「オープン球話」連載第16回(第15回はこちら>>)

【甘いボールを平然と見逃し三振する凄み】

――さて、前回は現・横浜DeNAベイスターズのラミレス監督との思い出について伺いました。今回はその続きをお願いします。グラウンドを離れたプライベートでのラミレスはどんな人なんですか?

八重樫 見た目どおりですよ。とにかく明るい(笑)。特別、がぶ飲みするわけじゃないけど、陽気にお酒を飲むタイプかな? 当時、通訳だった近藤(広二)と3人で飲むんだけど、近藤も冗談が好きなタイプなのでワイワイにぎやかに飲んでいたね。


DeNAで就任5年前のシーズンを迎えたラミレス監督 photo by Sankei Visual

――やっぱり、話題は野球中心なんですか?

八重樫 野球の話もするけど、それだけじゃなくてバカ話も多いよ。そうそう、一度、(チャーリー・)マニエルの話題で盛り上がったことがあったな。

――1978年のヤクルト初優勝の立役者で、「赤鬼」と呼ばれたマニエルですか?

八重樫 そう。ラミちゃんはインディアンス時代のマニエルの教え子だから。前にもこの連載で言ったように、マニエルは日本の野球をすごくなめていたけど、ラミちゃんは彼を反面教師にしたのか、すごく真面目に日本の野球に取り組んでいた。それにしても、マニエルは全然練習しなかったよな。広岡(達朗)監督の言うことだけは真面目に聞いていたけど、それ以外の人の言うことは全然聞かなかったから(笑)。ラミちゃんとは正反対の性格だったよ。

――そして、2007年のオフに巨人に移籍します。ここで八重樫さんとラミレスとの関係はいったん終了しますね。巨人時代のラミレスをどう見ていますか?

八重樫 ますます円熟味を増したバッターになっていたよ。敵からしたら、すごくイヤなバッターになっていたね。ある試合で、初回にラミレスに打席が回ってきた時、彼は平然とボールを見逃したんだ。それも、厳しい球だけじゃなくて、甘いボールもピクリともしない。そして、何食わぬ顔で見逃し三振をして、ベンチに戻っていった。あれは印象的だったなぁ。

――甘いボールを平然と見逃して三振。それはどんな狙いがあったんですか?

八重樫 おそらく、ラミちゃんは「対投手」というより、「対捕手」という観点で打席に入ったと思うんだよね。この日のヤクルトバッテリーの攻め方を見極めるために打席に入っていたんだと思う。実際に、この日はホームランを含めて、ラミちゃんにすごく打たれたから。あれはラミちゃんの凄みを感じたな。

【八重樫による「監督・ラミレス」評は?】

――キャッチャー目線で言うと、相手の四番打者が平然と甘いボールを見逃すというのは、どんな心境になるんですか?

八重樫 それはすごく怖いものですよ。ピッチャーが投げた瞬間に、キャッチャーは「あっ、しまった!」と思う。一発を覚悟したのに、バッターは平然と見逃し三振。決して「裏をかいた」とは思わないですよね。むしろ、「今の見逃しにはどんな意図があったんだろう?」「何を狙っていたのか?」と怖くなる。現役時代の落合博満が、まさにそういうタイプだったな。

――その後、巨人からDeNAに移籍し、2016年からはDeNAの監督となりました。八重樫さんは「ラミレス監督」をどのように見ていますか?

八重樫 あれは、巨人に行く2年ぐらい前だったから、2006年ぐらいだったかな? この頃からラミちゃんは「将来は監督になりたい」って言っていたね。そして、「できればNPBの監督を」という希望を持っていたみたい。そういう意味では、現役時代から計画的に「将来は指導者になろう」という明確な意識を持って勉強していたんだと思います。


当時を振り返る八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi

――監督として今年で5シーズン目を迎えます。采配や用兵についての感想は?

八重樫 ラミちゃんはものすごく勝利に対して貪欲で、「絶対に勝ちたい」という思いがほかの選手よりも強いタイプだった。だから、監督就任1年目はあれもこれも気になって、「全部自分でやろう」という思いが強すぎて空回りしていた気がしますね。

――その点は改善されつつありますか?

八重樫 ラミちゃんもその点は反省して、自分で何でもかんでもやるのではなく、各担当コーチに任せる姿勢は見えてきていると思います。でも、そうなると次に問題となるのは各コーチとの意思疎通がどれだけできているのか、という問題。外国人選手としてNPB入りしたラミちゃんには、いわゆる「人脈」がない。彼のことをきちんと理解してあげられる人が周りにいればいいんだけど……。テレビでベンチが映るたびに、「大丈夫かな? 孤立していないかな?」って、ついラミちゃんの表情を見ちゃうんだよね(笑)。

【コロナ騒動収束後、選手たちには精一杯のプレーを】

――現状では、ベイスターズOBがコーチとして起用される傾向にありますね。今年も青山道雄ヘッドコーチ、田代富雄一軍チーフ打撃コーチ、木塚敦志一軍投手コーチなど、大洋と横浜のOBが並んでいます。

八重樫 それは仕方ないことだよね。でも、ラミちゃんももう監督5年目。過去4年でクライマックスシリーズに3度出場して、きちんと結果も残しているんだから、機は熟したと見ていいんじゃないのかな? 個人的にはNPBで優勝監督として結果を残して、それからMLBの監督を目指してほしいな。彼の熱意があれば、決して不可能じゃないと思うんだよね。

――さて、日本はもちろん、世界的にコロナウイルスの脅威が広がっています。高校野球、春のセンバツも中止が決定し、プロ野球の開幕も延期になりました。

八重樫 僕も、予定されていた野球教室がいくつも中止になりました。今はまだ落ち着いて野球をやったり、見たりする環境にはないのが現実かもしれないけど、ぜひこの騒動が収束したら、選手たちには精一杯のプレーを見せてもらいたいと、痛切に思うよ。

――本当にそうですね。明るく楽しい気持ちで開幕を迎えることを心待ちにしたいです。

八重樫 その時には、あらためて野球のありがたさを感じることができると思うな。いろいろ大変な時期だけど、みんなで力を合わせてこの難局を乗り切りましょう。

(第17回につづく)