Apple M1 Ultra

アップルが最上位となる新型Apple Siliconを、アップルのスペシャルイベントにて発表しました。といっても今回は、M2(仮)ではありません。M1系の最上位となる『M1 Ultra』です。

アップル製SoCらしく、搭載される機種も同日発表となっています。それが小型のプロ用Mac『Mac Studio』。日本でのM1 Ultra搭載モデルは49万9800円からとなります。

参考記事:

超強力Mac miniこと「Mac Studio」発表。M1 Max/Ultra搭載によりMac Proを凌ぐ高性能を実現

技術的な特徴は、なんとM1 Maxの半導体ダイ(半導体チップ本体)を2個接続し、2倍の規模となるSoCに構成した点。いわゆる「パッケージ内マルチダイ(マルチチップ)」的な構成となります。

これにより、最大性能はM1 Maxの2倍に。CPUコアは最大20基、GPUは最大64コアと、ただでさえ強力なM1 Maxの限界を押し上げるかのような性能を発揮します。

さらにM1系での“弱点”とされていた最大RAM容量も128GBまで対応となったことで、Mac Pro級の大規模アプリケーションにも対応できるようになりました。さらにRAMの最高転送速度は(ここもM1 Maxの2倍となる)800MB/秒に達します。

▲アップルが公開したチップ内模式図。中央にはM1 Max相当のダイが縦に2個並び、周囲を(従来のM1系と同じく)RAMチップが取り囲みます

さらに、M1系SoCで最大の特徴となる電力効率は、従来の良さをそのまま引き継ぐともアピール。

そうした点を裏付けるべく、イベントでは性能と消費電力に関して、コンシューマー向けWindowsデスクトップの最上位モデルと比較しています。

それも、CPUはインテル製のデスクトップ向け“Alder Lake”最上位となる『Core i9-12900K』と、そしてGPUはNVIDIAの最上位となる『GeForce RTX 3090』(3080ではない点がポイント)を搭載したPCとの対決です。

まずCPU性能は、M1 Ultraの最大消費電力(60W付近)で比較すると190%ほど高速という結果に。また最大性能同士での電力比較では、100W少ない電力で達成すると発表しています(ただしグラフ上の点線では、i9-12900Kの消費電力は160W付近なのに対して、M1 Ultraでは40W付近を示しているため、120Wほどの差となっている点に留意が必要です)。

さらにGPU性能では、RTX 3090に対してさえピーク性能が上回り、また最大性能での消費電力は200W以上少ないとアピール(こちらもM1 Ultraが100W付近、RTX 3090が320W付近なので、若干の相違がありますが)。

ピーク性能が“あの”RTX 3090以上という点でも特筆ものですが、電力効率が本当だとすれば驚きです(そしてM1 Maxの実績からして、本当である確率はほぼ確実でしょう)。

また、M1 Ultra搭載Mac Studioとしては、現行Mac Proとの性能比較も公開。CPU性能は、Mac Proの28コアXeon搭載モデルに対して60%高速に、GPU性能もRadeon Pro W6900Xに対して80%高速と謳います。

GPUはMac Pro側が最上位構成ではない点に留意が必要ですが(最上位はRadeon Pro W6900X Duo搭載)、それでも非常に強力である点は間違いありません。

さらに、いわゆるAI処理を担当するニューラルエンジンも、当然ながらM1 Maxの2倍規模となる、32基のコアに。アップル側は最高で「毎秒22兆回もの演算を実行可能」とアピールします。加えてM1 Maxの隠れた特徴であるメディアエンジンも、Ultraでは2倍の能力に。8K ProRes(422)ビデオストリームの同時再生では、最大18本までの処理に対応します。

さて、ここまで「2つのM1 Maxを接続して」と紹介してきましたが、技術的に見たM1 Ultraの特徴は、まさにここにあります。トピックとなるのは、2基のM1 Maxのチップを接続する『マルチチップインターコネクト』と呼ばれる回路です。

半導体ダイの接続はただでさえ複雑な回路を必要としますが、さらにM1 Maxのように高速なSoC同士では、性能を落とすことなくデータを流通させなければボトルネックとなり、全体としての性能が大きく低下してしまいます。

この問題に対して『UltraFusion』と名付けられたM1 Ultraのインターコネクトでは、1万を超えるシリコンインターポーザ(接続配線)を使い、また外付け回路を介さずに半導体ダイをそのまま接続します(つまりM1 Maxでは、インターコネクト部が作られていながら使われていなかったということになります)。

こうした設計により、インターコネクト部のデータ転送速度は、最高2.5TB/秒に。アップル側が「従来の先進的インターコネクトの4倍以上」と謳うこの回路で接続されることで、ボトルネックを回避しているというわけです。

また、M1 Maxの時点から接続が考慮されていたこともあり、「ソフトウェアからは1個のSoCとして認識される」設計になっている点も隠れたメリット。これにより、デュアルCPU構成などでまれに見られる、「片方分のCPUやGPUしか動作しない」といった互換性問題がない点も特徴としています。

なお、半導体としての性能に関係するトランジスタ数は、(当然ながらM1 Max2個分の)1140億個。アップル側は「パーソナルコンピュータ用チップでは史上最多」と称しています。

▲M1系4モデルの半導体ダイ比較。一番右のM1 UltraはM1比で7倍ものトランジスタ数となります

このようにM1 Ultraは、ただでさえSoCとしては異例の性能となるM1 Maxのダイを、(良い意味であまりにも力技的な)広帯域インターコネクトで結んだことで「M1 Maxの規模をほぼそのまま2倍にした」という、異例ずくめのSoCとなっています。

それゆえに、搭載モデルであるMac Studioは相応に高価ではありますが、これだけの性能を必要とするユーザーに取っては、得られるメリットはそれ以上となるはず。

そして良い意味で「M1 ProとMaxの実績がなければ信じがたい」半導体チップとしての規模とその性能……と呼べる、規格外的なモデルとなるのは間違いないところ。Mac Stuidioと合わせて、M1から続くアップル快進撃をさらに加速するSoCとなるか、大きく期待したい製品です。

Source:アップル ニュースリリース(日本語)