新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が東京の歓楽街を中心に再び増加しており、2020年7月9日には東京都の1日当たりの新規感染者数が過去最多の224人を記録しました。そんなCOVID-19について、軽症患者であっても脳に深刻な障害を受ける可能性があることが最新の研究論文により明らかになっています。

The emerging spectrum of COVID-19 neurology: clinical, radiological and laboratory findings

https://academic.oup.com/brain/article/doi/10.1093/brain/awaa240/5868408

Warning of serious brain disorders in people with mild coronavirus symptoms

https://www.theguardian.com/world/2020/jul/08/warning-of-serious-brain-disorders-in-people-with-mild-covid-symptoms

学術誌のOxford Academic上で公開された最新の研究論文で、COVID-19の合併症による脳の炎症やせん妄により、脳神経に損傷を受けた事例がまとめられています。報告によると、COVID-19の症状が軽症であっても場合によっては神経学的に大きな問題が起きるケースがあるそうです。

論文によると、イギリスにCOVID-19の第1波が到来した際、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と呼ばれる命の危機に関わる疾患の報告数が増加しました。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの神経学研究所によると、ADEMの症例数はCOVID-19のパンデミックが起こる1カ月前から4、5月にかけて、週に2、3例ずつ増加していったそうです。なお、COVID-19のの合併症としてADEMを発症した59歳の女性が死亡しています。

COVID-19の合併症としてADEMを発症した患者のうち、12人は中枢神経系に炎症を起こしており、10人がせん妄あるいは精神病を伴う脳疾患を発症。8人が脳卒中を発症し、さらに8人は末梢神経系に問題を起こしたことで神経を攻撃して麻痺を引き起こす免疫反応であるギラン・バレー症候群と診断されました。なお、ギラン・バレー症候群は発症者の5%が死に至る病です。

調査チームの一員であるユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのマイケル・ザンディ氏は、「COVID-19では、他のウイルスでこれまでに見たことがないような脳への影響が確認されています」「これらのADEM患者の一部と、他の症状の患者で見られたのが、重度の神経学的な病にかかっている兆候です。しかし、実際に診断してみると軽度の肺疾患(COVID-19)であることがわかりました」と述べています。

今回の報告について、イギリスの大手一般新聞・The Guardianは「COVID-19を完治した患者の長期的な健康への影響に対する懸念を高めるものである」と指摘。

論文で挙げられている事例のひとつは、COVID-19に感染した55歳女性のもの。この女性は過去に精神疾患を患ったことはありませんでしたが、COVID-19の症状から回復して退院した翌日から奇妙な行動を始めたそうです。女性はコートを着ては脱いでを繰り返し、家の中で猿とライオンの幻覚を見たと報告しています。その後、女性は病院に再入院し、抗精神病薬の服用により徐々に症状を改善しているそうです。

別の事例では、47歳の女性がせきと熱が出てから1週間後に右手に痛みと頭痛、麻痺を感じて入院しました。この女性は後に眠気が出てから無反応になり、頭蓋骨の一部を取り除く緊急手術を実施しています。

ザンディ氏は「我々は世界中の臨床医がCOVID-19の合併症に警戒することを望んでいます」と語りました。ザンディ氏は認知症状・記憶障害・疲労感・麻痺・脱力感を抱える患者に対して、COVID-19の合併症の疑いを持つべきと警告しています。

病院ではすべての患者に対して脳スキャナーを使った検査を行うわけではないため、COVID-19患者に起きているかも知れない脳疾患の全容はまだ明らかになっていません。ザンディ氏も「我々が今本当に必要としていることは、脳で実際に起こっていることを調べるためのより良い研究です」と述べました。

COVID-19が一部の患者に対して脳の損傷を引き起こす可能性があるわけですが、その影響は今後数年をかけてより広範に及ぶことも考えられます。「COVID-19に感染した人の脳に何も起こらないことを願うばかりですが、COVID-19のパンデミックは非常に多くの人が感染したため、どの程度の人の脳に影響がでているのかについて、今後注意を払う必要があります」とザンディ氏は語りました。