなく日本。「すごく久しぶりで楽しみの部分もある。どれだけ(自分が)がんばってきたかという成長を実感できるかも。楽しみにしてます」。日本で宮里を待ちわびる大勢のファンも、彼女の帰国と日本ツアー参戦を楽しみにしている。「帰国したら何をしたい?」と問われた宮里は、ビッグスターゆえ「日本では何もできないですね」と自由のないハードな日々を思いながらも、やっぱり母国へ久しぶりに戻ることに、うれしさを感じている様子だった。アメリカへの思い、日本への思い。いろんな思いを21歳の胸の中で交錯させながら、アイ・ミヤザトの米ツアー挑戦劇はひとまず終わった――。