●役作りのポイントは「喜怒哀楽のある無表情」

『コボちゃん』『フリテン君』などの人気4コマ漫画で知られ、今年で画業51年を迎えた植田まさし氏の代表作『かりあげクン』が、BS松竹東急のドラマとして初めて映像化される(7日スタート、毎週土曜23:00〜)。ドラマ版は劇団ヨーロッパ企画が脚本を手掛け、1話に複数のショート作品を組み合わせたテンポの良い痛快ドタバタコメディに変身。空気を読まないイタズラ好き、でもなぜか周りから慕われている永遠の平社員・かりあげクンこと、かりあげ正太は俳優の戸塚純貴が演じる。

原作と同様に表情を変えることなく、係長や課長、さらには社長にまでイタズラを仕掛けていくかりあげクン。今回は戸塚に、その“無表情”にこめた思いやかりあげクンの役作り、主演としての意気込みのほか、2022年の締めくくりと2023年の目標を聞いた。

俳優の戸塚純貴 撮影:泉山美代子

○■原作の世界観を崩さない絶妙なラインの実写化に

――まずは今作への出演が決まったときの心境を教えてください。

主演という立場に驚きましたが、『かりあげクン』という誰もが知っている作品に出演させていただけることが非常にうれしかったです。偉大な原作の持つ力に僕も負けてはいけないなと身の引き締まる思いでした。

――脚本を読んだときの印象を教えてください。

ヨーロッパ企画さんの手で、『かりあげクン』の世界がすごく面白く描かれているなと。ちょっとブラックな一面や、社会風刺のような要素もちゃんと反映されていて、この時代に放送されるドラマとして仕上がりつつも、原作の世界観を崩さない絶妙なラインになっていると思います。



○■役作りのポイントは「喜怒哀楽のある無表情」

――改めて、かりあげクンをどんなキャラクターだと解釈しましたか。

真っ先に気になったのは“無表情”というト書きでした。かりあげクンは悪いヤツに見えてはいけないけれど、いいヤツに見えてもいけないというすごく難しいキャラクター。その中で“無表情”が何を意味するのか監督とすごく話をしました。かりあげクンが笑ってるときには他の人が笑っていなかったり、逆に他の人が面白いと感じているときかりあげクンはそうじゃなかったり。独自の世界観や感性を持っているから、周囲とのギャップで無表情に見えているんだと思ったんです。無表情と一括りにすると表現としてもったいないので、一見無表情に見えているときでも、かりあげクンの中では実はすごく笑っていたりと「喜怒哀楽のある無表情」を意識しました。

――もしかりあげクンが近くにいたら、仲良くなれていると思いますか。

うん、思いますよ。かりあげクンは人にいたずらすることが生きがいで、誰かが嫌だと感じることや驚くようなことばかりしているんですけど、なぜかまわりにたくさん人が集まってくる。実はイタズラって、「相手はこう思うかな」と考えられる人だからこそできるものなんじゃないかと。誰よりも相手の気持ちに敏感じゃないと裏をかくのは難しいと思うんです。だからかりあげクンって、本当は誰よりも人の気持ちが分かる人なんじゃないかな。

●2023年の目標は「役者として健康的に作品に臨む」

○■主演の経験が役者として1つ上のステージに

――ドラマ発表時のコメントでは「監督やスタッフ、お客さんを驚かすという意味ではとても精神が似ている」と自身とかりあげクンの共通点を挙げていましたが、具体的に教えてください。

かりあげクンが、他人が想像できないイタズラをするように、役者もまた監督やスタッフさんが予想できないお芝居をアウトプットし続けなきゃいけないので、重なる部分があります。かりあげクンの姿は勉強になりました。

――戸塚さんは、役者として「意表を突くお芝居をしよう」という思いが高いモチベーションになっているんでしょうか。

そんなことばっかり考えています(笑)。敢えて表現を変えてみようという挑戦を大事にしていますね。



――その考えを持つきっかけになった方はいますか。

ジム・キャリーです。本当にずっと大好きで。『エース・ベンチュラ』という映画があるのですが、もうめちゃくちゃなことをしているんですよ。共演者のリアクションもどこか違和感があるので「これ絶対台本通りにやっていないな」という。でもそれがOKになって映画として届けられているわけで、役者として憧れます。

――ジム・キャリーに影響を受けているなと自身で感じることはありますか。

ちょっと天邪鬼なところがあって、「こうして」と言われたことと違うことをやりたくなるんです。言うことを聞きたくないというか……いや、言葉にするとなんだかめんどくさいヤツですね(笑)。でも違うことをしてみたくなっちゃう。役者というお仕事以前に、もともとの性格がこうなんです。昔から、人の驚いた姿を見て楽しくなっているタイプでした。

――主演だと、そういったお芝居に挑戦しやすいのでは。

今回は特に、キャスト、監督、スタッフ、皆が自由にアイデアを出し合える現場だったと思います。

――主演としてそんな現場を作る側の立場でもあったと思うのですが。

うまくいかないことももちろんあって、それも含めてすごく勉強になりました。「現場を自分で作っていく」という環境に置かれたときにどうすればいいかという経験は、普段お芝居をするだけではないもう1つ上のステージに進んだ感覚がありました。



○■2023年の目標は「役者として健康的に作品に臨む」

――では最後に、戸塚さん自身についてお伺いします。2021年末のインスタグラムでは「自分なりに悔いのない日々を過ごした2021年」と綴られていましたが、2022年も悔いのない1年になりましたか。

おぉ……もう年末なんですか、この質問が来るということは(笑)。あっと言う間ですよね!(※取材は11月中旬)

――そうなんです。さらに、昨年のインタビュー記事の中で「2022年の目標は文句を言わない」「マネージャーさんへの文句が多いため」と掲げているのも拝読したのですが。

今年も多かったよね?(マネージャーを見て笑う)文句ばっかり言ってますよ、僕!(笑)

――“未達成”ということでよろしいでしょうか。

未達成だな!(笑)確かに、僕そんなことを言っていましたね……2022年は「反省の年」「有言実行ならずの年」にしておこうかな(笑)。

――では最後に役者として、2022年の締めくくりと2023年の目標をお願いします。

2022年は舞台にも出演させていただきました。舞台に上がると常に見られているので、休憩できないしごまかしが利かないということをすごく感じて。有り難いことに出演作品が重なった年だったので、何作品も同時進行していると、「時間があればもうちょっとできたのに」という思いがどうしても出てくるんですよね。でもそれって作品に対して紳士的じゃないし、不健康。だから2023年は、時間や環境を言い訳にせず、作品に対して妥協しない、役者として健康的に作品に臨むことを目標にします。「文句を言わない」という目標は言いません! 文句は言っていきます!(笑)



■戸塚純貴

1992年7月22日生まれ、岩手県盛岡市出身。2010年「第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で「理想の恋人賞」を受賞し、2011年、ドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン☆パラダイス〜2011』で俳優デビュー。2012年9月には特撮ドラマ『仮面ライダーウィザード』に出演した。近年の出演作にドラマ『警視庁ゼロ係〜生活安全課なんでも相談室〜』、『純喫茶に恋をして』、『教場II』、『遺留捜査』、『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール〜』、『ユーチューバーに娘はやらん!』、『恋なんて、本気でやってどうするの?』、舞台『VAMP SHOW ヴァンプショウ』など。2023年は、1月6日放送のテレビ東京系ドラマ『ホリデイ〜江戸の休日〜』、1月14日放送のフジテレビ系ドラマ『イチケイのカラス スペシャル』に出演する。